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第一章
第2話 異世界もいいもんだ 1
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享年102才のおばあちゃんであるヨリの記憶が転生先の12才の少女リズに甦って、その翌日。
目が覚めたらヨリの方だった。ヨリの母親が亡くなった時の記憶が夢として再現され、まだ幼いリズは辛い記憶に泣いてしまったのだ。兄のジルに慰められ何とか眠ることは出来たが、先程ようやくの事だったのでリズの意識は深く沈んでいる。
泣いて腫れた目元を冷して、ヨリは幼い顔立ちの自分を鏡で見つめた。
瞳は大きく柔らかな少女らしい甘い顔立ち。白い肌。睫毛が長くてお人形さんのように全部が整っている。
ヨリは自分の容姿には満足していた。少々目元がきついが昔の女性としては背が高い方でスタイルは良かったし、はっきりとした性格は性別問わず好まれた。下の者からは姉さん、と慕われた。後輩たちをヨリは可愛がった。
(なんだか、悪いわね。リズとして生きたほうがいい。私は邪魔だね。まるでこの子に取り付いている幽霊ね、私は)
そっとため息を洩らし、ヨリはネグリジェから着替えて学校に行く準備を始めた。
ヨリは教職に就いたのは19才の時、それから死ぬ前日に学校の特別授業でおばあちゃん先生をやってきたので先生歴は83年になる。
なので、生徒をやるのは83年ぶりで少し楽しみである。
「お兄ちゃん、おはよう」
「…はよう」
朝が弱いジルは妹の挨拶に寝起きで掠れた低い声で返した。眠そうである。
「おはよう、今日はすぐ起きれたんだな」
「リズ、おはよう。さ、ごはんにしましょうね!」
少し目元は赤く腫れているが、両親は敢えてそれに触れずに優しい微笑みでリズを見つめる。
ヨリは何だか心のなかで泣きそうになった。
(私も年ね、…あら、いやだわ。今は12才だった)
泣きそうになるのを誤魔化すと、ヨリは食卓についた。
家族全員揃って食事を取るのは久しぶりだ。
ヨリの父親は、源太が生まれた後に若い女を作り蒸発してしまったのだ。
今度の自分は、とても恵まれた環境に生まれたんだな。
と、神に感謝して母親が用意してくれた朝食をゆっくりと味わった。手作りの料理は愛情が込められていて、ヨリの心を優しく包み込んでくれる。
(こんなに、穏やかな気持ちになるのは、初めてだわ)
前世ではいつも緊張で張り詰めていた。
しっかりしないと。
強くならないと。
頼りになる人間にならないと。
子供達の生きる見本にならないと。
ヨリは様々な鎧を身に付けて日々奮闘していた。
この世界では、のんびりと出来そうである。
リズを邪魔せず自分も新しい人生を楽しめたらいいな、とヨリは思った。
目が覚めたらヨリの方だった。ヨリの母親が亡くなった時の記憶が夢として再現され、まだ幼いリズは辛い記憶に泣いてしまったのだ。兄のジルに慰められ何とか眠ることは出来たが、先程ようやくの事だったのでリズの意識は深く沈んでいる。
泣いて腫れた目元を冷して、ヨリは幼い顔立ちの自分を鏡で見つめた。
瞳は大きく柔らかな少女らしい甘い顔立ち。白い肌。睫毛が長くてお人形さんのように全部が整っている。
ヨリは自分の容姿には満足していた。少々目元がきついが昔の女性としては背が高い方でスタイルは良かったし、はっきりとした性格は性別問わず好まれた。下の者からは姉さん、と慕われた。後輩たちをヨリは可愛がった。
(なんだか、悪いわね。リズとして生きたほうがいい。私は邪魔だね。まるでこの子に取り付いている幽霊ね、私は)
そっとため息を洩らし、ヨリはネグリジェから着替えて学校に行く準備を始めた。
ヨリは教職に就いたのは19才の時、それから死ぬ前日に学校の特別授業でおばあちゃん先生をやってきたので先生歴は83年になる。
なので、生徒をやるのは83年ぶりで少し楽しみである。
「お兄ちゃん、おはよう」
「…はよう」
朝が弱いジルは妹の挨拶に寝起きで掠れた低い声で返した。眠そうである。
「おはよう、今日はすぐ起きれたんだな」
「リズ、おはよう。さ、ごはんにしましょうね!」
少し目元は赤く腫れているが、両親は敢えてそれに触れずに優しい微笑みでリズを見つめる。
ヨリは何だか心のなかで泣きそうになった。
(私も年ね、…あら、いやだわ。今は12才だった)
泣きそうになるのを誤魔化すと、ヨリは食卓についた。
家族全員揃って食事を取るのは久しぶりだ。
ヨリの父親は、源太が生まれた後に若い女を作り蒸発してしまったのだ。
今度の自分は、とても恵まれた環境に生まれたんだな。
と、神に感謝して母親が用意してくれた朝食をゆっくりと味わった。手作りの料理は愛情が込められていて、ヨリの心を優しく包み込んでくれる。
(こんなに、穏やかな気持ちになるのは、初めてだわ)
前世ではいつも緊張で張り詰めていた。
しっかりしないと。
強くならないと。
頼りになる人間にならないと。
子供達の生きる見本にならないと。
ヨリは様々な鎧を身に付けて日々奮闘していた。
この世界では、のんびりと出来そうである。
リズを邪魔せず自分も新しい人生を楽しめたらいいな、とヨリは思った。
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