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第二部
第36話 震撼、サイクロプスの谷
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――翌日。
冒険者ギルドが、仮営業を開始した。
リベルタスの街の復旧はまだ終わっていないが、その為のクエストがあるらしい。
一行は朝食を取った後、冒険者ギルドの仮店舗へ向かった。
何か面白いクエストがないかと思っての事だった。
「ねぇ、これいいんじゃない?」
エリーは壁に貼られた一枚のチケットを指差した。
「『石材の調達:サイクロプスの谷で良質な石材が取れるものの、彼らは問題を抱えていて石材が手に入らない。彼らの悩みを解決してくれ』だって」
「どんな問題を抱えてるんだろ?」
「行ってみれば分かるんじゃないの?」
「そうですね、行ってみましょうか」
「うむ、準備を整えて向かおう」
こうして五人は、サイクロプスの谷へと向かった。
――『サイクロプスの谷』
ここは一つ目巨人である『サイクロプス』達の集落がある。
その身長は十メートルに達し、力も強く、巨人族の間でも大柄な方だ。
彼らは人々に対して敵対的では無く、かといって友好的でも無い。
集落の外との取引の為、少し交流がある程度だ。
そんな彼らの悩みとは何だろうか。
一行がサイクロプスの谷に近づくと、彼らは集落の外で野宿しているようだった。
「なんだ? みんな野宿なのか?」
「そうみたいね、何があったんだろう?」
「でも、こんなにサイクロプスがいると威圧感があるわね」
「背が高いので、座っていても私達の倍以上ありますね」
「彼等程の強者が悩むとは……」
五人はとりあえず、サイクロプス達から話を聞いてみる事にした。
「……何でも、谷の中を巨大なミミズが横断してるらしいな」
「サイクロプス達でも持て余すなんて……」
「棍棒で殴ると、変な液体を出すらしいわ」
「それはちょっと困りますね……」
「彼等が恐れる魔物か……」
「とりあえず、谷の方へ行ってみよう」
こうして一行は、サイクロプスの谷へと向かう。
サイクロプスの谷に着くと、その巨大ミミズはすぐに見つかった。
大きすぎるのだ。何もかも。
そのミミズは土色で、直径は五メートル以上あり、ほんの体の一部しか見えない。
谷の底の壁から壁まで伸びていて、頭や尻尾がどこまであるのか見当もつかない。
その表皮は柔らかそうであるが、白く太い剛毛があちこちに生えていて、殴ると変な液体を出すらしい。
「これはちょっと大きすぎるな……」
「サイクロプスでも食べられそうだね……」
「こんなに大きいと、どこから手をつけていいか分からないわね……」
「何を食べたらこんなに大きくなるのでしょうか……」
「この大きさで暴れられたら、大変な事になりそうだな……」
「どうしよ? その変な液体を調べてみる?」
「何か手がかりがあるかもね」
「ちょっと待って、調べてみるわ。健康分析! 彼は『アビスワーム』よ。大きいものでは全長一キロになるらしいわ」
「一キロですか……」
「それはちょっと困るな……」
五人は相談して、離れてからミミズを傷つけて、変な液体を調べることにした。
全員ミミズから十分離れると、リノがM16カスタムで狙撃する。
巨大ミミズの大きさからしたら、蚊に刺される程度だろう。
その表皮に穴が開くと、そこから液体が飛び出してきた。
その液体は地面を煙をあげつつ溶かし、そこに穴を空けたのだ。
「この液体……ヤバイな……」
「ヤバイね……」
「『酸』みたいなものかしら……」
「この大きさのを全部撒かれたら、谷が消えてしまいますね……」
「凍らせて斬るのはどうだろうか?」
「あの太さを中まで凍らせる事ができるのかしら?」
「頭を叩くのはどうかな?」
「ミミズだったら頭は土を掘ってるんじゃない?」
「それじゃ、尻尾のほうは空洞になってるとか?」
「どうやってその穴見つけるの? 地面掘るの?」
「どこかの洞窟と繋がってるとかないでしょうか?」
「燃やして暴れられても困るな……」
「もう一回サイクロプス達に聞いてみようか」
五人はサイクロプス達の所へ戻り、再び情報を集めだした。
――数十分後。
「谷の東の方に、細い亀裂と狭い洞窟があるってさ」
エリーはサイクロプス達からいい情報を聞いてきたようだ。
「なるほど……、そこから行けるか試してみようか」
「そこから行けなかったら?」
「また別の方法を探そう」
一行はサイクロプス達から聞いた話を元に、亀裂を探した。
その亀裂は、彼らからしたら細すぎるものであったが、人が入るのには充分だった。
亀裂から地下へ降りて行くと、鍾乳洞の入り口らしきものが何個か見つかった。
クロウの直感を頼りにそこへ入り、進んで行く。
人がうつ伏せにならないと進めない場所が何ヵ所かあったが、なんとかミミズの通り道らしきものが見つかった。
「これがミミズの通った跡かな?」
「鍾乳洞と違って丸いし、そうかも」
「あのミミズ、酸みたいな体液で溶かしながら進んでるのかしら?」
「どうでしょう? いつも土の中にいるので、詳しくは調べられませんよね」
「言われてみると、この穴が溶かされて出来たように見えるな……」
五人はそう話しつつ、ミミズの尻尾があると思われる方向へ進んだ。
穴は上下左右にうねりながら伸びていて、いかにもミミズの通った跡のようだ。
その穴を進んで行くと、やっとミミズの尻尾らしき部分が見つかった。
「これが……尻尾か……」
「尻尾でも大きいよね……」
「尻尾の先だけなら、凍らせられるかな……」
「先だけ凍らせても……」
「尻尾の方も変な体液が出るのだろうか?」
「……やってみますね」
五人は一度後ろへ下がり、リノの銃で尻尾を撃ってみた。
やはり、尻尾の方も酸のような体液が出た。
その体液は、洞穴の底の方を煙をあげながら溶かし、小さな穴を空けた。
「……もしかしたら……」
「どうしたの? 名案でも浮かんだ?」
「うん、尻尾の辺りに深い穴を掘って、そこにミミズの体液を落とす、みたいな」
「でも、ミミズの大きさからすると、相当な量が出るよ?」
「もしかしたら、ミミズを干からびらせるかも?」
「体内から水分が抜ければ、そうなりますね」
「ふむ、最低でもミミズを弱らせることが出来そうだな」
「でも待って下さい、ここの空気は大丈夫でしょうか?」
「酸欠になるとか?」
「じゃあ、ウチの魔法で外から風を送るわ」
「えっ!? まさかアレ?」
「そのまさかよ! 召喚! 出でよ! 風の精霊!」
……口ヒゲを生やし、全身タイツに胸毛をアピールするおっさんが現れた。
「歌いなさい! 不レディ!」
〝ドンドンパンッ♪ ドンドンパンッ♪ ドンドンパンッ♪ ドンドンパンッ♪〟
「フェイ、この音誰が出してるの……?」
「聞くだけヤボよ……」
「何かノリのいい曲だな」
「やる気が出てきますね」
「太鼓の音か、悪くないな……」
〝♪ウルセエガキドモ トオリデアソンデ
♪イツカハオオモノニ~ナル ソノカオキタネェナ!
♪ハズカッシィ! ヤリタイホウダイスルンジャネェウタ!
♪イーツカーオマエッヲーフルワッセル!
♪イーツカーオマエッヲーフルワッセル!〟
不レディは歌い始め、洞穴の中の空気に流れができてきたようだ。少々うるさいが。
とにかく、窒息の危険が無くなったようなので、五人はミミズに対処し始めた。
リノは再び銃でミミズの尻尾を撃ち、体液を放出させる。
その液体は、先程できた穴をさらに広げ、深く掘った。
それからリノは、体液の出る場所をコントロールしながら底の穴を広げていった。
洞穴の底の穴が充分に広がると、銃創を広げ、体液の出る量を増やす。
次第にミミズの体液は滝のように底の穴へと落ちていった。
ミミズに痛覚は無いものかと思ったが、彼の尻尾は全く動きを見せなかった。
その一方、リノを除く四人は、ノリノリで手拍子を繰り返していた。
だが、楽しい時は続かないものだ、突然、例のリズムと不レディの声が止まった。
彼のいた背後の方を見ると、そこには体長二メートルを越えるモグラがいたのだ。
そのモグラは、目に怒りを蓄え、こちらを睨んでいる。
「敵か!」
五人はそれぞれ武器を抜き、構えた。
リノが補助魔法をかけ、フェイの氷魔法を浴びせる。
クロウ、エリー、ヒナが距離を詰めようとするも、突然彼は口から火を吹いた。
不意をつかれ、退がる三人。
「こいつ、モグラなのに火を吹くとは……」
「土竜って書くしね」
「生意気ね! お仕置きしてあげるわ! 輝光反映!」
その掛け声と共に洞穴の上の方にミラーボールが現れ、回転しながら派手に照らす。
「まぶしっ!」
「またかよ!」
だが相手はモグラ、強い光に弱いようだ。彼は目を隠して光を遮ろうとする。
ヒナが彼の隙をついて距離を詰め、斬りかかった。
クロウ、ヒナ、エリーの斬撃を立て続けに受け、フェイの魔法で足を凍らされてしまい、最後にはリノの狙撃で頭を撃ち抜かれ、彼は倒されてしまった。
「所詮はモグラ、大きくても大したことはない、か」
ヒナはそう言うと、刀を鞘に収めた。
背後の魔物を退治した彼らは、再びミミズの尻尾の様子を見に戻る。
その尻尾からは相変わらず酸の体液が流れていた。
「これ、小さくなってる?」
「どうだろ?」
「元が大きすぎるからね……」
「……いま動きました?」
「どうした?」
「ミミズが動いたような気がします……」
「この大きさで動かれたらマズイ、外に出よう」
「うん」
彼らはそう話し、ここから出ようとした。
その時、ミミズの体液で掘った穴から、水が噴き出してきたのだ。
「うわっ!? ヤバイの当てたか?」
「水脈!?」
「早く!」
全員走って逃げ出した。この洞穴の中で水に流されてしまうかもしれない。
そうはなりたくないと思い、急いで入って来た場所へ向かい、脱出にかかる。
彼らが今までいた洞窟には水が流れて来ていて、危ない所だったようだ。
五人がやっと地面の亀裂から外に出た時、大きな揺れが彼らを襲った。
「何だ? この揺れ」
「ミミズが動き出したのかも?」
さらに地面が揺れる。
「寝た子を起こしちゃったのかも?」
「そうかもしれません……」
「ミミズが暴れてるのか……?」
「谷にいたミミズが気になる、見に行こう」
五人は急いでサイクロプスの谷へと向かった。
サイクロプスの谷に着くまでに何回か揺れが起きたものの、何とか辿り着いた。
そこでは、あの巨大ミミズが体を収縮させて動こうとしている。
「動いてるな……」
「水も出て来てるの?」
「酸の体液じゃないみたいね」
確かに、ミミズの胴体の周辺は濡れているが、地面は削れていなかった。
さらにミミズが入っていた穴からも水が徐々に溢れてきた。
「苦しんでるのでしょうか?」
「溺れているのかもな……」
「そういやミミズって呼吸するのか?」
「あたしに聞かないでよ、ミミズ博士じゃないんだしさ」
そう話していると、サイクロプス達が谷の様子を見に来たようだ。
自分達の住居が心配なのだろう。
その彼らのうちの一匹が、ミミズを棍棒で殴りだした。
「ちょっと! あれ、マズイんじゃない?」
「ミミズに怒ってるのでしょうか?」
「そうかも知れんな……」
そうしていると、徐々にサイクロプス達が集まりだし、棍棒でミミズを殴り始めた。
巨大ミミズは体を収縮し、もがこうとしているようだが、その大きさが災いして洞穴から逃げる事が出来ない。
地面の震動がさらに強くなると、サイクロプス達が増えてきて、今度は皆で大きな岩をミミズに向かって投げだした。
「どうしよ? これ……」
「サイクロプスが怒ってるのね……」
「でも、これを止められる?」
「無理ですね……」
「十……、二十以上いるな……」
五人はサイクロプスの行動に戸惑っていたが、彼らの怒りを鎮めるのが難しそうだ。
この惨状を指を咥えて見ているしかなかったが、彼らが岩で巨大ミミズを押しつぶすと、大地の震動は止み、静寂が戻った。
「最初から岩を投げれば良かったんじゃないか?」
「それだと、谷が溶かされちゃうかも?」
「ミミズの尻尾から体液を抜いたのが良かったのかしら?」
「どうでしょうか……?」
「結果論だな、でも上手くいって良かった」
それから彼らは、巨大ミミズを見ようと近づいて行くと、サイクロプスの一人から礼を言われた。
「……巨大ミミズを退治出来たから礼を言われたな……」
「石材の運搬も再開するってさ」
「ウチら、ミミズの尻尾をつついてただけだったわね」
「でもクエストは達成していますね……」
「帰ろうか、ここにいても出来る事は無いだろう……」
五人はクエストを達成したようなので、リベルタスへと戻って行った。
街に戻り、クエストを報告した一行。
クエストの結果は釈然としないものとなったが、彼らが地下で行動しければ、どうにもならなかったのかもしれない。
そう自分達を慰めつつ、今日の冒険は終わりにして、五人は休む事にした。
冒険者ギルドが、仮営業を開始した。
リベルタスの街の復旧はまだ終わっていないが、その為のクエストがあるらしい。
一行は朝食を取った後、冒険者ギルドの仮店舗へ向かった。
何か面白いクエストがないかと思っての事だった。
「ねぇ、これいいんじゃない?」
エリーは壁に貼られた一枚のチケットを指差した。
「『石材の調達:サイクロプスの谷で良質な石材が取れるものの、彼らは問題を抱えていて石材が手に入らない。彼らの悩みを解決してくれ』だって」
「どんな問題を抱えてるんだろ?」
「行ってみれば分かるんじゃないの?」
「そうですね、行ってみましょうか」
「うむ、準備を整えて向かおう」
こうして五人は、サイクロプスの谷へと向かった。
――『サイクロプスの谷』
ここは一つ目巨人である『サイクロプス』達の集落がある。
その身長は十メートルに達し、力も強く、巨人族の間でも大柄な方だ。
彼らは人々に対して敵対的では無く、かといって友好的でも無い。
集落の外との取引の為、少し交流がある程度だ。
そんな彼らの悩みとは何だろうか。
一行がサイクロプスの谷に近づくと、彼らは集落の外で野宿しているようだった。
「なんだ? みんな野宿なのか?」
「そうみたいね、何があったんだろう?」
「でも、こんなにサイクロプスがいると威圧感があるわね」
「背が高いので、座っていても私達の倍以上ありますね」
「彼等程の強者が悩むとは……」
五人はとりあえず、サイクロプス達から話を聞いてみる事にした。
「……何でも、谷の中を巨大なミミズが横断してるらしいな」
「サイクロプス達でも持て余すなんて……」
「棍棒で殴ると、変な液体を出すらしいわ」
「それはちょっと困りますね……」
「彼等が恐れる魔物か……」
「とりあえず、谷の方へ行ってみよう」
こうして一行は、サイクロプスの谷へと向かう。
サイクロプスの谷に着くと、その巨大ミミズはすぐに見つかった。
大きすぎるのだ。何もかも。
そのミミズは土色で、直径は五メートル以上あり、ほんの体の一部しか見えない。
谷の底の壁から壁まで伸びていて、頭や尻尾がどこまであるのか見当もつかない。
その表皮は柔らかそうであるが、白く太い剛毛があちこちに生えていて、殴ると変な液体を出すらしい。
「これはちょっと大きすぎるな……」
「サイクロプスでも食べられそうだね……」
「こんなに大きいと、どこから手をつけていいか分からないわね……」
「何を食べたらこんなに大きくなるのでしょうか……」
「この大きさで暴れられたら、大変な事になりそうだな……」
「どうしよ? その変な液体を調べてみる?」
「何か手がかりがあるかもね」
「ちょっと待って、調べてみるわ。健康分析! 彼は『アビスワーム』よ。大きいものでは全長一キロになるらしいわ」
「一キロですか……」
「それはちょっと困るな……」
五人は相談して、離れてからミミズを傷つけて、変な液体を調べることにした。
全員ミミズから十分離れると、リノがM16カスタムで狙撃する。
巨大ミミズの大きさからしたら、蚊に刺される程度だろう。
その表皮に穴が開くと、そこから液体が飛び出してきた。
その液体は地面を煙をあげつつ溶かし、そこに穴を空けたのだ。
「この液体……ヤバイな……」
「ヤバイね……」
「『酸』みたいなものかしら……」
「この大きさのを全部撒かれたら、谷が消えてしまいますね……」
「凍らせて斬るのはどうだろうか?」
「あの太さを中まで凍らせる事ができるのかしら?」
「頭を叩くのはどうかな?」
「ミミズだったら頭は土を掘ってるんじゃない?」
「それじゃ、尻尾のほうは空洞になってるとか?」
「どうやってその穴見つけるの? 地面掘るの?」
「どこかの洞窟と繋がってるとかないでしょうか?」
「燃やして暴れられても困るな……」
「もう一回サイクロプス達に聞いてみようか」
五人はサイクロプス達の所へ戻り、再び情報を集めだした。
――数十分後。
「谷の東の方に、細い亀裂と狭い洞窟があるってさ」
エリーはサイクロプス達からいい情報を聞いてきたようだ。
「なるほど……、そこから行けるか試してみようか」
「そこから行けなかったら?」
「また別の方法を探そう」
一行はサイクロプス達から聞いた話を元に、亀裂を探した。
その亀裂は、彼らからしたら細すぎるものであったが、人が入るのには充分だった。
亀裂から地下へ降りて行くと、鍾乳洞の入り口らしきものが何個か見つかった。
クロウの直感を頼りにそこへ入り、進んで行く。
人がうつ伏せにならないと進めない場所が何ヵ所かあったが、なんとかミミズの通り道らしきものが見つかった。
「これがミミズの通った跡かな?」
「鍾乳洞と違って丸いし、そうかも」
「あのミミズ、酸みたいな体液で溶かしながら進んでるのかしら?」
「どうでしょう? いつも土の中にいるので、詳しくは調べられませんよね」
「言われてみると、この穴が溶かされて出来たように見えるな……」
五人はそう話しつつ、ミミズの尻尾があると思われる方向へ進んだ。
穴は上下左右にうねりながら伸びていて、いかにもミミズの通った跡のようだ。
その穴を進んで行くと、やっとミミズの尻尾らしき部分が見つかった。
「これが……尻尾か……」
「尻尾でも大きいよね……」
「尻尾の先だけなら、凍らせられるかな……」
「先だけ凍らせても……」
「尻尾の方も変な体液が出るのだろうか?」
「……やってみますね」
五人は一度後ろへ下がり、リノの銃で尻尾を撃ってみた。
やはり、尻尾の方も酸のような体液が出た。
その体液は、洞穴の底の方を煙をあげながら溶かし、小さな穴を空けた。
「……もしかしたら……」
「どうしたの? 名案でも浮かんだ?」
「うん、尻尾の辺りに深い穴を掘って、そこにミミズの体液を落とす、みたいな」
「でも、ミミズの大きさからすると、相当な量が出るよ?」
「もしかしたら、ミミズを干からびらせるかも?」
「体内から水分が抜ければ、そうなりますね」
「ふむ、最低でもミミズを弱らせることが出来そうだな」
「でも待って下さい、ここの空気は大丈夫でしょうか?」
「酸欠になるとか?」
「じゃあ、ウチの魔法で外から風を送るわ」
「えっ!? まさかアレ?」
「そのまさかよ! 召喚! 出でよ! 風の精霊!」
……口ヒゲを生やし、全身タイツに胸毛をアピールするおっさんが現れた。
「歌いなさい! 不レディ!」
〝ドンドンパンッ♪ ドンドンパンッ♪ ドンドンパンッ♪ ドンドンパンッ♪〟
「フェイ、この音誰が出してるの……?」
「聞くだけヤボよ……」
「何かノリのいい曲だな」
「やる気が出てきますね」
「太鼓の音か、悪くないな……」
〝♪ウルセエガキドモ トオリデアソンデ
♪イツカハオオモノニ~ナル ソノカオキタネェナ!
♪ハズカッシィ! ヤリタイホウダイスルンジャネェウタ!
♪イーツカーオマエッヲーフルワッセル!
♪イーツカーオマエッヲーフルワッセル!〟
不レディは歌い始め、洞穴の中の空気に流れができてきたようだ。少々うるさいが。
とにかく、窒息の危険が無くなったようなので、五人はミミズに対処し始めた。
リノは再び銃でミミズの尻尾を撃ち、体液を放出させる。
その液体は、先程できた穴をさらに広げ、深く掘った。
それからリノは、体液の出る場所をコントロールしながら底の穴を広げていった。
洞穴の底の穴が充分に広がると、銃創を広げ、体液の出る量を増やす。
次第にミミズの体液は滝のように底の穴へと落ちていった。
ミミズに痛覚は無いものかと思ったが、彼の尻尾は全く動きを見せなかった。
その一方、リノを除く四人は、ノリノリで手拍子を繰り返していた。
だが、楽しい時は続かないものだ、突然、例のリズムと不レディの声が止まった。
彼のいた背後の方を見ると、そこには体長二メートルを越えるモグラがいたのだ。
そのモグラは、目に怒りを蓄え、こちらを睨んでいる。
「敵か!」
五人はそれぞれ武器を抜き、構えた。
リノが補助魔法をかけ、フェイの氷魔法を浴びせる。
クロウ、エリー、ヒナが距離を詰めようとするも、突然彼は口から火を吹いた。
不意をつかれ、退がる三人。
「こいつ、モグラなのに火を吹くとは……」
「土竜って書くしね」
「生意気ね! お仕置きしてあげるわ! 輝光反映!」
その掛け声と共に洞穴の上の方にミラーボールが現れ、回転しながら派手に照らす。
「まぶしっ!」
「またかよ!」
だが相手はモグラ、強い光に弱いようだ。彼は目を隠して光を遮ろうとする。
ヒナが彼の隙をついて距離を詰め、斬りかかった。
クロウ、ヒナ、エリーの斬撃を立て続けに受け、フェイの魔法で足を凍らされてしまい、最後にはリノの狙撃で頭を撃ち抜かれ、彼は倒されてしまった。
「所詮はモグラ、大きくても大したことはない、か」
ヒナはそう言うと、刀を鞘に収めた。
背後の魔物を退治した彼らは、再びミミズの尻尾の様子を見に戻る。
その尻尾からは相変わらず酸の体液が流れていた。
「これ、小さくなってる?」
「どうだろ?」
「元が大きすぎるからね……」
「……いま動きました?」
「どうした?」
「ミミズが動いたような気がします……」
「この大きさで動かれたらマズイ、外に出よう」
「うん」
彼らはそう話し、ここから出ようとした。
その時、ミミズの体液で掘った穴から、水が噴き出してきたのだ。
「うわっ!? ヤバイの当てたか?」
「水脈!?」
「早く!」
全員走って逃げ出した。この洞穴の中で水に流されてしまうかもしれない。
そうはなりたくないと思い、急いで入って来た場所へ向かい、脱出にかかる。
彼らが今までいた洞窟には水が流れて来ていて、危ない所だったようだ。
五人がやっと地面の亀裂から外に出た時、大きな揺れが彼らを襲った。
「何だ? この揺れ」
「ミミズが動き出したのかも?」
さらに地面が揺れる。
「寝た子を起こしちゃったのかも?」
「そうかもしれません……」
「ミミズが暴れてるのか……?」
「谷にいたミミズが気になる、見に行こう」
五人は急いでサイクロプスの谷へと向かった。
サイクロプスの谷に着くまでに何回か揺れが起きたものの、何とか辿り着いた。
そこでは、あの巨大ミミズが体を収縮させて動こうとしている。
「動いてるな……」
「水も出て来てるの?」
「酸の体液じゃないみたいね」
確かに、ミミズの胴体の周辺は濡れているが、地面は削れていなかった。
さらにミミズが入っていた穴からも水が徐々に溢れてきた。
「苦しんでるのでしょうか?」
「溺れているのかもな……」
「そういやミミズって呼吸するのか?」
「あたしに聞かないでよ、ミミズ博士じゃないんだしさ」
そう話していると、サイクロプス達が谷の様子を見に来たようだ。
自分達の住居が心配なのだろう。
その彼らのうちの一匹が、ミミズを棍棒で殴りだした。
「ちょっと! あれ、マズイんじゃない?」
「ミミズに怒ってるのでしょうか?」
「そうかも知れんな……」
そうしていると、徐々にサイクロプス達が集まりだし、棍棒でミミズを殴り始めた。
巨大ミミズは体を収縮し、もがこうとしているようだが、その大きさが災いして洞穴から逃げる事が出来ない。
地面の震動がさらに強くなると、サイクロプス達が増えてきて、今度は皆で大きな岩をミミズに向かって投げだした。
「どうしよ? これ……」
「サイクロプスが怒ってるのね……」
「でも、これを止められる?」
「無理ですね……」
「十……、二十以上いるな……」
五人はサイクロプスの行動に戸惑っていたが、彼らの怒りを鎮めるのが難しそうだ。
この惨状を指を咥えて見ているしかなかったが、彼らが岩で巨大ミミズを押しつぶすと、大地の震動は止み、静寂が戻った。
「最初から岩を投げれば良かったんじゃないか?」
「それだと、谷が溶かされちゃうかも?」
「ミミズの尻尾から体液を抜いたのが良かったのかしら?」
「どうでしょうか……?」
「結果論だな、でも上手くいって良かった」
それから彼らは、巨大ミミズを見ようと近づいて行くと、サイクロプスの一人から礼を言われた。
「……巨大ミミズを退治出来たから礼を言われたな……」
「石材の運搬も再開するってさ」
「ウチら、ミミズの尻尾をつついてただけだったわね」
「でもクエストは達成していますね……」
「帰ろうか、ここにいても出来る事は無いだろう……」
五人はクエストを達成したようなので、リベルタスへと戻って行った。
街に戻り、クエストを報告した一行。
クエストの結果は釈然としないものとなったが、彼らが地下で行動しければ、どうにもならなかったのかもしれない。
そう自分達を慰めつつ、今日の冒険は終わりにして、五人は休む事にした。
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うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
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辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
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間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
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最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職
鎌霧
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『To The World Road』
倍率300倍の新作フルダイブ系VRMMOの初回抽選に当たり、意気揚々と休暇を取りβテストの情報を駆使して快適に過ごそうと思っていた。
……のだが、蓋をひらけば選択した職業は調整入りまくりで超難易度不遇職として立派に転生していた。
しかしそこでキャラ作り直すのは負けた気がするし、不遇だからこそ使うのがゲーマーと言うもの。
意地とプライドと一つまみの反骨精神で私はこのゲームを楽しんでいく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
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ついに!第5章突入!
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しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
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