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しおりを挟む「大丈夫だ。素直に謝れる悠真は偉いな」
褒めると同時にくしゃり、と拓真は悠真の頭を撫でた。心地良さそうに薄茶で丸い瞳を細める悠真の小さな顔は猫のように愛くるしい。
拓真はこれまで弟を構う優しい兄ではなかった。
時折、弟の存在を忘れるくらいだった。
家にこもっているのが退屈で外で友達とやんちゃをする、ちょっと悪い遊びを楽しんでいた。
弟の事が気になって構うようになったのは、3ヶ月ほど前、祖母の知恵が悠真を娘の友里恵だと思い込み女の子の服を着せていた。
「可愛いわよ、ゆりちゃん」
「……ありがとう、おかあさん」
白いワンピースは悠真にとても似合っていた。その時の悠真の表情は笑みもなく、子供らしくない諦めているような疲れた瞳をしていた。
「……」
呆然と立ち尽くしてその光景を見ていると悠真は拓真の存在に気がついて口元に人差し指をあて、しーという仕草をした。
悠真は知恵の手を掴んで手をしっかりと繋ぐと台所へと向かった。
その夜、拓真と悠真は久しぶりに話した。
「おばあちゃんは僕をおかあさんのちいさいころだと思っているみたい」
今、女の子のパジャマを着ている。祖母が用意するものは全部が女の子用だと悠真が話した。
「お前が女の子の服を着たいんじゃないのか?」
と、拓真は一応確認をする。
それに悠真は首を横に振った。
「僕はスカートよりズボンがいい。可愛いよりカッコいい服着たい」
祖母が嬉しそうに可愛い服を選ぶのを見ているから、嫌だと断れない。
「……そうか。少し調べないとな」
拓真は知恵の奇妙な行動を初めて見たが、ずっと一緒にいる悠真は何かを我慢している状態なのだろう。じっくりと話をきくと、火をつけっぱなしで台所を離れたり、気がつくと家からいなくなっていたらしい。
そして知恵の奇妙な行動が目立つようになった。冷蔵庫の食べ物が一晩で空っぽになった。知恵がすべて食べてしまったのだ。
それと、突如人が変わったような口調になり、物を盗ったね!返しなさいと何も悪いことをしていない悠真を叩くようにもなった。
優しい祖母の変貌に悠真は怯えて、情緒不安になって夜泣きをするようになった。
壊れていく音が近くで聞こえた。家族会議を開いて、祖母を施設へと預けることにしたのだ。
「……ピンク色が好きなんじゃなくて、悠真はばあちゃんが作ってくれたカバンだから使っているんだろう。それを話してみたらどうだ」
「僕のおばあちゃんが病気だって、いいたくない。いいよ。べつに幼稚園のやつらと仲良くしなくても……じかんが潰せたらいい」
ふい、と悠真は顔をそむけて浴槽から出た。
幼稚園の話はもうしたくない、という意思表示であり拓真も風呂を出ると柔らかいタオルで濡れた悠真の身体を拭いた。
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