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第二章 アイ
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しおりを挟むしん、とした静けさが肌をさしている。
この世界に自分一人だけ存在しているのではないか、と不安を感じた。
細く白い指が見える。それは少女というより女の指であった。
アイは自分とは違う肉体に意識が入ったのだと悟った。
すごく、愛しいルウザに会いたい
屈託のない笑顔、こちらに手を振る姿が頭に思い浮かぶ。
勇者と慕われる青年は、牙を剥き出し人間を食い殺す獣を追い払う為に身を危険に晒していた。
魔力はこの星の中に封じられた。
その大きすぎるエネルギーは、星をぐるぐると回って定まらない。
この世界の女、雌達はそのエネルギーを感じることがある。
この星を抱いているのはひとりの女である、それは誰に教えられたことはないが、分かっていた。
眠っている何もかもが真っ白な女が苦しんでいる。
大きく膨らんだ腹に宿した赤ちゃんが暴れている。
はっと息を飲んで女は目覚めた。
汗を掻いて眠っていた。
「……リサ、魘されていたぞ。どうしたんだ?」
リサを心配しているルウザの声だ。
任務から無事に帰ってきたのだ、と分かりほっと胸を撫で下ろした。
「とても苦しい夢を見ていたの」
「夢?」
「白い肌の女の人が苦しんでいる夢よ」
リサはため息を洩らして疲れきった声で夫のルウザにいまみて夢の内容を隠さず話した。
美しい金髪に白い毛が混じり始めているルウザの目はまだ少年の輝きを残している。
その愛しいルウザの瞳が、リサにも段々と曇っていくのが分かった。
「……そうか。それは大変だ。あいつも心配をしているだろうな」
この星にいるが、遠いところにいる、黒髪が良く似合う男の顔を思い浮かべてぽつりと呟いた。
その黒髪の男はアイに見覚えがあった。
アイに名前と食べ物を与えて、愛情というものをくれたひとだ。
あいつ、とはあのひとだ。
「……まさか、あのこが魔王だったなんてね」
リサは柔らかく目を細めて呟くように言った。
その目には懐かしさ、があった。
恨みや悲しみはない。
ただ、少しだけ寂しそうな色があった。
さようなら、の別れの挨拶もしていない。
それが心残りであった。
「パンを食べた時、すごく嬉しそうに笑っていたわ」
白い頬をピンク色に染めてパンを頬張る魔王の顔を思い出して楽しそうにリサはくすくすと笑った。
「そうだな。あいつはなかなか食いしん坊だったな」
ルウザも思い出すとリサと一緒に笑った。
二人はあれから夫婦となり、4人の子供を授かった。
喧嘩を時々してしまうが仲の良い幸せな家庭を築いている。
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