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第四章

☆1

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レミィザロ・ガシスは自分が『優しくない人間』だと自覚している。
特に他人から優しくして欲しい、と思わないし、自分で出来る事は自分でするのが当たり前。人の手を借りる、というのが苦手だった。
幼馴染みのカルラの元に居候、という形で厄介になっているのが心苦しい。本来なら適当な場所を借りられればいいのだが、諸事情によりそれは出来ない。少々面倒な事になる。
それに、なんで私に頼ってくれないのよ!と後々とカルラの頬が膨れるのが目に見えている。

ティアとの出会いは予想外であり、自分の心がこんな穏やかになれるものだとは、正直思わなかった。

あの、彼女が泣く悲しい声が耳から離れない。

レミィは初めて自分の家族友人以外の存在を大切に優しくしたい、と思った。

「レミィじゃない、久しぶり」

豊満な胸を強調した露出度の高い服、赤い色のショートヘアの兎の半獣がくびれた腰をくねらせ歩きこちらに近付いてくる。

「クレアか、お前また、痩せたか?」

「あら?珍しい、貴方がそんなこと言うなんて。愛しい女でも出来たのかしら。おめでとう、というべき?」

こちらの身体を気にかけるようなレミィの言葉を聞いてクレアは大袈裟に瞳を丸めて、すぐにくすくすと笑い始めた。
女は勘がいい。
いや、男は小さな変化や相手の心の機微を感じ取りにくいだけか。

「よしてくれ、そんなんじゃない」

レミィはため息を洩らすと、頬を撫でるクレアの手をそっと掴むと離した。

「じゃあ、私と遊んでくれるの?」

「…いや、俺はお前を優しく出来ない。遊びだとしても、今はそれが嫌になった」

正直な気持ちを伝える。遊びでもいいから、優しくしなくていいなら、一度だけ、そんな女達に求められるままに抱いていたが、もうそれはしたくなかった。

「本当に変わったわね。私は昔の貴方が好きだったわ、私を物みたいに扱って…冷たい瞳をしていた。ぞくぞくしたわ」

「…そうか、そいつはよかった」

自分の評価や感想には興味がない。他人からどう思われようが構わない。好きにすればいい。

レミィはクレアから目を離した。店へと視線を向ける。

「ロブという名前の男、店に来ているか?熊の半獣だ」

「ええ、来ているわ。なに?」

「ちょっと、な」

クレアの好奇心を見せる視線には目を合わせないまま、彼女から離れると店へと向かった。

自分は殺されかけて黙っていられるような大人しい性格ではない。




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