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第一章

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リズは夢を見ていた。

目の前には、畑が広がっているが見慣れない野菜ばかりである。
坊主頭の男の子がこちらに駆け寄ってくる。
くりくりおめめが印象的な中々可愛らしい顔立ちをしている。

「姉ちゃん、大変だ!おっかあがまた倒れた!」

膝に手を置き肩を大きく上下に揺らしゼイゼイと息を切らして一大事を絶え絶えの声で告げてくる。

ああ、そうだ、この子は源太。私の弟だ。

「加藤先生が姉ちゃん連れて来いって、…おっかあ、死んじゃうのかな」

母を診てくれている母と幼馴染みの加藤先生、懐かしい名前だ。

ぱしん、という音が聞こえる。そうだ、私は源太をぶったのだ。

リズは懐かしんで、昔を思い出すヨリの声に耳を傾ける。

「あんたがそんな気弱な事を言ってどうするの!男のくせに情けない!しゃきっとしなさい!」

源太を叱りつけて14才の頃の少女ヨリは自分の家へと走る。姉ちゃん待ってよお、とべそをかきながらも源太が後ろをついてきた。
お下げ髪が頬に何度か当たるが全く気にはならない。

「加藤先生、母は…っはぁ…母の容態は?」

布団の上で眠る母の傍らに座る、白衣を着た加藤に訊ねる。
加藤は悲しげな表情を浮かべて静かに顔を横に振った。
白い布が母親の顔に被せられた。

源太が追い付いてきて、母の方を見ると死を悟り泣きじゃくり始めた。今度は源太を優しく抱き寄せ胸の中に包み込む。

「大丈夫、姉ちゃんが源太を守るから」

ヨリはぐっと歯を食い縛り弟と自分に言い聞かせた。

(私はお姉ちゃんなんだから、しっかりしないと。源太がだめになる)

誰よりも強くなる、賢くなる、と心に誓いヨリは涙をこらえた。


リズは目を覚ました。見慣れたいつもの自分の部屋。
涙が溢れて止まらない。
悲しくて辛くて心細くて、リズは泣いた。

ありがとう、私の代わりに泣いてくれて、ヨリの微笑んでいる声が聞こえた。

「おに、ちゃん」

涙と鼻水が止まらない。兄の部屋へと行く。
眠っているジルの身体を揺さぶると、どーした?と寝起きで低い声で訊ねるとリズを布団の中に招き入れてくれた。
ぎゅっと抱き締めて背中をぽんぽん、と優しく撫でた。

「泣くな、俺がいるから、大丈夫だ。だから、安心して寝ろ」

その言葉を聞いて、リズとヨリは安心した。

異世界に転生した理由の一つは、悲しく心細かったヨリの心を優しく包み込んでくれる『兄』に慰めて貰うためだ、とリズは思った。
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