楽園よ俺の腕に眠れ〜金の灼熱と終末の王〜

楢川えりか

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第2話 炎の子

2-6

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「俺は琥珀が大切だって言ったけど、俺がお礼にどうぞって言ったら、子供とはしないって」
 そっと、イラスの手が俺の髪を撫でる。
「そうだね、エトナさまは正しいよ。大きくなって、自分で大切なひとが選べるようになってからじゃないと」
 俺は今だって琥珀が大切だし、それは間違っていないと思ったけれど、子供が言うことだと取り合ってもらえなかったのかもしれない。
「イラスは、ベルデのことが大切なの?」
「うん。ずっと、小さなころから、大切なんだ」
 イラスはやさしい顔をしていた。さっき、あんなにつらそうだったのに。
「大切だったら、痛くない?」
「そうだね。全然痛くないわけじゃないけど、うれしい気持ちになる」
「そっか。イラスがいやじゃなかったらよかった」
 俺はそう言ったけど、でもやっぱりイラスはつらそうな顔をしている。俺は不安になって、もう一度尋ねた。
「ベルデもイラスのことが大切なんだよね?」
「そうだね。だけど、もうおしまいなんだよ」
 そう言ったイラスの声は震えていた。
「どういうこと?」
「ベルデはね、村に残してきた一族の女の子と結婚するから、今度は新しい家族を一番に大切にしないと。練習はもういらなくなるんだ」
 練習はいらないっていうことは、イラスはいらないっていうことなんだろうか。それは悲しい。大切だって思っているひとから、もういらないって言われるってことだろう。
「イラス、悲しい?」
「そうだね。でも、そういうものだから。僕たちの中で結婚できる男は少なくて、結婚できた男が次の長老になる。それで、大切なものが変わっていくのはあたりまえなんだ」
 彼がそういうものだというなら、彼の一族ではそうなのだろう。でも、そう言うイラスの顔は寂しそうだった。
「イラス、かわいそうだね」
 俺が思わず言うと、イラスはそっと俺を抱きよせた。
「ありがとう、灰簾」
 俺は、イラスの背中をぽんぽんと撫でた。時々、琥珀が俺にしてくれるみたいに。
 イラスは俺に体を預けてきた。俺はしばらく、イラスの元気が出るまで、そうしていた。
 その間に俺は、琥珀のことを考えていた。
 イラスはベルデが大切だけど、ベルデはもうイラスが一番大切じゃなくなる。それは俺と琥珀みたいだった。
 俺は琥珀が大切だけど、琥珀は俺のことが大切だろうか?
 たぶん、彼は子供が苦しんでいるのを見るのが好きじゃない。でもそれは、彼が助けられなかった弟のことを考えているからだ。俺が偶然、彼の前で助けを必要としていたからにすぎなくて。俺以外でも、それは誰でもよくて。
 彼が俺をかわいがって助けてくれるのは、彼が自分の弟にできなかったことだから。
 そのことを考えると、息が苦しくて、俺は少しだけいやな気分になった。ずっと、知っていたことなのに。
 だから俺はイラスの気持ちがわかるような気がして、彼が微笑んで、もう大丈夫だよって言うまで、そうしていた。
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