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第1話 呪いの子
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時々ここには街の人間がやってきた。街の人間には、気をつけないといけないやつらとそうでもないやつらがいる。
教会の人間というのは気をつけなくていい。やつらは変な服を着ているからすぐわかる。時々ここに来て、飯を配って去っていく。
警察の人間というのは、気をつけないといけない方だ。あいつらは棒を振り回して俺たちを捕まえていく。一度捕まった黒玉によれば、鍵のかかる部屋に閉じ込められて、一日何かを暗記させられたり暗記できないと殴られたりするらしい。耐えられなくなって夜盗んだハサミでトタンの屋根に穴を開けて逃げてきたと言っていた。こいつらもみんな同じ格好をしているからよくわかる。
あとは気をつけなくても気をつけてもいい人間がいる。普通の格好のやつらだ。こいつらは、俺たちを見物に来ているようだ。話しかけてきたり写真を撮ったりしてくる。たまに親しげなやつもいて、時々食べ物をもらえたりするので悪くはない。でも近づきすぎると攻撃的になるやつもいる。
街の人間とここに住む人間は、どうやら違う言葉を話すようだ。とはいえ、あいつらはこっちの言葉がわかっているようなので、あいつらだけの言葉があるのだ。俺はしばらく、ここの人間が街のやつらの言葉を知らないことに気づかなかった。というのも、俺には街のやつらの言葉が理解できたからだ。ここのやつらが街の人間の言っていることがわからないと、しばらくして俺はやっと気づいた。
最初は言葉が通じるのが嬉しくて街のやつらが来るとこちらから話しかけていたのだが、ほとんどこちらの言葉を聞くこともなく気味悪がってすぐどこかに行ってしまうので、会話が成り立たないことに気づいてしばらくしてやめてしまった。
おそらく俺は、元々街の子供だったのだろう。だから俺は、いつか自分もここを抜け出して街に行ってやると、何度も心に誓っていた。ただ、子供は夜にうろうろしていると警察に捕まってしまう。俺も一度、仕事をして遅くなった時に声をかけられて、慌てて走ってここまで逃げ帰った。
街にいるにはもっと大人になって、街で仕事に就く必要があるのだ。
俺はだから積極的に街の仕事を受けてきた。特に言葉が通じることもあって、まあまあ仕事はもらえた。たいして給料はよくなくて、その日一日の飯を買うと終わってしまったけれど。
その日来たやつらは、多分仕事に使う子供がほしいんだと俺はなんとなくわかった。あれはどうだ、これはどうかと俺たちを物色しているのがわかったからだ。ふたりの男連れだった。ひとりはいかにも金のありそうな、立派な服装のひ弱そうな帽子を被った男。もうひとりは用心棒だろう、全身を鍛えているのだと一目でわかる金髪の男だった。
「仕事がありますか」
俺は、帽子を被った男に声をかける。雇い主はこちらだろうと思ったからだ。
帽子の男は無言で片眉を吊り上げた。
「……君は言葉がわかるんだな」
少し間をおいて、金髪の男の方が言った。金色の前髪の下の肌は浅黒く、街の人間にしては少し変わった外見をしている。
元々街の子供だったんじゃないかとか、余計なことを言って仕事を逃したくない。俺はただ「はい」とだけ答えた。
帽子の男が口を開かないのを見て、金髪の男が俺に聞いた。
「どんな仕事でも、君はやる覚悟があるか?」
男の綺麗な翠玉の瞳に射抜かれて、俺は少し緊張した。
どんな仕事でも、俺はここから抜け出さなくてはいけない。
「もちろんです」
俺は男の目を見返して答えた。
「今の言葉、忘れるなよ。玉随様、悪くないんじゃないでしょうか。言葉も綺麗ですし、洗えば見た目もなんとかなりそうですよ」
金髪の男が、横を向いて帽子の男に尋ねる。
「そうだな」
それが俺と、俺の運命になる琥珀との出会いだった。
教会の人間というのは気をつけなくていい。やつらは変な服を着ているからすぐわかる。時々ここに来て、飯を配って去っていく。
警察の人間というのは、気をつけないといけない方だ。あいつらは棒を振り回して俺たちを捕まえていく。一度捕まった黒玉によれば、鍵のかかる部屋に閉じ込められて、一日何かを暗記させられたり暗記できないと殴られたりするらしい。耐えられなくなって夜盗んだハサミでトタンの屋根に穴を開けて逃げてきたと言っていた。こいつらもみんな同じ格好をしているからよくわかる。
あとは気をつけなくても気をつけてもいい人間がいる。普通の格好のやつらだ。こいつらは、俺たちを見物に来ているようだ。話しかけてきたり写真を撮ったりしてくる。たまに親しげなやつもいて、時々食べ物をもらえたりするので悪くはない。でも近づきすぎると攻撃的になるやつもいる。
街の人間とここに住む人間は、どうやら違う言葉を話すようだ。とはいえ、あいつらはこっちの言葉がわかっているようなので、あいつらだけの言葉があるのだ。俺はしばらく、ここの人間が街のやつらの言葉を知らないことに気づかなかった。というのも、俺には街のやつらの言葉が理解できたからだ。ここのやつらが街の人間の言っていることがわからないと、しばらくして俺はやっと気づいた。
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おそらく俺は、元々街の子供だったのだろう。だから俺は、いつか自分もここを抜け出して街に行ってやると、何度も心に誓っていた。ただ、子供は夜にうろうろしていると警察に捕まってしまう。俺も一度、仕事をして遅くなった時に声をかけられて、慌てて走ってここまで逃げ帰った。
街にいるにはもっと大人になって、街で仕事に就く必要があるのだ。
俺はだから積極的に街の仕事を受けてきた。特に言葉が通じることもあって、まあまあ仕事はもらえた。たいして給料はよくなくて、その日一日の飯を買うと終わってしまったけれど。
その日来たやつらは、多分仕事に使う子供がほしいんだと俺はなんとなくわかった。あれはどうだ、これはどうかと俺たちを物色しているのがわかったからだ。ふたりの男連れだった。ひとりはいかにも金のありそうな、立派な服装のひ弱そうな帽子を被った男。もうひとりは用心棒だろう、全身を鍛えているのだと一目でわかる金髪の男だった。
「仕事がありますか」
俺は、帽子を被った男に声をかける。雇い主はこちらだろうと思ったからだ。
帽子の男は無言で片眉を吊り上げた。
「……君は言葉がわかるんだな」
少し間をおいて、金髪の男の方が言った。金色の前髪の下の肌は浅黒く、街の人間にしては少し変わった外見をしている。
元々街の子供だったんじゃないかとか、余計なことを言って仕事を逃したくない。俺はただ「はい」とだけ答えた。
帽子の男が口を開かないのを見て、金髪の男が俺に聞いた。
「どんな仕事でも、君はやる覚悟があるか?」
男の綺麗な翠玉の瞳に射抜かれて、俺は少し緊張した。
どんな仕事でも、俺はここから抜け出さなくてはいけない。
「もちろんです」
俺は男の目を見返して答えた。
「今の言葉、忘れるなよ。玉随様、悪くないんじゃないでしょうか。言葉も綺麗ですし、洗えば見た目もなんとかなりそうですよ」
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それが俺と、俺の運命になる琥珀との出会いだった。
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