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第二章 アイ
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しおりを挟む2匹は星の中心に来た。
何の変哲もない、城の外れにある湖である。
湖は魔物の村にもあった。
アイが母親に捨てられたあの湖だ。
近寄って覗き込むと顔が歪んでうつり、ゆらゆらと揺れている。
湖の水面を小さな生き物が泳いでいるから定まらないようである。
突然、白い手が出てきてアイの手を掴んで湖の中へと引きずり込む。
「アイ!!」
それに気づいたチカラは慌ててアイの元へと駆け寄るが一歩遅かった。
アイは手を引っ張っている者の目と目があったとき、懐かしさを感じた。
おかあさん
それはアイをうんだ母親であった。
アイは抵抗することもなく湖の中に引きずり込まれて時間を移動した。
あの日。アイが生まれる前だ。
息苦しさを感じなくなり、アイは目を覚ました。不思議と身体や服が水で濡れていなくて水浸しではない。
天気がとてもよい日。仰向けに倒れていたアイの目には青空が広がっていた。
そよそよと風が頬を撫でて通りすぎていく。
「……あなたはなんで倒れてるの?大丈夫?」
声をかけられた。少し気怠そうな声だ。
そちらへと視線を向けると曇り空の表情の女だった。
「うん、へーき」
そう答えるとアイは上半身を起こした。
曇り空の女はアイから離れた。
女を見ると大きく腹が膨らんでいる。その中にアイが入っていたのだ。
アイの母親は道端に座り込んだ。動くと苦しそうだ。眉を寄せ顔をしかめて大きなため息を洩らしている。
「……ねえ、その中に赤ちゃんが入っているんだよね」
アイは曇り空の女に声をかけた。
無視されるかもしれない。そんな考えが一瞬頭によぎった。
「そうよ。憎々しい赤ん坊がね。雌は子を孕むのが生きていく上での使命……でも、うみたくないわ。幸せが逃げるもの」
「……幸せがにげる?」
「子供にすべて奪われる。憎いわ」
曇り空の女は心が病んでいた。身体中、爪でズタズタに裂かれて顔も青白い。目の下に隈ができている。虚ろで濁った瞳で自分の大きく膨らんだ原を見下ろして言った。
「この子は可哀想ね。子供は親を選べないもの……憎いけど可哀想だわ」
ぶつぶつと独り言を言って再び立ち上がった。
何処に向かっているか自分でも分かっていない足取りである。
その小さな背中をアイが見えなくなるまで見つめた。
可哀想なひとだ。
曇り空の女は誰にも愛されてはいない、ように見えた。
アイを生んだから、幸せが逃げていってしまったのだろうか。
倒れているひとに声をかけるだけの優しさはあることが分かった。少しだけ安心した。
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