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第二部
第31話 甘味、オリハルコン
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――翌日。
クロウはドワーフの鍛冶師・ドルフの所へ来ていた。
ドルフの店は粗末な露天であったが、今の街の状況を考えればやむを得ない。
「爺さん、この『フルティン』という剣を鍛えなおして欲しいんだが」
「『フルチン』? そんなもの鍛えたら『フルボッキン』になっちまうぞ?」
「剣にモザイクがかかるのはちょっと……。それにその名前だと18禁になっちまう」
「ハッハ! 儂はそれでもいいがの」
「冗談は置いといて、何かいいアイディアはないか?」
ドルフはフルティンを手に取り、眺めた。
「ふむ……、これは水属性か。前に使ってたのは雷属性だったか?」
「そう、雷属性の『雷神剣』だった」
「剣の強度、切れ味を上げるにはアダマントイトとオリハルコンじゃが、属性を変えるのは無理じゃな。一から作った方がいい」
「そうなのか? 材料は?」
「属性を付与した武器を作るには、特殊な『魔石』が必要だ。その魔石の強さによって、武器の属性の強さも決まる」
「ふむ……」
「だがな、武器は使い手次第。腕が無ければどんな強い武器でも持ちぐされじゃ」
「それは分かってるつもりだけど……」
「今の水属性であっても、仲間との連携で相乗効果を得られるかもしれんしの」
(そういや、フェイの氷魔法と連携すれば、魔法の効果が上がってたな……)
(ヒナの炎の刀だと打ち消しあうみたいだし……)
「わかった、爺さん。色々考えてみるよ」
「そうじゃな、武器を作りたくなったら素材を持ってこい。いつでも作ってやるぞ」
「ああ、その時は頼む」
クロウはドルフとそう話すと、ギルド拠点へ戻って行った。
――ギルド拠点。
クロウを除く四人は、席に座り朝食を取っていた。
「クロ、どっか行ってたの?」
「うん、ドルフ爺さんの所に」
「武器の素材のこととかかな?」
「まあ、そんな感じ。鉱石の情報は無かったけど」
「オリハルコンの場所の話なら聞いて来ましたよ?」
「おおぅ、それはどこに?」
「竜背山脈の中腹にある、雪男の所で見かけたとかいう話ですね」
「あの山か……」
「雪男か、某の『雪食一眼』に丁度いい」
「冒険者ギルドも復興するまでしばらく営業中止だってさ」
「じゃあ、竜背山脈の雪男の所を探してみるか」
五人はそう話して、竜背山脈へ向かう旅支度をした。
竜背山脈の麓の村で情報を集めることにした一行であったが、村人達は雪男のことになると口を閉ざし、何も情報は得られなかった。
「この村の人達、少しも話してくれないな」
「分かったのは『イエティ』って名前だけだね」
「ここの村の人達、イエティを守っているのかしら?」
「そうかもしれませんね……」
「ふむ、村の人に大事にされてるのだな……」
「俺達は無理に戦わなくてもいいんだけど、それだけじゃ教えてくれないよな」
「信用してくれないだろうね」
「困ったわね、山の中を探し回るのも大変だし……」
「そうですね……、何か手がかりがあるといいのですけど」
「ふむ……、……これは?」
そう話している五人の上から、ちらほらと雪が降ってきた。
「雪か」
「きれいね~」
「雪……、雪の妖精がいるかもしれないわ!」
「雪の妖精ですか?」
「どんな姿をしているのだ?」
「雪の玉よ。名前を『スノウボール』って言って、雪だるまの頭だけで転がっているはずよ」
「雪の玉か、探してみよう」
五人はそれぞれ村の周囲へ散って、雪の妖精『スノウボール』を探し始めた。
雪は降り続け、地表が白く変わり始めた頃、リノがスノウボールを見つけた。
全員がそこに集まり、リノは彼から話しを聞こうとする。
「……イエティさんか、オリハルコンという鉱石の場所を知りませんか?」
スノウボールは地面を転がっている。聞こえているのだろうか?
「イエティさんをやっつけるのではなくて、私たちはオリハルコンが欲しいのです」
スノウボールは転がるのを止め、リノの顔をじっと見つめる。
「そうですね……、これでどうでしょう?」
リノはそう言って、鞄からチョコレートを取り出し、スノウボールの口に添えた。
彼の口が大きく開き、一口でリノの手からチョコを食べた。
彼はチョコを食べると、その頭がチョコのような色に変わってきたが、ぼそぼそと話しだした。
「……、イエティさんは、山の中腹の崖にある洞穴にいるようです。……そこの洞穴にオリハルコンがあるのだけど、勝手に取ったらイエティさんに怒られるかもしれない、との事です」
「そうか、場所は分かったけど、イエティと戦いたくないな。村の人に好かれてるみたいだし」
「そうね、戦わなくていい方法ないかしら?」
「聞いてみますね……、……イエティさんの好きなものは、サルナシ、ヤマブドウ、川魚とかですが、お腹が空いてれば手近なものを食べるそうです」
「クマみたいだね~」
「それでは、村で熊の好物を買っていくのはどうだろう?」
「そうですね、その方がいいかもしれません」
この話を聞いた五人は、自分達の食糧の他に、クマの好きそうな食べ物を持ち、山へ登って行った。
一行はイエティの棲んでいる洞穴を目指し、山を登って行く。
道中には小動物系の魔物が出たが、今の彼らの敵ではない。彼らを倒し登って行く。
雪の妖精・スノウボールに教えられた通り登り進んで行くも、言葉で聞いたものと実際の歩く道は違う。
苦心の末、イエティの足跡らしきものを発見し、そこを辿ることで、やっと彼の棲んでいる洞穴を見つけることができた。
一行はその洞穴にすぐ入ることをせず、少し離れて様子を覗った。
「……あれがイエティの洞穴だろうな……」
「そうね、足跡があそこへ続いてるしね」
「彼に怒られずに近づけないかしら?」
「まず、警戒されないようにしなければなりませんね」
「イエティの姿は熊なのだろうか、人なのだろうか……」
そう話していると、洞穴の中から誰か出てきた。
その姿は白いクマの頭をしていて、体は白い毛に覆われ、直立二足歩行をしている。
どうやら、シロクマの獣人という表現が一番近いようだ。
イエティは周囲を警戒し、風の臭いを嗅いだ後、こちらをじっと見つめてきた。
その姿を岩陰から覗く五人。
(どうやら、こっちに気づいているっぽいな)
(嗅覚が鋭いのかな?)
(こちらに警戒しているとうかつに近づけないわ)
(食べ物でも渡してみましょうか?)
(そうだな、嗅覚が鋭いなら、食べ物と一緒に我々を覚えるかもしれん)
五人はそのように相談した。
こちらの様子を覗っていたイエティであるが、こちらが動きを見せないので、洞穴へと戻って行った。
(よし、今のうちだ……)
クロウが食べ物の入った袋を手にし、イエティの洞穴の方へ向けて、放り投げた。
(おい、投げるなよ!)
(近づきすぎても困るだろ?)
外の音を聞きつけたイエティが様子を覗いに洞穴から出てきた。
近くに食べ物の臭いを感じ、そちらへ歩み寄り、その袋の臭いを嗅ぎ始めた。
(よし、そのまま食え!)
だがイエティは、その袋の臭いを何度か嗅ぐと、爪でそれを下の斜面へ投げ捨てた。
(ああっ!)
失望するクロウ。
(何やったんだよ!)
(カレーパン……)
(何でカレーだよ!)
(カレーはみんな好きだと思って……)
(イエティが戻って行ったわ)
(じゃあ次はあたしが……)
エリーはそう言って、足音を消してイエティの洞穴に近づき、袋を置いてきた。
そこへ、イエティが洞穴の中から出てきて臭いを嗅ぐ。
(おいしいぞ~、食べろ!)
イエティは何度も臭いを嗅ぎ、その袋を爪で破り、中の物を食べ始めた。
(何入れたんだ?)
(あんドーナツよ)
(おいしそうに食べてるわね)
イエティは袋の中のあんドーナツを食べ終わると、洞穴の中へ戻って行った。
(次はウチが行ってくるわ)
フェイがそう言い、手にツボを持ち、洞穴の入り口へ置き、戻ってきた。
(なんなの、あのツボ)
(ハチミツよ)
(食べるのかな~? クマの頭してるけどさ~)
イエティは三度洞穴から出てきて、ツボの臭いを嗅ぎだした。
(クマならば好きなはず……)
そして彼は、ツボを両手で持ち、中の物を一気に飲み干した。
(ハチミツ一気に飲んだ!!)
(そんなに好きだったとは……)
そしてイエティは、そのツボを持ったまま、洞穴に戻って行った。
(気に入ってもらえたようだわ)
(次は私が行ってきます)
そう言って、リノはビンを持ち洞窟の入り口へ置いてきた。
リノと入れ替わりにイエティが洞穴から出てくる。
(だいぶ警戒しなくなったみたいだね……)
イエティがビンの臭いを嗅ぎ、その中の物を一気に飲み干した。
(飲んだ!)
(リノっち、何入れたの?)
(練乳です)
(練乳!?)
イエティはビンを一気に飲み干し、その場所に座り込んだ。
そして彼は、飲んだ物を吐き出すと、洞穴の中へ戻って行った。
リノはそれを見て涙目になる。
(そりゃ練乳一気に飲んだらね……)
エリーはそう言い、フェイはリノの頭を撫でて慰めた。
(次は某の番だな)
次はヒナが食べ物の入った袋を手に、洞穴へ向かい、その袋を置いて帰って来た。
(ヒナ、何置いてきたの?)
(激辛せんべいだ)
(えぇっ!? 大丈夫かな……)
(甘いものは好きみたいだけど、辛いものはどうなのかしらね……)
(某の大好物だ、嫌いな訳は無い)
(どうかな~?)
クロウ達は疑問に思いつつも、その様子を見守った。
イエティが洞穴から出てきて、袋に顔を近づけ、臭いを嗅ぐ。
その時、上空から大きな灰色の生き物が地上へ飛び込んで来た。
――飛竜だ。
飛竜はイエティの洞穴めがけて急降下し、そこにあった袋を奪い取った。
イエティは両腕を振り上げ、怒りを露わにするも、飛竜は高く舞い上がってしまう。
飛竜は洞穴の上のほうの岩へ着地すると、激辛せんべいが入った袋を貪り始めた。
すると飛竜の顔が赤く染まり、大声で絶叫しだした。
怒った飛竜は上空へ飛び上がると、急降下してイエティを襲う。
「まずい、助けよう!」
クロウがそう言い、五人は岩陰を飛び出し、洞穴へ走る。
飛竜はイエティの頭の上から火を吹いて彼を襲う。
「あの飛竜、火を吹くのか!」
ヒナがそう言うも、
「激辛せんべいのせいでしょ!」
と、エリーに突っ込まれる。
彼らが洞穴に走って近づくと、イエティは洞穴に隠れ、再び飛竜は飛び上がった。
五人は空を見上げ、飛竜と戦う構えを見せるが、上空の敵が相手では攻撃手段は限られる。
それぞれ攻撃手段を考えていると、飛竜が襲いかかってきた。
「氷結飛針!」
フェイの魔法が飛ぶが、飛竜には大きなダメージを与えられない。
リノの銃撃で飛竜の羽に穴を空けるも、小さすぎて効果は薄い。
飛竜は急降下して五人に近づくと、火を吹きかけてきた。
その炎をクロウがフルティンで薙ぎ払い、消化する。
飛竜の爪が彼らに襲いかかると、ヒナはすれ違いざまに爪を斬り払う。
エリーも飛竜の足を狙い、斬り抜けるも、小さい傷しか与えられない。
そして飛竜は上空へ飛び上がり、次の攻撃の構えを見せる。
五人は体勢を立て直し、次の攻撃に備えるが、迷っていた。
(このままでは分が悪すぎる……)
そうは思っても、飛竜は再び急降下しながら襲ってきた。
先ほどと同じように、フェイとリノが攻撃し、クロウが炎を斬り払う。
ヒナとエリーで飛竜の爪と足を攻撃するが、効果は薄いようだ。
再度飛竜は飛び上がり、こちらへ攻撃の構えを見せた。
その時、クロウは叫んだ。
「フェイ、雪の吹雪をくれ!」
「なんでよ!?」
「いいから早く!」
クロウにせっつかれ、フェイは魔法を唱える。
「氷結吹雪!」
もちろん、その魔法は飛竜に遠すぎて効果は無い。
だが、クロウはその吹雪の中に剣を入れ、凍らせたのだ。
そして飛竜がこちらへ向けて、急降下してくる。
クロウはそこを狙い、フルティンを振り上げた。
するとどうだろう、冷えたフルティンの水しぶきが、氷の刃となり、飛竜に飛んで行ったのだ。
飛竜はその氷の刃に驚くも、そこへ向けて全力で飛び込んでしまった。
腹と片翼を斬られ、大きなダメージを受た飛竜は、絶叫を上げながら地面に落ちた。
飛べなくなった飛竜は、もう彼らの敵ではない。
時を置かず五人に切り刻まれ、命を落とした。
「まさか剣の水にあのような使い方があったとは……」
驚嘆するヒナ。
「なに、思い付きが上手くいっただけさ。フェイの氷魔法あってのものだしな」
「戦いにはこういうやり方もあるのだな、と、其方達に驚かされる一方だ」
「じゃあ、今度は怖い所で驚かせてあげる」
エリーがヒナをからかう。
「う……、それは困る……」
「今度は氷でお化けを作ってみようかな?」
フェイも続けてからかう。
「うぅ……」
ヒナは額に手を当て、固まってしまった。
「冗談はそれくらいして、イエティさんを見に行きましょうか」
「そうだな、もう警戒してくれないといいんだがな」
五人は洞穴に入り、イエティの様子を見に奥へと進む。
そこでは、彼がハチミツの入ったツボを抱えて、寝床でぐっすり眠っていたのだ。
その寝床の近くには、輝く鉱石が埋まっていた。これがオリハルコンだろう。
「幸せそうに寝てるわね……」
「起こさないよう、音を立てないように掘らないとな」
「結構難しいね」
「オリハルコンの外側の硬くない岩を削るといいですよ」
「刀の炎で削り溶かそう」
五人はイエティを起こさないように、そっとオリハルコンを抜き取ると、その洞穴を後にした。
リベルタスに戻った一行はオリハルコンを倉庫に置き、鍵をかけ厳重に保管した。
ドルフの話では、オリハルコンとアダマンタイトの両方があれば、ランクS相当の武器が作れるという事なので、彼らは次にアダマンタイトを探すことにする。
五人は街の中で一通り情報を集め、それらしき情報を整理し、今日はここで休みを取る事にした。
果たしてアダマンタイトは見つかるのだろうか、彼らの冒険は続く……。
クロウはドワーフの鍛冶師・ドルフの所へ来ていた。
ドルフの店は粗末な露天であったが、今の街の状況を考えればやむを得ない。
「爺さん、この『フルティン』という剣を鍛えなおして欲しいんだが」
「『フルチン』? そんなもの鍛えたら『フルボッキン』になっちまうぞ?」
「剣にモザイクがかかるのはちょっと……。それにその名前だと18禁になっちまう」
「ハッハ! 儂はそれでもいいがの」
「冗談は置いといて、何かいいアイディアはないか?」
ドルフはフルティンを手に取り、眺めた。
「ふむ……、これは水属性か。前に使ってたのは雷属性だったか?」
「そう、雷属性の『雷神剣』だった」
「剣の強度、切れ味を上げるにはアダマントイトとオリハルコンじゃが、属性を変えるのは無理じゃな。一から作った方がいい」
「そうなのか? 材料は?」
「属性を付与した武器を作るには、特殊な『魔石』が必要だ。その魔石の強さによって、武器の属性の強さも決まる」
「ふむ……」
「だがな、武器は使い手次第。腕が無ければどんな強い武器でも持ちぐされじゃ」
「それは分かってるつもりだけど……」
「今の水属性であっても、仲間との連携で相乗効果を得られるかもしれんしの」
(そういや、フェイの氷魔法と連携すれば、魔法の効果が上がってたな……)
(ヒナの炎の刀だと打ち消しあうみたいだし……)
「わかった、爺さん。色々考えてみるよ」
「そうじゃな、武器を作りたくなったら素材を持ってこい。いつでも作ってやるぞ」
「ああ、その時は頼む」
クロウはドルフとそう話すと、ギルド拠点へ戻って行った。
――ギルド拠点。
クロウを除く四人は、席に座り朝食を取っていた。
「クロ、どっか行ってたの?」
「うん、ドルフ爺さんの所に」
「武器の素材のこととかかな?」
「まあ、そんな感じ。鉱石の情報は無かったけど」
「オリハルコンの場所の話なら聞いて来ましたよ?」
「おおぅ、それはどこに?」
「竜背山脈の中腹にある、雪男の所で見かけたとかいう話ですね」
「あの山か……」
「雪男か、某の『雪食一眼』に丁度いい」
「冒険者ギルドも復興するまでしばらく営業中止だってさ」
「じゃあ、竜背山脈の雪男の所を探してみるか」
五人はそう話して、竜背山脈へ向かう旅支度をした。
竜背山脈の麓の村で情報を集めることにした一行であったが、村人達は雪男のことになると口を閉ざし、何も情報は得られなかった。
「この村の人達、少しも話してくれないな」
「分かったのは『イエティ』って名前だけだね」
「ここの村の人達、イエティを守っているのかしら?」
「そうかもしれませんね……」
「ふむ、村の人に大事にされてるのだな……」
「俺達は無理に戦わなくてもいいんだけど、それだけじゃ教えてくれないよな」
「信用してくれないだろうね」
「困ったわね、山の中を探し回るのも大変だし……」
「そうですね……、何か手がかりがあるといいのですけど」
「ふむ……、……これは?」
そう話している五人の上から、ちらほらと雪が降ってきた。
「雪か」
「きれいね~」
「雪……、雪の妖精がいるかもしれないわ!」
「雪の妖精ですか?」
「どんな姿をしているのだ?」
「雪の玉よ。名前を『スノウボール』って言って、雪だるまの頭だけで転がっているはずよ」
「雪の玉か、探してみよう」
五人はそれぞれ村の周囲へ散って、雪の妖精『スノウボール』を探し始めた。
雪は降り続け、地表が白く変わり始めた頃、リノがスノウボールを見つけた。
全員がそこに集まり、リノは彼から話しを聞こうとする。
「……イエティさんか、オリハルコンという鉱石の場所を知りませんか?」
スノウボールは地面を転がっている。聞こえているのだろうか?
「イエティさんをやっつけるのではなくて、私たちはオリハルコンが欲しいのです」
スノウボールは転がるのを止め、リノの顔をじっと見つめる。
「そうですね……、これでどうでしょう?」
リノはそう言って、鞄からチョコレートを取り出し、スノウボールの口に添えた。
彼の口が大きく開き、一口でリノの手からチョコを食べた。
彼はチョコを食べると、その頭がチョコのような色に変わってきたが、ぼそぼそと話しだした。
「……、イエティさんは、山の中腹の崖にある洞穴にいるようです。……そこの洞穴にオリハルコンがあるのだけど、勝手に取ったらイエティさんに怒られるかもしれない、との事です」
「そうか、場所は分かったけど、イエティと戦いたくないな。村の人に好かれてるみたいだし」
「そうね、戦わなくていい方法ないかしら?」
「聞いてみますね……、……イエティさんの好きなものは、サルナシ、ヤマブドウ、川魚とかですが、お腹が空いてれば手近なものを食べるそうです」
「クマみたいだね~」
「それでは、村で熊の好物を買っていくのはどうだろう?」
「そうですね、その方がいいかもしれません」
この話を聞いた五人は、自分達の食糧の他に、クマの好きそうな食べ物を持ち、山へ登って行った。
一行はイエティの棲んでいる洞穴を目指し、山を登って行く。
道中には小動物系の魔物が出たが、今の彼らの敵ではない。彼らを倒し登って行く。
雪の妖精・スノウボールに教えられた通り登り進んで行くも、言葉で聞いたものと実際の歩く道は違う。
苦心の末、イエティの足跡らしきものを発見し、そこを辿ることで、やっと彼の棲んでいる洞穴を見つけることができた。
一行はその洞穴にすぐ入ることをせず、少し離れて様子を覗った。
「……あれがイエティの洞穴だろうな……」
「そうね、足跡があそこへ続いてるしね」
「彼に怒られずに近づけないかしら?」
「まず、警戒されないようにしなければなりませんね」
「イエティの姿は熊なのだろうか、人なのだろうか……」
そう話していると、洞穴の中から誰か出てきた。
その姿は白いクマの頭をしていて、体は白い毛に覆われ、直立二足歩行をしている。
どうやら、シロクマの獣人という表現が一番近いようだ。
イエティは周囲を警戒し、風の臭いを嗅いだ後、こちらをじっと見つめてきた。
その姿を岩陰から覗く五人。
(どうやら、こっちに気づいているっぽいな)
(嗅覚が鋭いのかな?)
(こちらに警戒しているとうかつに近づけないわ)
(食べ物でも渡してみましょうか?)
(そうだな、嗅覚が鋭いなら、食べ物と一緒に我々を覚えるかもしれん)
五人はそのように相談した。
こちらの様子を覗っていたイエティであるが、こちらが動きを見せないので、洞穴へと戻って行った。
(よし、今のうちだ……)
クロウが食べ物の入った袋を手にし、イエティの洞穴の方へ向けて、放り投げた。
(おい、投げるなよ!)
(近づきすぎても困るだろ?)
外の音を聞きつけたイエティが様子を覗いに洞穴から出てきた。
近くに食べ物の臭いを感じ、そちらへ歩み寄り、その袋の臭いを嗅ぎ始めた。
(よし、そのまま食え!)
だがイエティは、その袋の臭いを何度か嗅ぐと、爪でそれを下の斜面へ投げ捨てた。
(ああっ!)
失望するクロウ。
(何やったんだよ!)
(カレーパン……)
(何でカレーだよ!)
(カレーはみんな好きだと思って……)
(イエティが戻って行ったわ)
(じゃあ次はあたしが……)
エリーはそう言って、足音を消してイエティの洞穴に近づき、袋を置いてきた。
そこへ、イエティが洞穴の中から出てきて臭いを嗅ぐ。
(おいしいぞ~、食べろ!)
イエティは何度も臭いを嗅ぎ、その袋を爪で破り、中の物を食べ始めた。
(何入れたんだ?)
(あんドーナツよ)
(おいしそうに食べてるわね)
イエティは袋の中のあんドーナツを食べ終わると、洞穴の中へ戻って行った。
(次はウチが行ってくるわ)
フェイがそう言い、手にツボを持ち、洞穴の入り口へ置き、戻ってきた。
(なんなの、あのツボ)
(ハチミツよ)
(食べるのかな~? クマの頭してるけどさ~)
イエティは三度洞穴から出てきて、ツボの臭いを嗅ぎだした。
(クマならば好きなはず……)
そして彼は、ツボを両手で持ち、中の物を一気に飲み干した。
(ハチミツ一気に飲んだ!!)
(そんなに好きだったとは……)
そしてイエティは、そのツボを持ったまま、洞穴に戻って行った。
(気に入ってもらえたようだわ)
(次は私が行ってきます)
そう言って、リノはビンを持ち洞窟の入り口へ置いてきた。
リノと入れ替わりにイエティが洞穴から出てくる。
(だいぶ警戒しなくなったみたいだね……)
イエティがビンの臭いを嗅ぎ、その中の物を一気に飲み干した。
(飲んだ!)
(リノっち、何入れたの?)
(練乳です)
(練乳!?)
イエティはビンを一気に飲み干し、その場所に座り込んだ。
そして彼は、飲んだ物を吐き出すと、洞穴の中へ戻って行った。
リノはそれを見て涙目になる。
(そりゃ練乳一気に飲んだらね……)
エリーはそう言い、フェイはリノの頭を撫でて慰めた。
(次は某の番だな)
次はヒナが食べ物の入った袋を手に、洞穴へ向かい、その袋を置いて帰って来た。
(ヒナ、何置いてきたの?)
(激辛せんべいだ)
(えぇっ!? 大丈夫かな……)
(甘いものは好きみたいだけど、辛いものはどうなのかしらね……)
(某の大好物だ、嫌いな訳は無い)
(どうかな~?)
クロウ達は疑問に思いつつも、その様子を見守った。
イエティが洞穴から出てきて、袋に顔を近づけ、臭いを嗅ぐ。
その時、上空から大きな灰色の生き物が地上へ飛び込んで来た。
――飛竜だ。
飛竜はイエティの洞穴めがけて急降下し、そこにあった袋を奪い取った。
イエティは両腕を振り上げ、怒りを露わにするも、飛竜は高く舞い上がってしまう。
飛竜は洞穴の上のほうの岩へ着地すると、激辛せんべいが入った袋を貪り始めた。
すると飛竜の顔が赤く染まり、大声で絶叫しだした。
怒った飛竜は上空へ飛び上がると、急降下してイエティを襲う。
「まずい、助けよう!」
クロウがそう言い、五人は岩陰を飛び出し、洞穴へ走る。
飛竜はイエティの頭の上から火を吹いて彼を襲う。
「あの飛竜、火を吹くのか!」
ヒナがそう言うも、
「激辛せんべいのせいでしょ!」
と、エリーに突っ込まれる。
彼らが洞穴に走って近づくと、イエティは洞穴に隠れ、再び飛竜は飛び上がった。
五人は空を見上げ、飛竜と戦う構えを見せるが、上空の敵が相手では攻撃手段は限られる。
それぞれ攻撃手段を考えていると、飛竜が襲いかかってきた。
「氷結飛針!」
フェイの魔法が飛ぶが、飛竜には大きなダメージを与えられない。
リノの銃撃で飛竜の羽に穴を空けるも、小さすぎて効果は薄い。
飛竜は急降下して五人に近づくと、火を吹きかけてきた。
その炎をクロウがフルティンで薙ぎ払い、消化する。
飛竜の爪が彼らに襲いかかると、ヒナはすれ違いざまに爪を斬り払う。
エリーも飛竜の足を狙い、斬り抜けるも、小さい傷しか与えられない。
そして飛竜は上空へ飛び上がり、次の攻撃の構えを見せる。
五人は体勢を立て直し、次の攻撃に備えるが、迷っていた。
(このままでは分が悪すぎる……)
そうは思っても、飛竜は再び急降下しながら襲ってきた。
先ほどと同じように、フェイとリノが攻撃し、クロウが炎を斬り払う。
ヒナとエリーで飛竜の爪と足を攻撃するが、効果は薄いようだ。
再度飛竜は飛び上がり、こちらへ攻撃の構えを見せた。
その時、クロウは叫んだ。
「フェイ、雪の吹雪をくれ!」
「なんでよ!?」
「いいから早く!」
クロウにせっつかれ、フェイは魔法を唱える。
「氷結吹雪!」
もちろん、その魔法は飛竜に遠すぎて効果は無い。
だが、クロウはその吹雪の中に剣を入れ、凍らせたのだ。
そして飛竜がこちらへ向けて、急降下してくる。
クロウはそこを狙い、フルティンを振り上げた。
するとどうだろう、冷えたフルティンの水しぶきが、氷の刃となり、飛竜に飛んで行ったのだ。
飛竜はその氷の刃に驚くも、そこへ向けて全力で飛び込んでしまった。
腹と片翼を斬られ、大きなダメージを受た飛竜は、絶叫を上げながら地面に落ちた。
飛べなくなった飛竜は、もう彼らの敵ではない。
時を置かず五人に切り刻まれ、命を落とした。
「まさか剣の水にあのような使い方があったとは……」
驚嘆するヒナ。
「なに、思い付きが上手くいっただけさ。フェイの氷魔法あってのものだしな」
「戦いにはこういうやり方もあるのだな、と、其方達に驚かされる一方だ」
「じゃあ、今度は怖い所で驚かせてあげる」
エリーがヒナをからかう。
「う……、それは困る……」
「今度は氷でお化けを作ってみようかな?」
フェイも続けてからかう。
「うぅ……」
ヒナは額に手を当て、固まってしまった。
「冗談はそれくらいして、イエティさんを見に行きましょうか」
「そうだな、もう警戒してくれないといいんだがな」
五人は洞穴に入り、イエティの様子を見に奥へと進む。
そこでは、彼がハチミツの入ったツボを抱えて、寝床でぐっすり眠っていたのだ。
その寝床の近くには、輝く鉱石が埋まっていた。これがオリハルコンだろう。
「幸せそうに寝てるわね……」
「起こさないよう、音を立てないように掘らないとな」
「結構難しいね」
「オリハルコンの外側の硬くない岩を削るといいですよ」
「刀の炎で削り溶かそう」
五人はイエティを起こさないように、そっとオリハルコンを抜き取ると、その洞穴を後にした。
リベルタスに戻った一行はオリハルコンを倉庫に置き、鍵をかけ厳重に保管した。
ドルフの話では、オリハルコンとアダマンタイトの両方があれば、ランクS相当の武器が作れるという事なので、彼らは次にアダマンタイトを探すことにする。
五人は街の中で一通り情報を集め、それらしき情報を整理し、今日はここで休みを取る事にした。
果たしてアダマンタイトは見つかるのだろうか、彼らの冒険は続く……。
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その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。
「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」
「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」
こんなヤバいやつの話。
静寂の星
naomikoryo
SF
【★★★全7話+エピローグですので軽くお読みいただけます(^^)★★★】
深宇宙探査船《プロメテウス》は、未知の惑星へと不時着した。
そこは、異常なほど静寂に包まれた世界── 風もなく、虫の羽音すら聞こえない、完璧な沈黙の星 だった。
漂流した5人の宇宙飛行士たちは、救助を待ちながら惑星を探索する。
だが、次第に彼らは 「見えない何か」に監視されている という不気味な感覚に襲われる。
そしてある日、クルーのひとりが 跡形もなく消えた。
足跡も争った形跡もない。
ただ静かに、まるで 存在そのものが消されたかのように──。
「この星は“沈黙を守る”ために、我々を排除しているのか?」
音を発する者が次々と消えていく中、残されたクルーたちは 沈黙の星の正体 に迫る。
この惑星の静寂は、ただの自然現象ではなかった。
それは、惑星そのものの意志 だったのだ。
音を立てれば、存在を奪われる。
完全な沈黙の中で、彼らは生き延びることができるのか?
そして、最後に待ち受けるのは── 沈黙を破るか、沈黙に飲まれるかの選択 だった。
極限の静寂と恐怖が支配するSFサスペンス、開幕。
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【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
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フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
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VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
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古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
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ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜
八ッ坂千鶴
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普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。
そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!
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突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
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