3人play。

遊虎りん

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43 悪夢⑤

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***

「お嬢ちゃん。ずいぶんと酷い顔色してるなぁ。せっかく助かった命なのに、生きてるのを後悔している顔だ」

ユイは父親に娘を高値で買うと声かけた人買いを探しているとこの村で見たことがない中年の男から声をかけられた。
にこやかな、人のようそうな顔をしているが瞳の奥は冷たく笑ってはいない。

「…おじさん、人買いでしょ?私を買って。家は貧しいからお金が必要なの」

建前は口減らし。だが、本当の目的はどんな手段を使ってでもこの村から出る事。
父親や兄弟は僅かな金が入り喜ぶだろう。
この村で自分は死ぬわけにはいかない。
ムガクの餌になって、このイカれた村人達を喜ばせたくない。

「…自分から買ってくれ、なんて言われるのは初めてだ。たいてい泣く泣く俺に買われて俺に売られんのになぁ」

「他の子なんて知らない。私がお金になるなら何でもするから、買って」

殴られても蹴られても絶対に死なない。
どんな辛いことでも耐える。
人買いの男はユイを買って、父親に金を渡した。
別れは悲しくなかった。母が最期に抵抗した事を自らの意思で行うのは申し訳なく、罪が重くなったと感じた。ずしり、と肩が重い。
横を向くと恨めしそうな母の顔がありそうで怖い。

(私を恨んで、許さないでね、お母さん)

心のなかでユイは母に語りかけた。
もう2度とこの家に帰ることはない。
人買いと共に村の外に初めて出た。1歩、踏み出すと妙な心地になる。まったくいい思い出がないのに寂しさに似た感情が芽生えてユイは奥歯を噛み締めた。
後ろを振り向かずユイは歩き始めた。

ユイは金持ちの家に売られた。人手はいくらあっても足りぬ、と小太りの家の主人は卑しい笑みを浮かべ人買いの男に金を渡した。

その日からユイは物になった。

失敗しても失敗しなくてもユイは主人の虫の居所が悪いと鞭を打たれた。
身の回りの世話や掃除がユイの仕事ではなく、ストレス発散の捌け口がユイの仕事だった。
村に居た頃と何も変わらない毎日で、ここに居るのは自分の意思だから辛くなかった。
じっと主人の暴力に堪えて逃げる隙を窺い過ごした。

ある夜、ざわざわとした気配を感じユイは目覚めた。耳をすますと闇のなかで何かが蠢いている音が聞こえる。

確実にこの屋敷の中で何かが起こっている。
これは待ちに待ったチャンスだ。
ユイは素早く準備を整えた。

息を潜め部屋から出る。

「……お前、どこに行く気だ」

屋敷の使用人の男に見付かった。男は屋敷の異常に気付いていない。夜中にうろついているユイを発見し、夜逃だと目を怒らせる。殴られると痛みを覚悟するが、痛みよりもどさり、と床に落ちる音が聞こえた。そして、血の匂い。

見上げると冷徹な瞳をした長身の男がたっていた。
肌の色は真っ白で人間とは思えない、冷たく尖った牙のような男だ。

殺される、と瞬時に思う。しかし、簡単に死んでは駄目だ、と心が燃えた。ユイは盗んでいたナイフを構える。睨み付けると男に向かっていった。

しゅ、と飛び掛かるも男が避ける。つう、と男の頬にナイフが掠めて血が滲む。

「…ふ、…俺の血を見るのは久しぶりだ。まだ赤いのか」

男は自分の頬に走った傷口を親指でなぞり、付着した血を見つめ舐めた。
物珍しそうにユイを見下ろす。他人から向けられる初めての悪意ではない、妙な眼差し。

「死にたくなければ、俺と来い」

手を差し伸ばされる。人間を瞬時に殺す男だ。しかし、強い。人間を守るには殺す術を知るべきだと判断した。
ユイは男の手を取った。引き寄せられ肩に乗せられる。
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