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第一章 魔王
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しおりを挟む子供の柔らかな手が魔王の細く頼りない手を掴んで前へと踏み出した。
導かれたのは野原だった。擽ったい葉っぱの道を通って大きな木下へと一直線に向かっていく。
子供達と小さいながらも鮮明な赤色に色づき誇らしげに咲いている花を眺めた。
「きれいだね」
「赤い色が可愛いね」
「ほんのりピンク色もまじっているよ。君の唇の色みたい」
一人で花を見る時よりも、笑い合いながら誰かと感動を共有するのはとても心地がよい。
キレイなものを見ると心が清んでいくようだ。
花に触りたいの我慢して風に揺れる様を見て魔王は柔らかく目を細めた。
日が暮れて夕日が雲の間から差し込む。
子供達と魔王のほっぺがオレンジ色に頬が染まる。
その時、不穏な空気が流れた。
黒い霧のようなモノが立ち込めていた。
揺らいで止まり暗く冷たい冷気を放つ。
嫌な気配だ。胸がざわついて落ち着かない。心臓が早鐘打ち不安になる感じの気配。
魔王は拳を握りしめて汗を一滴垂らした。それが頬から顎に伝って落ちる。
眉間に皺を寄せて魔王は厳しい表情を浮かべた。
「魔物!逃げなきゃ、殺されちゃう」
子供達が身の危険を感じて騒ぎ始める。
ザンッ!妙な音がきこえた。それは巨大な黒い獣が地面に降り立った音であった。
3つの赤い目が魔王をとらえている。
「魔王よ、我々の元へお戻りください。さもなければ、その人間の子供を殺します」
三つ目の魔物は低く禍々しい声で魔王に告げた。
子供達の表情は恐怖でひきつり、泣き出した。
「……分かった。そちらに戻る」
魔王は頷いた。
「そちらの世界に戻らないでくれ!」
王様が不穏な空気を感じて駆けてきた。
三つ目の魔物を追い払おうと剣に手をかける。
「人間の王よ。私は在るべき場所に戻り、ふさわしい最期を遂げる」
心が一瞬にして変わったわけではない。
光と愛に満ちた世界は魔王にとってはふさわしくない。
そして、三つ目の魔物は強い。火炎と呼ばれる。口から火を吹いて1000日以上、辺りを焼き付くしてすべてを無に返すであろう。
とても人間が倒せる相手ではない。
魔王は魔物を殺す事は出来ない。魔物だけではなく、人間も動物の命を奪わないと心に決めた。
誰の味方になってもいけない。
強大な力を持つものはその力が暴れないようにじっと膝を抱えて耐えるしかない。
「……王よ、勇者に伝えてくれ。私を倒せるのはお前だけだ、と」
魔王は三つ目の魔物と共に魔界へと戻った。
暗くて冷たい愛のない世界。
人間のあたたかさを知った魔王にとっては魔界は古郷とは嘘でも言えない、牢獄のような居場所である。
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