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第一章 魔王
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しおりを挟む「まあ、返事を期待するのも阿保臭いか。魔物で十分のような気もする」
自由気ままな小さな魔物を見て魔王はぽつりと呟いた。
「???」
なあに、とアホウは大皿から顔をあげる。ご主人様に名前を呼ばれた犬の顔のようである。
「……お前は何処で反応した、マモノか?いや、ちがうなアホウか」
マモノ、と呼んで確認するもアホウは空になった皿を舐め出すので違うと判断した。アホウという言葉の響きに顔をあげて反応するとこれだ、と確信した。
アホウは警戒心剥き出しの表情で魔王を睨んでくる。アホウ、と言われると罵声を浴びせられる。このちっぽけな魔物にとって、アホウという人間達に呼ばれる言葉は名前というより暴力を振るわれる合図のようなものだった。
「……アイ、と私はお前の事を呼ぶことにする」
優しい低い声で毛を逆撫で警戒する魔物に声をかけて、真っ直ぐに見つめる。
いつもとは違う雰囲気でアホウと呼ばれていた魔物は戸惑う。警戒心が和らいだ。
ふ、と魔王は笑うとアイと名付けた魔物を抱き上げて額に柔らかく唇を押し付けた。親愛のキス。
「アイ、お前は私だけのアイでいればいい。他の者がお前の事が分からなくても、私はお前を分かろうと努力は惜しまない」
親から捨てられて誰も擁護をする者がいない、アイにとって魔王が親代わりとなった瞬間であった。
アイと呼ばれ、それが抱擁とキスの合図だと理解してアイは尻尾を振った。
「きゅうう~!!」
嬉しそうな鳴き声で返事をする。
アイは言葉を理解している。ゆっくりと教えて、自分の意思を伝えたい、魔王の事を知りたいと思う心を育てればいずれは言葉を所持したいという気持ちになるであろう。
魔王はアイの毛並みをゆっくりと撫でた。アイは眠そうに大きな口を開けて欠伸をした。腹が満たされて眠くなったのだ。
魔王はアイを抱き上げて寝室へと向かう。
「おやすみ、アイ」
「……きゅう」
あったかな布団と魔王に包まれてアイは安心して目を閉ざした。口元がゆるい。
目蓋にうつるのは暗闇だが、寂しくはない。
アイはその夜、初めて夢を見た。
魔王が夢に出てきてたくさん美味しいスープを作って食べさせてくれる夢だ。
もぐもぐと口を動かしてよだれを垂らして眠っているアイの幸せそうな寝顔を眺めて魔王は可笑しそうに喉を震わせ低い声で笑った。
「さては、何かを食べる夢を見ているな。本当にお前は食いしん坊だな。起きたらまた、腹一杯食わせてやる」
低く穏やかな声で魔王はアイに約束した。
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