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第十章

☆4

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王の傍らにいる少女を抱上げた。みんな、半獣で人間より目が良い。距離が幾分あるが、少女は異質だと気が付いた。

しかし、変に騒ぎ立てたりはしなかった。

国民は思い出したのだ。
生まれても命を続けられなかった亡き王女のことを。

お祝いムードから一転した訃報。

あの、悲しい1日を、心が沈んだ数日を。

「16年前、私は過ちを犯した。半獣の姿で生まれなかった我が子から顔を背けてしまった。抱いてやることも名前を与えることもしなかったのだ」

ティアはゼウスに抱っこされている。太陽の光を全身に浴びて心地良さそうに瞳を細めた。

「その日はなにも考えられなかった。次の日は悪夢だと思った、忘れようとも思った。逃げた、しかし、思い出すのだ。後悔をするようになった。我が子を、塔に隠してしまったことを」

告白。
後悔しても、ティアを迎えに行く事は出来なかった。
恨まれている、と思った。嫌われているのを目の当たりにする、怖がる資格などないのに、ティアが城に来てくれて姿を見せてくれて漸く凍りついた足が動かせた。
駄目な情けない父親だ、十分に自覚はある。だが、ティアがチャンスをくれたのだ。

歩み出す1歩を踏み出す。

「この子はこの私、ゼウスの娘である。この子をいじめたものは父として抗議する!しかし、もし、この子が他者をいじめたのなら父として共に謝罪し、この子を叱る。この子は私の愛しい子供である!」

ティアの両脇を抱えて国民に堂々と見せる。そして、きっぱりとした口調で言い切った。

辺りがシーーーーンと静まり返る。
国民が夢から目覚めたばかりのような心地である。
誰もが戸惑っていた。

パパーン!!

その時、クラッカーが鳴る。

ビューン、ヒラヒラと色とりどりの紙吹雪が舞った。

「おめでとう、王女様!俺はあなたの誕生を心待ちにしてたんだ!猫がしゃべってるなんて、可愛いじゃねぇか、なぁ?何も問題ないぜ!」

ムルが大声で叫ぶと手を叩いた。

パチパチ、段々と拍手が広がる。

「猫や犬にだって権利があるわ!王女様がねこちゃんってびっくりしたけど、あたし、ねこちゃん姫好きになるわ、きっと!」

ティアと同じ頃の少女がティアに向かって手を振って叫ぶ。

「ティアも、きっと、みんな、すきになる!ティアがおそとにでるの、ゆるしてほしいの。みんなとなかよくなりたいの!」

ティアが国民達に話しかけると、わーーと歓声があがり盛大な拍手が起こった。

みんな、笑顔だ。
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