このVRMMOは色々と異常な気がする

酒屋陣太郎

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第二部

第30話 炎上、リベルタス

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 ――一行は『イトの国』から定期船に乗り、『リベルタス』へ向かっていた。
 帰りの船上では、特に魔物に襲われることもなく、平穏に進んでいる。
太陽が高いところから徐々に下がって行き、間もなくリベルタスが見える頃だろう。
そう思い、船の先頭に立ち、その先を見る。
しかし、前方に見えたものは、街からは煙が上がり、その上の何匹もの飛竜が飛んでいる、そんな光景だった。
「あの煙……、街が襲われてるのか……?」
「そう見えるけど……、ここからじゃ……」
「空に飛竜が飛んでるわね、街を襲っているのかしら……」
「そんな……、酷い……」
「一体何が起こっているのだ……?」
 一行だけでなく、他の乗客も船首に集まってきた。
だが船の上からできる事は何もない。
船がリベルタスに近づくにつれ、街が炎上しているのが分かり、歯噛みする。
早く船が街に着かないかと思うも、船は定常の速度で進んで行く。
港がはっきり見える頃には、街の中でも魔物との戦闘が起こっているのが見えた。
 そして船が港に着くと、一行は飛び降りるように船着き場に上がり、街の中へ向けて走り出した。

 リベルタスの街の広場でも、戦闘が起きていた。
広場の周囲の建物は所々崩れ、火を出している所もあった。
辺りには倒れた冒険者や魔物が散乱し、見慣れた広場の光景はもう無かった。
中央付近には『ドラゴン』や、ゴブリン、オークなどが冒険者と戦っている。
一行は武器を抜き、手近な魔物を斬りつつ、ドラゴンへ向かう。
 そのドラゴンは大きいものでは無かったが、威圧感は普通の魔物のものでは無い。
ドラゴンが口から火を吹くが、クロウの『フルティン』の水属性でそれを斬り払う。
氷結飛針アイスニードル!」
フェイは魔法でドラゴンの口を封じるも、彼の口内の熱ですぐ溶かされてしまう。
「そこっ!」
ヒナの『雪食一眼ゆきはみいちがん』が刀から炎を発して斬りかかり、それと同時にクロウも斬りつけた。
その時、ヒナの雪食一眼がフルティンと接触してしまい、刀の炎が消えてしまう。
「何してる! 炎が消えたぞ!」
「スマン! 剣が当たった」
エリーがドラゴンの尻尾を狙い、斬りかかるも余り傷を与えられない。
氷結飛槍アイスジャベリン!」
フェイの魔法でドラゴンの動きを止めた時、クロウがフルティンをドラゴンの口の中めがけて突き刺す。
フルティンはドラゴンのキバで咬まれるも、その度に悲鳴のように水を出し続けた。
次第にドラゴンの腹が膨らんでいき、大量の水でその腹が膨れ上がってしまう。
その腹をリノが銃で撃ち抜くと、水が噴水のように漏れだした。
氷結飛槍アイスジャベリン!」
漏れ出した水をフェイが凍らせ、さらに動きを止める。
「もらった!」
そこを狙いヒナが下段からドラゴンの首を切り上げ、その首を落とす。
五人の攻撃によってドラゴンを倒した一行は、油断せずに周囲を警戒した。

 周りに敵はおらず、強敵を倒し安堵する一行。
突然、そこへ上空から飛竜が降りて来て、女性の声が聞こえた。
「君達か! いい所に来た、手を貸してくれ!」
その声の主は『グレイス』であった。
「グレイス、何があった?」
クロウは早口で尋ねた。
「私も途中から来たので分からないが、例のハッカーが魔物を連れて来たらしい」
「そうなの!? そのハッカーは?」
「分からん、今はここにいないらしい」
「その飛竜、どうしたの?」
「近くに手頃な飛竜がいたのでな、調教して乗り物にしたのだ」
「街の皆さんは大丈夫なのでしょうか?」
「分からん。私は上から偵察しつつ戦っているが、敵の数が多すぎるのだ」
「分かった、魔物を斬れば良いのだな、任せろ!」
「頼むぞ、戦える者も少なくなってきた」
グレイスはそう言うと、飛竜を器用に操り、上空へ飛んで行った。

「よし、生き残りを助けつつ、魔物を減らそう」
クロウはそう言い、一行は魔物を斬りながら進んで行く。
街の中にいる魔物は、強い者も弱い者も混在していたが、魔物達同士で争う事も無く、次々と街の人を襲っていた。
 五人は街中の魔物を斬り、怪我人を助け、街の北側の入り口へ向かった。
そこでは、大型のアイアンゴーレムと戦っている、人間の戦士とドワーフがいた。
彼らの姿は既に知っている。『ウィグラフ』と『ドルフ』だ。
五人は彼らに加勢すべく、アイアンゴーレムに斬りかかる。
「おう! お前ら、いいとこに来たな! こいつは食えんから好きじゃないんだ」
「まだ食い意地張ってんのか、アホが」
「うるせぇ、ジジイ! ポンコツ槍よこしやがって!」
「腕がヘボイんじゃ!」
ウィグラフとドルフは罵り合いながらアイアンゴーレムと戦っている。
彼らはなんだかんだ言っても、仲はいいらしい。
五人はそんな二人に加勢して、アイアンゴーレムに攻撃を加え始めた。
 クロウがアイアンゴーレムの腕に斬りかかるも、腕で止められてしまう。
だがその剣から水が流れ、腕を伝って、肘の関節まで水が流れ込んだ。
フェイはそれを見て、そこをめがけて氷魔法を撃ち込む。
敵の腕が凍り付いて動かなくなった所で、ヒナが雪食一眼でその腕を切り落とした。
片腕を失いつつもさらに暴れるアイアンゴーレム。
敵の足先めがけてドルフがハンマーで叩き潰すと、エリーが敵のかかとを斬る。
よろめく敵にウィグラフが激しい突きを入れ、敵を転ばせる。
 アイアンゴーレムの見た目は大きく変わらなくても、七人の攻撃によって次第にダメージを蓄積させていき、ついに倒れて動かなくなった。
「お久しぶりです、お二人とも大きな怪我が無くて良かったです」
リノはこの場の全員の手当てにかかる。
「おう、よくやったな!」
ウィグラフはこちらを見て、そう言った。
「おっさん、無事だったか!」
「まぁな、この程度じゃ死なんさ」
「でも、あたしらが来なかったらヤバかったんじゃない?」
「そん時はすぐ逃げるさ」
「アイアンゴーレムは魔法が無いと厳しいからね~」
「一応、この槍は雷属性のはずなんだがな」
「お主の腕がヘボイからじゃよ」
「ジジイ、もっとまともな武器作れって!」
「この場の敵はいなくなったが、どうする?」
「そうだな、別な所へ行こうか。他でも誰か戦ってるみたいだし」
「おう、がんばれよ! そういうのは若いやつに任せた!」
「そうじゃの、儂らは年だしの」
「都合のいい時だけ年を認めるのね……」
彼らはそう話して、クロウ達五人が他の場所の救援に向かい、ウィグラフとドルフはここの北門を守ることにした。


 再び街を歩きながら魔物の掃討と負傷者の救助をする一行。
次は通りを進みながら、東門を目指すことにした。
一度広場へ出ると、そこは落ち着きを取り戻していて、魔物の姿は無くなっていた。
横たわる怪我人やそれを治療する者などがいるが、一行は彼らに任せて東へ向かう。
 東門の方ではまだ戦闘が続いているようだ。五人は足早にそこへ走る。
突如、前方で爆発が起こり、視界を砂塵が遮る。
腕で砂塵から目を守るように塞ぎつつ、なんとか前を見ようとする。
そこへ誰かが吹き飛ばされ、転がってきた。――ライシスだ。
リノは倒れているライシスに回復魔法をかけた。
「……お前らか……。東門にヤバイやつがいる。彼女を助けてやってくれ」
「どうした、ライス!? レンジでチンされたのか?」
「……違う……、ヤツだ、ハッカーだ」
ライシスはツッコミをいれる余力も無いようだった。
周囲を舞っていた砂塵が晴れ、東門が見えてくる。
五人は緊張しつつそこを見つめる……。
誰かが戦っているようだ。あの服装は……。
彼らはとりあえず東門を目指し、走った。

 東門にいたのは『マオ』であった。
彼女が戦っているのは誰だろうか……。 少年のようだ。
その少年は細身の銀髪で、このゲームの世界の物では無いラフな格好をしていた。
 マオは無言でその少年に指を向け、光線を出す。『魔法少女ビーム』だろう。
銀髪の少年はそれを余裕で躱し、彼もまた、指先から光線を出した。
彼女はそれをギリギリで躱しつつ、距離を詰めた。
マオが銀髪の少年に掴みかかり、彼を持ち上げて宙に飛ぶ。
彼女の得意技フェイバリット、『魔法少女バスター』だ。
マオは銀髪の少年を逆さに肩に乗せ、その両足を引き裂きつつ、尻餅をつくように地面に着地した。
大技が決まり、これで勝負は終わったかに見えた。
だが、その少年は地面に落ちると消えてしまい、どこにも見えなくなってしまった。
 一行が東門に着くと、マオはこちらに話しかけてきた。
「アンタ達、なにしに来たのよ?」
「あれ? 今回は『魔王』じゃないのか?」
「そうよ、ラスボスはさっきの子供よ。多分コピーだけどね。それに今回はアタシを倒してもムダよ、もうラスボスじゃないしね」
「子供って……、そういうマオは何でここにいるの?」
「ラスボス目当てよ、探してたの」
「あれが本当にラスボスなのかしら?」
「多分そうよ、アタシの技を盗んですぐ使ったり、魔物を集めて街を襲ったり、とても普通じゃないわ。あんな事はアタシににも出来ないわね」
「それでは、この街は大丈夫なのでしょうか?」
「そうね、あの子供が何しに来たのか知らないけど。もうここにはいないしね」
「あれが今回のラスボスか……」
「アンタ達には無理よ。大人しくお茶でも飲んでなさい。じゃ、アタシは行くから」
マオはそう言って、街を出てどこかへ歩いて行った。
きっと一人でラスボスを探しに行くのだろう……。


 ……リベルタスの街中の戦いは、ひとまず終わりを告げた。
街を破壊された規模は大きかったが、半数近くの冒険者は無事だったようだ。
街の中で戦った者達は、有り合わせの物資を集めて、ささやかな祝宴を開いた。
 一行は早々にその場から離れ、自分たちのギルド拠点へ戻って行った。
「今回のラスボス、相当強いな……」
クロウは真剣な顔でそう言った。
「だね~、今のあたしらじゃ、勝てそうにないわね」
エリーもぼんやり考えているようだ。
「ウチらも、もっと強くならないとダメね」
フェイは自分の髪をいじりながらそう言った。
「やはり、クエストをこなすなりして、強くならなければいけませんね」
リノもやる気を見せる。
「そうだな、某ももっと強くならねばな」
ヒナは目を閉じ、何か考えているようだ。
五人はそうして考え込む……。とは言っても、すぐに強くなれる訳ではない。
 そうして沈黙していると、誰かが入り口の扉を叩いてきた。
リノが扉を開け、応対する。
そこにいたのは、ウィグラフとドルフだった。
「やあ、こんばんは。暗いね~、どうしたんだ?」
ウィグラフはいつもと変わらず、皆に話しかけた。
「今回のラスボスが強そうだから、どうしたもんかと思ってたんだ」
クロウがそう答えた。
「まあな、俺は気楽に旅して回るよ。まだ食ってないもんもあるしな」
「おっさんは相変わらずそれね~」
「つーことで、俺はしばらく街に戻らないから、代わりにこのジジイ置いてくよ」
「儂はお前の置物じゃないわ!」
「じゃあ、俺は出かけるからな、後は任せたぞ」
ウィグラフはそう言って、どこかへ旅立っていった。
 残ったドルフは口を開いた。
「儂はな、壊されたこの街に残り、復興の手助けをしようと思っておる」
「そうなのか、爺さん、それは助かる」
「うむ、そのうち店を構えるつもりじゃ」
「へぇ~、爺さん、本格的に商売始めるのね」
「商売というか、若い者達に武器を作ってやり、あの銀髪の小僧を倒す手助けをしようかとな」
「それは心強いわね。でも、タダではないんでしょ?」
「それはもちろんそうだ。アマダントンか、オリハルコンを持ってきてくれれば、お主らにも武器を作ってやるぞ」
「銃は作れるのでしょうか?」
「ああ、できるぞ。ただな、銃弾は無理じゃな」
「そうですか、でも素材を手に入れたら頼みたいですね」
「うむ、儂はこの街のどこかにいるから、用があったら呼んでくれ。じゃあの」
ドルフはそう言って、ひとまず去って行った。

 そして再び相談を始める一行。
「となると、鉱石が必要になるわけか……」
「どっちもレアな鉱石だよね」
「簡単に採掘できる場所が分かれば、簡単なんだけどね~」
「まず、鉱石の場所の情報を集めなければいけませんね」
「そうだな、鉱石を探していれば、修行にもなるだろうしな」

 こうしてリベルタスを救った一行であったが、課題は残った。
今回のラスボスとなる銀髪の少年。それに対抗する力を得られるのであろうか。
五人はそれぞれ心に何かを秘めつつ、今日は休む事にしたのであった。
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