8 / 17
第一章
4
しおりを挟む
リズは夢を見ていた。
目の前には、畑が広がっているが見慣れない野菜ばかりである。
坊主頭の男の子がこちらに駆け寄ってくる。
くりくりおめめが印象的な中々可愛らしい顔立ちをしている。
「姉ちゃん、大変だ!おっかあがまた倒れた!」
膝に手を置き肩を大きく上下に揺らしゼイゼイと息を切らして一大事を絶え絶えの声で告げてくる。
ああ、そうだ、この子は源太。私の弟だ。
「加藤先生が姉ちゃん連れて来いって、…おっかあ、死んじゃうのかな」
母を診てくれている母と幼馴染みの加藤先生、懐かしい名前だ。
ぱしん、という音が聞こえる。そうだ、私は源太をぶったのだ。
リズは懐かしんで、昔を思い出すヨリの声に耳を傾ける。
「あんたがそんな気弱な事を言ってどうするの!男のくせに情けない!しゃきっとしなさい!」
源太を叱りつけて14才の頃の少女ヨリは自分の家へと走る。姉ちゃん待ってよお、とべそをかきながらも源太が後ろをついてきた。
お下げ髪が頬に何度か当たるが全く気にはならない。
「加藤先生、母は…っはぁ…母の容態は?」
布団の上で眠る母の傍らに座る、白衣を着た加藤に訊ねる。
加藤は悲しげな表情を浮かべて静かに顔を横に振った。
白い布が母親の顔に被せられた。
源太が追い付いてきて、母の方を見ると死を悟り泣きじゃくり始めた。今度は源太を優しく抱き寄せ胸の中に包み込む。
「大丈夫、姉ちゃんが源太を守るから」
ヨリはぐっと歯を食い縛り弟と自分に言い聞かせた。
(私はお姉ちゃんなんだから、しっかりしないと。源太がだめになる)
誰よりも強くなる、賢くなる、と心に誓いヨリは涙をこらえた。
リズは目を覚ました。見慣れたいつもの自分の部屋。
涙が溢れて止まらない。
悲しくて辛くて心細くて、リズは泣いた。
ありがとう、私の代わりに泣いてくれて、ヨリの微笑んでいる声が聞こえた。
「おに、ちゃん」
涙と鼻水が止まらない。兄の部屋へと行く。
眠っているジルの身体を揺さぶると、どーした?と寝起きで低い声で訊ねるとリズを布団の中に招き入れてくれた。
ぎゅっと抱き締めて背中をぽんぽん、と優しく撫でた。
「泣くな、俺がいるから、大丈夫だ。だから、安心して寝ろ」
その言葉を聞いて、リズとヨリは安心した。
異世界に転生した理由の一つは、悲しく心細かったヨリの心を優しく包み込んでくれる『兄』に慰めて貰うためだ、とリズは思った。
目の前には、畑が広がっているが見慣れない野菜ばかりである。
坊主頭の男の子がこちらに駆け寄ってくる。
くりくりおめめが印象的な中々可愛らしい顔立ちをしている。
「姉ちゃん、大変だ!おっかあがまた倒れた!」
膝に手を置き肩を大きく上下に揺らしゼイゼイと息を切らして一大事を絶え絶えの声で告げてくる。
ああ、そうだ、この子は源太。私の弟だ。
「加藤先生が姉ちゃん連れて来いって、…おっかあ、死んじゃうのかな」
母を診てくれている母と幼馴染みの加藤先生、懐かしい名前だ。
ぱしん、という音が聞こえる。そうだ、私は源太をぶったのだ。
リズは懐かしんで、昔を思い出すヨリの声に耳を傾ける。
「あんたがそんな気弱な事を言ってどうするの!男のくせに情けない!しゃきっとしなさい!」
源太を叱りつけて14才の頃の少女ヨリは自分の家へと走る。姉ちゃん待ってよお、とべそをかきながらも源太が後ろをついてきた。
お下げ髪が頬に何度か当たるが全く気にはならない。
「加藤先生、母は…っはぁ…母の容態は?」
布団の上で眠る母の傍らに座る、白衣を着た加藤に訊ねる。
加藤は悲しげな表情を浮かべて静かに顔を横に振った。
白い布が母親の顔に被せられた。
源太が追い付いてきて、母の方を見ると死を悟り泣きじゃくり始めた。今度は源太を優しく抱き寄せ胸の中に包み込む。
「大丈夫、姉ちゃんが源太を守るから」
ヨリはぐっと歯を食い縛り弟と自分に言い聞かせた。
(私はお姉ちゃんなんだから、しっかりしないと。源太がだめになる)
誰よりも強くなる、賢くなる、と心に誓いヨリは涙をこらえた。
リズは目を覚ました。見慣れたいつもの自分の部屋。
涙が溢れて止まらない。
悲しくて辛くて心細くて、リズは泣いた。
ありがとう、私の代わりに泣いてくれて、ヨリの微笑んでいる声が聞こえた。
「おに、ちゃん」
涙と鼻水が止まらない。兄の部屋へと行く。
眠っているジルの身体を揺さぶると、どーした?と寝起きで低い声で訊ねるとリズを布団の中に招き入れてくれた。
ぎゅっと抱き締めて背中をぽんぽん、と優しく撫でた。
「泣くな、俺がいるから、大丈夫だ。だから、安心して寝ろ」
その言葉を聞いて、リズとヨリは安心した。
異世界に転生した理由の一つは、悲しく心細かったヨリの心を優しく包み込んでくれる『兄』に慰めて貰うためだ、とリズは思った。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
転生ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?
九條葉月
ファンタジー
突然ですが乙女ゲームのヒロインに転生しました。
「イケメンとの恋愛なんて興味ない! 知識チートで大富豪になってやる!」
これは、ヒロインに転生した少女が幼なじみのメイドを攻略したり、男装の王太子を攻略したり、悪役令嬢を攻略したりする物語である……。
「……あれ? どうしてこうなった?」
小説家になろう・カクヨムでも掲載しています
魔物ばかりの異世界に転移したおっさんは何を思う
甲斐枝
ファンタジー
うだつの上がらないおっさんが転生した先は時代劇の世界。そして魔物しかいない。自分の姿も変化している。その割にイージーモードでストーリーは進みます。何のためにその世界に行かされたのか。どうすればいいのか。魔法とはどういうものなのか。おっさんは生きることに足掻きながら考えます。でも面倒臭がりなので、どうなることやら。
*上記に今のところ相違ないのですが、所々シリアスで陰惨な話が出てきたりしているので、ご注意ください。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】転生したら登場人物全員がバッドエンドを迎える鬱小説の悪役だった件
2626
ファンタジー
家族を殺した犯人に報復を遂げた後で死んだはずの俺が、ある鬱小説の中の悪役(2歳児)に転生していた。
どうしてだ、何でなんだ!?
いや、そんな悠長な台詞を言っている暇はない!
――このままじゃ俺の取り憑いている悪役が闇堕ちする最大最悪の事件が、すぐに起きちまう!
弟のイチ推し小説で、熱心に俺にも布教していたから内容はかなり知っているんだ。
もう二度と家族を失わないために、バッドエンドを回避してやる!
転生×異世界×バッドエンド回避のために悪戦苦闘する「悪役」の物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる