21 / 50
第一章 魔王
19
しおりを挟む「……人間ってもんは随分と都合がいい思考回路をしているんだな」
「そりゃそうだろ。そんな図太い神経持っているからこそ、ここまで繁栄したんだろ。てめえの事で精一杯で他人を踏みにじって生きている奴、お人好しな自分に酔いしれている奴、様々……よくも悪くも無神経で鈍感……気にすぎるのは少数でそいつらは早死にする、ストレスって奴に押し潰されてよ」
「……勇者は人間が嫌いなのか?」
魔王は瞬きをして首を傾げた。
普通ならば、人間は素晴らしい生き物だから滅ぼすなんてもっての他!と説教をするのではないか。
その問いかけを聞いて勇者は低く唸った。苦渋が顔に広がる。
「嫌いじゃねえが、人間ったやつが恥ずかしくなる。そして人間であることに、たまに誇りに思う」
勇者は木の切り株に腰をかけた。
何処か疲れた瞳の色をしている。
白い肌を土で茶色く汚した魔王を眩しそうに見つめる。
「どうせ私に言い聞かせるなら、人間のいいところばかり言えばいいのに……勇者は口を開けば皮肉ばかり言う」
魔王は呆れた顔で言った。
「キレイな花のような奴には甘えたくなる。つい癒されたくてな」
ふ、と勇者が笑った。それは、先程魔王は言った言葉を思い出して、自分がこの星にいる人間のなかで一番都合がいい思考回路の持ち主だな、と思ったからだ。
「花を育てるのは楽しいか?」
出会った当初は空っぽの瞳をしていた魔王は、瞳に何かが入り込んで輝いていた。魔王の変化が嬉しくて今度は勇者の笑みが甘くとける。
死んだ弟は土にかえった。
大地には多くの死者がねむり、そして大地となり息をしている。
完全に妄想だが、死んだ弟と魔王が友達になったような錯覚を覚えた。
「花の芽が土から顔を出しているのを見たとき、すごく胸が熱くなった」
「感動っていうのを知ったんだな。すげぇ成長したじゃねえかよ」
勇者が立ち上がって魔王に近寄ると小さな頭に手を乗せるとくしゃ、と撫でた。
「さてと、お仕事を頑張って来ますか、ねっと」
「仕事?」
「……平和を完全なモノにすんだよ」
「何処に行くんだ?平和を完全なモノにするってそれは私を倒すことじゃないのか?」
魔王は眉間に皺を寄せて低く唸った。
「いや、最終的にはお前と星と、少しだけ苦しい思いをさせちまうだろうが……倒すとはちょっと違う」
「……苦しいのは、慣れている」
今は全然苦しくはない。でも、また、苦しくなるのは何だか少し嫌だな、と魔王思った。
勇者と別れると一人で花の種を埋めた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯
赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。
濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。
そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――?
※恋愛要素は中盤以降になります。
大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる