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第一章

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夜、私は目を覚ました。ゆっくりと上半身を起こしてベットから抜け出した。スリッパを履かずに裸足のまま廊下に出る。

(ああ、体が軽いわ)

雪の寒い日、玄関先で転んで骨折してから車椅子生活であったため、自分の足で歩くのは久しぶりだ。いや、正確には自分の足ではない。新しく生まれ変わった、リズという女の子の足である。

「リズ、こんな夜に何処に行くんだ?」

外の空気が吸いたくて玄関に向かうと、ちょうどトイレから出てきたジルと鉢合わせになった。

「え、と…外の空気が吸いたくて。でも、いいの。寝るね」

「一人は危ないから、俺も行く」

こんな幼い少女が外に出たら、家族は心配するだろう。
止めよう、と思い直したらジルがついてくる、と言うので驚いて目を丸めた。

「外の空気吸いたいんだろ?」

ふ、と笑い柔らかく頬笑むジル。優しい兄の表情に胸がときめく。
若い男に微笑まれて『ヨリ』は顔を赤らめて胸を押さえた。

(何だか逢引きしているような、気分…いけないわ、リズのお兄様なのに)

ジルはいつものようにリズと手を繋ぐ。普通の兄弟よりは二人は仲良しで、人混みや暗い場所など危ないところに行くときは手を繋いで歩く。それだけのことなのに、ヨリの心臓はドキドキと早鐘打っている。真っ赤な顔して俯きながら歩いた。

サンダルを履くと二人は家から出た。

新鮮な外の空気。それは、地球の空気とは違い少しだけ冷たく感じた。
銀色の髪が風によって靡いた。ピンク色のネグリジェの裾がパタパタとはためく。

胸いっぱいに空気を吸い込んで背伸びをした。そのまま空を見上げた。そこには緑色や赤色など、宝石のように光輝く星が夜空に散らばっていた。

美しい、と思ったが、寂しかった。

自分は随分遠いところに来てしまったと、実感した。
ジルは何も言わず側に寄り沿うように立っていた。そして、同じように空を見上げている。

「……お兄ちゃん、もう、いい。明日も早いし寝ないと」

「そうか、もしまた夜、外に出たくなったら俺に言えよ、な?」

ジルの手を引いて声をかけると、空からこちらに視線を向けて穏やかに双眸を細めた。そして、頭を撫でてくれる。慰めるような優しい手の動きで、年甲斐もなく涙が瞳に滲んだ。

夜更かしはこの子の身体に負担になるだろう。

ヨリはジルに、おやすみなさい、を言うと部屋に戻った。
そして、ベットに潜り込むと目を閉ざした。


まだ、異世界の星達が瞼の裏の闇夜に光輝いている。
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