乙女よ、翔べ。

遊虎りん

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第一章

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いち花、と低く穏やかな声で名前を呼ばれて少女は涙が滲んだ瞳を不安そうに細めて顔をあげた。
食事が喉を通らず、水さえも拒絶している青白い男の顔は病的である。その顔を直視するのはつらいが、いち花は記憶に焼き付けるようにまっすぐ見つめた。
男はいち花の父親である。

「覚悟は出来ているかい?…私はもう長く生きることはできない。分かっているね」

答えることを促されていち花は言葉よりも身体が反応してしまい、こくん、と頷いて震えて思いどおりにならない声を絞り出して返事をした。

「……はい。認めたくはないけど、分かっています。」

不安に揺れる震えている声だ。
そんな娘の声をきいた、父親はもがくように顔をゆがめ、痛ましそうに目を細めた。

「こんなことになってしまってすまないね。弱い父を許せとはいわない。憎んでくれてもいい。だけど、生きてくれ。頼む、死なないでくれ。」

抹消まで血が通わず父親の手は冷たいが、大きい。
少し前までは生命力が溢れる、そんなあたたかな手であったことを思い出して切なくなった。
細く頼りない少女の華奢な手を包み込んで切実な願いを込めて懇願した。
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