乙女よ、翔べ。

遊虎りん

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第一章

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風が血生臭い匂いを運んでいた。生命を奪われる危機感と嫌悪感で鼻の頭に皺が寄る程だ。
これは、何かが起こっているといち花と参は瞬時に察した。

一瞬時が止まったように風がやみ、轟音が鼓膜を破らんとばかりに耳を突き抜けて脳髄まで響いた。
咄嗟に参はいち花を抱き抱えて衝撃に耐える。

土が捲り上がり、小石や砂が頬を傷つけていく。
砂嵐が止むといつもの風景が一変していた。屋敷を取り囲んでいた木々達は薙ぎ倒され、池の水が吹き飛ばされている。

「……ほこらが、……!!」

いち花の目が大きく見開かれる。
目の前に重々しく聳え立ち、刀をまつっているほこらがなくなっていた。大きな空洞が出来上がり、バチバチと火の粉を撒き散らしている。
刀の気配がない。前代未聞の一大事だ。

「助けをお願いしないと、まだ鬼達は来ていません。でも、時間がない。」

人間界には、人々を一つにまとめる者がいる。豪胆な人物で刀の扱いがうまく、鬼を斬ることができるつわものだ。
行方しらずの刀をさがし当てたとしても、心をしずめるのに時間がかかる。その間、守ってくれるものが一人でも多いと心強い。

「鬼達がこちらに来るのをふせいで、そして……やる。やるの、わたくしの役目だから」

緊張でめまいがする。人間と鬼がすむ世界をいつもと変わらない日常のままにと、ここまで考えていち花は顔に血が集まるのを感じた。

「……いち花様?どうなされたのですか、顔が真っ赤です。」

「刀様の心配をしていませんでした。」

そして、自分の安全を考えてしまった。いち花は己が恥ずかしくてたまらない。
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