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紅の夜
其の三
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その妖怪が村を去ってから、人が瞬きを三回する程の時間に一組の男女が到着した。男は人間ながらも獣の如く屈強の体躯を持ち顔立ちも野性味帯びた雄臭い容貌をしていた。
「くそ、一足遅かったか……すまん、お前達を助けられなかった」
膝を着いて奥歯を噛み締める。だん、っと拳を地面に打ち付けて恐怖の内に死んでいった村人達に心から侘びた。妖討伐を掲げる者特有の服装をしている。
そして、女の方は放漫な胸と男を誘う魅惑的な白い肉体を持つ美しい女だった。絶世の美女と表現しても過言ではない。
冷たく凍ったような瞳の奥には静かな怒りを秘めていた。
「戯王、悔やんでも死んだ者は戻らぬ。涙は生きている者にとっておけ」
落ち着いた声で告げ、ふと眉を潜めた。視線を一点に向けてそちらに歩き始める。
「……っ、紫苑さすが俺の親友!」
自分の方に歩いてきたと勘違いした戯王が紫苑の細い腰を抱き締めようと両手を広げるが、すっと通り過ぎる。戯王は空気を熱く抱き締めた。
「て、おい紫苑、何処に行く?」
赤い下駄を鳴らしながら歩く紫苑の後をついてくる戯王。いつもの光景で紫苑の尻を追いかけている、と仲間にからかわれる。
「子供だ、ただの『人間』だった、子供」
苦悶の表情を浮かべ固く目を閉ざしている子供の傍らに坐り込み、呟く。紫苑の指が少年の首筋を辿る。そこには人間が読めない字が刻まれていた。
それは、人間の字でいうなら『女』という文字。紫苑は少年に哀れみの視線を向けた。自分にも同じ文字が首筋にあった。
「…こいつは厄介だな。殺すか?」
戯王が紫苑の元に辿り着いて少年を見て眉を潜めた。
「この子供を殺すならば、私も殺せ。同じ厄介なモノだ」
紫苑は美しい口元を歪めて戯王を射ぬくように切れ長の涼しい眼差しで射ぬいた。
「くそ、一足遅かったか……すまん、お前達を助けられなかった」
膝を着いて奥歯を噛み締める。だん、っと拳を地面に打ち付けて恐怖の内に死んでいった村人達に心から侘びた。妖討伐を掲げる者特有の服装をしている。
そして、女の方は放漫な胸と男を誘う魅惑的な白い肉体を持つ美しい女だった。絶世の美女と表現しても過言ではない。
冷たく凍ったような瞳の奥には静かな怒りを秘めていた。
「戯王、悔やんでも死んだ者は戻らぬ。涙は生きている者にとっておけ」
落ち着いた声で告げ、ふと眉を潜めた。視線を一点に向けてそちらに歩き始める。
「……っ、紫苑さすが俺の親友!」
自分の方に歩いてきたと勘違いした戯王が紫苑の細い腰を抱き締めようと両手を広げるが、すっと通り過ぎる。戯王は空気を熱く抱き締めた。
「て、おい紫苑、何処に行く?」
赤い下駄を鳴らしながら歩く紫苑の後をついてくる戯王。いつもの光景で紫苑の尻を追いかけている、と仲間にからかわれる。
「子供だ、ただの『人間』だった、子供」
苦悶の表情を浮かべ固く目を閉ざしている子供の傍らに坐り込み、呟く。紫苑の指が少年の首筋を辿る。そこには人間が読めない字が刻まれていた。
それは、人間の字でいうなら『女』という文字。紫苑は少年に哀れみの視線を向けた。自分にも同じ文字が首筋にあった。
「…こいつは厄介だな。殺すか?」
戯王が紫苑の元に辿り着いて少年を見て眉を潜めた。
「この子供を殺すならば、私も殺せ。同じ厄介なモノだ」
紫苑は美しい口元を歪めて戯王を射ぬくように切れ長の涼しい眼差しで射ぬいた。
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