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第一章 魔王

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「……人間ってもんは随分と都合がいい思考回路をしているんだな」

「そりゃそうだろ。そんな図太い神経持っているからこそ、ここまで繁栄したんだろ。てめえの事で精一杯で他人を踏みにじって生きている奴、お人好しな自分に酔いしれている奴、様々……よくも悪くも無神経で鈍感……気にすぎるのは少数でそいつらは早死にする、ストレスって奴に押し潰されてよ」

「……勇者は人間が嫌いなのか?」

魔王は瞬きをして首を傾げた。
普通ならば、人間は素晴らしい生き物だから滅ぼすなんてもっての他!と説教をするのではないか。
その問いかけを聞いて勇者は低く唸った。苦渋が顔に広がる。

「嫌いじゃねえが、人間ったやつが恥ずかしくなる。そして人間であることに、たまに誇りに思う」

勇者は木の切り株に腰をかけた。
何処か疲れた瞳の色をしている。
白い肌を土で茶色く汚した魔王を眩しそうに見つめる。

「どうせ私に言い聞かせるなら、人間のいいところばかり言えばいいのに……勇者は口を開けば皮肉ばかり言う」

魔王は呆れた顔で言った。

「キレイな花のような奴には甘えたくなる。つい癒されたくてな」

ふ、と勇者が笑った。それは、先程魔王は言った言葉を思い出して、自分がこの星にいる人間のなかで一番都合がいい思考回路の持ち主だな、と思ったからだ。


「花を育てるのは楽しいか?」

出会った当初は空っぽの瞳をしていた魔王は、瞳に何かが入り込んで輝いていた。魔王の変化が嬉しくて今度は勇者の笑みが甘くとける。
死んだ弟は土にかえった。
大地には多くの死者がねむり、そして大地となり息をしている。
完全に妄想だが、死んだ弟と魔王が友達になったような錯覚を覚えた。

「花の芽が土から顔を出しているのを見たとき、すごく胸が熱くなった」

「感動っていうのを知ったんだな。すげぇ成長したじゃねえかよ」

勇者が立ち上がって魔王に近寄ると小さな頭に手を乗せるとくしゃ、と撫でた。

「さてと、お仕事を頑張って来ますか、ねっと」

「仕事?」

「……平和を完全なモノにすんだよ」

「何処に行くんだ?平和を完全なモノにするってそれは私を倒すことじゃないのか?」

魔王は眉間に皺を寄せて低く唸った。

「いや、最終的にはお前と星と、少しだけ苦しい思いをさせちまうだろうが……倒すとはちょっと違う」

「……苦しいのは、慣れている」

今は全然苦しくはない。でも、また、苦しくなるのは何だか少し嫌だな、と魔王思った。
勇者と別れると一人で花の種を埋めた。
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