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第七章

☆4

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◇◇◇

見た目は男、心は乙女であるらしいエメラルドという男…いや、女?男とか女とか区別して接するのは時として適切ではないんだ。とロゼは学んだ。

『ちゃん』付けされるのは嫌だが、レミィといういい年した男もエメラルドに『ちゃん』つけされているから、変更することはきっと不可能だろう。慣れるしかない。
数分でロゼはエメラルドを受け入れた。

口調や仕草が女性である自らの心に合わせて柔らかくしている人を目の前にするのは初めでである。だが、これから男のような女でも女のような男でもきっと落ち着いて対応出来ると思う。

(色んな考えや見た目があってもいい。自由であることが、平和だ)

3人は一旦酒場のテーブルに座った。

これから探す『キティちゃん』について少し説明がいるらしい。

「キティちゃんは猫ちゃんなの」

真剣な目であるが、このエメラルドの言葉を聞いて素直に話を聞ける人間は数少ないだろう。
飼い猫を探しているのか?と一瞬ロゼは混乱するが、おじいちゃんだと思っていたあの時は『言葉』を話していた。

「半獣でも人間でもなく、猫の顔をした女の子なんだ。こんな感じのな」

レミィはケ・セラ・セラの酒場のテーブルに備え付けてあったアンケート用紙にサラサラとペンを走らせた。
シャム猫の顔の女の子。ベットで寝そべり林檎を丸かじりにしている。

「レミィちゃん、相変わらず似顔絵上手ね!」

エメラルドは手をパチパチと叩いた。
ロゼの耳には拍手が届いていない。
深い感情に沈んでいた。

(……そうか、だから、か)

ロゼは理解した。会えると信じていた、キョウダイが家族からいなくなっていた理由。

半獣ではない我が娘を産み落としたプリシアの反応が容易に想像できる。

母が許せない。そして、父も。

「俺はティアに命を救われた。ティアは心優しい女の子だ。エメラルドの邸からいなくなったのが、…悲しい理由からでなければいいが、一度話をしたい」

自ら姿を消してしまっている。少し遊びに出掛けたのか、トラブルに巻き込まれたのか、その理由次第で事態は変わる。

「ずっと一人で生きてきたから、どうしたらいいか、分からなくて泣いてないといいけれど」

エメラルドが泣きそうである。

いつもの場所から消える、という理由。
帰らない理由。
自ら飛び出した理由。

「エメラルドは邸で待っていろ。ティアが戻ってくるかもしれない」







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