同志、求む！

第１話 人攫いあらわる！

３

自分の意にそぐわないラブレターという名のストレスを目の前からなくし、なかったことにするとわたしの心に少し余裕がうまれた。自分以外の周囲に気を向けることが出来るようになって気づく。

子供の泣き声がぴたり、と止んでいた。
口元の泣きホクロがセクシーな若い母親と幼児特有のふっくらとした頬をした息子のふたりで暮らしているお隣さん。
そういえば、好き嫌いしないの！早く準備しなさい、遅刻するでしょ！！とかいうような母親が叱りつける声もきこえてきたが一方的に子供が嫌がって泣くことなんてなかったけどな、とわたしはふと思った。

窓の外に視線が向くと金髪でタキシードのような黒い服を着た男が子供を米俵担ぎをして走っていく姿があった。
鼻を垂らして走るわんぱくな子供から入れ歯を飛ばして話すおしゃべり好きお年寄りまで、人攫いだ！と証言するに違いない非日常的な場面に出くわしてわたしは面倒くさいな、と舌打ちした。
正直に言うと関わりたくない。

「……だけど、見過ごすわけにはいかない。後悔するに決まっている」

助けにいけばよかった、と過去を悔いて生きる人生なんて嫌だ。
今が過去になってしまったら変えることは出来ない。後悔する選択はしないに限る。