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第二章 アイ
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しおりを挟むまだ太陽の日差しは弱く、みんな眠気眼をこすっている早朝。
ほぼ同じ時間に元気な声がする。その声色は何とも楽しそうでつられて笑みが浮かんでしまうほどだ。
「おきろ、タマゴサンド!」
黒い癖っ毛の幼い魔物の子供がこんもりとした布団の上に乗っかって馬に跨がった山賊のように暴れている。
布団を頭から被って眠っているのは絶世の美貌の青年であるが、眉間に深い皺が寄った寝顔は気むずかしさと堅苦しさを感じさせていた。
「……アイ、もう少し寝かせてくれ。タマゴサンド作ってやるから卵を入手して、ゆで卵を作れ。やり方はこの間教えたから分かるだろ?」
「おう!アイが新鮮な卵をぶんどって目ん玉飛び出すくらいいい感じのゆで卵つくってやるから、くびあらってまってろ!!」
「……アイ、お前は山賊と愉快な仲間達の影響を受けすぎだ」
アイを寝かしつける時に読んだ絵本のチョイスを間違った事にようやく魔王が気が付く。
しかし、例えお姫様が活躍する絵本の影響を受けて言葉使いが綺麗なアイを想像するとなかなか似合っていないので、まあ、いいかと魔王は笑った。
出会った当初は、変な鳴き声しか出せなかったアイはよく喋るようになっていた。
言葉に興味がなかったアイは、食べるということが気に入り、食べたいことを魔王に伝えたいと思った。そして、最初に覚えて発した言葉は
おかわり!だった。
そして、アイは魔王を食べたい料理の名前で呼ぶようになったのである。
元気よく窓から外へとアイは飛び出した。狼のような耳と尻尾が揺れる。
風に紛れる鳥類の匂いを嗅ぎとるとそちらへと向かって走った。
大きな木の上にはのっしりとした鳥がうんだばかりの卵をあっためていた。
「おい、とり!卵をくれ。アイはタマゴサンドを食べたいので」
アイは下から思いっきり大声を出して鳥に向かって言った。
「いやだ。お前に食わせるタマゴはない!」
鳥は怒鳴った。必死に生んだ可愛い卵を見ず知らずの魔物に食わせる卵は一個もない。
「……む、ならば戦うしかないな」
「あたしの卵を食べたかったらあたしを倒すんだな!!」
がるるるる!!
ぴぃいいい!!
空腹のアイと卵の生みの親である鳥は戦った。
爪と嘴、毛並みと羽根がすりきれるほどの激しい争いだった。
傷ついた末にアイは争いに勝ち、倒れた鳥から卵を一個奪った。
「……っ、…あたしの卵…よく味わって食えよ」
悔しそうに鳥はアイに言った。
「おう、美味しいタマゴサンドにして味わってくう」
アイは鳥に約束した。
みんな、生をいただいて、生きている。
それは悪いことではなく、それは生きることである。
食べるものがいる。食べられるものがいる。
そうやって死があり、生があるのだ。
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