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プロローグ

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柔らかな陽射しが差し込む部屋。
ここの部屋にはたくさんの人達が居た。
その人達は人間に限らず、美しい純白の翼が生えたり、対して禍々しい角が生えていたり、頭に王冠を被っていたり様々な服装や姿をしていた。
一言も喋らず、そこにいるみんなは2人の男を見守っていた。

部屋の中心にあるベットで仰向けに横たわっている白髪の老人がいる。若い頃はしっかりとした体躯をもっていたが100才を越えたあたりで食が細くなり痩せ始めていった。大きな病は患ってはいない、老衰である。
しかし、年老いた男の二つの瞳は青く澄んでおりまだその中には純粋な少年の心が宿っていた。死ぬ事への恐れも悲しみもなく穏やかだ。
ベットの傍らに寄り添っているのは黒髪の若者だ。

「友よ、別れの時が来た」

老人は布団の隙間からするりとしわくちゃな手を差し出した。
麗しい黒髪の若者はしっかりとその生命の年輪が刻まれた固い枯木のような手をしっかりと握る。

別れの握手。

出会った時は剣の先を向けていた。その時は友情の握手をするのとは思いもしなかった。

「ありがとう。お前と出会えてよかった」

「ああ、私も同じ気持ちだ。ありがとう」

穏やかな空気がそこに流れている。
二人ともお互いと愛おしむ表情で、親愛がそこにはあった。

「さよおなら……ぷー!なんてな」

「おいおい、最後くらい最後まで真面目でいろ」

若者は呆れたような表情をしつつも可笑しそうに笑った。
老人も笑っている。その笑顔は年齢を重ねても変わらず屈託がなく心地がよい。 

これが2人の別れだった。

年老いた男の面影がある息子、娘、男の血を受け継ぐ孫達、共に旅をした仲間、たくさんの人達に見守られながら老人は静かに息を引き取った。
安らかな顔。満足そうな微笑みさえ口元に浮かべていた。

ルウザ・ロウは117才という人間では少し長寿を神に許され今日、天国で魂を休めなさいと招かれたのだ。

「……少し寂しくなるが。お前のことだ、生まれ変わって私に会いに来てくれるんだろう」

黒髪の若者は眠るように天国へ召された男の白い髪をそっと撫でた。
棺桶に寝かせられた胸元にまだ朝露に濡れた一輪の白い薔薇を置いた。

ここで命の灯火は消えた。
しかし、何処で新しい生命は産声をあげて生まれる。死と生は絶えることはない。誰しもみんなその道をたどり繰り返す。

不思議にも悲しみはわき起こって来ず、ひょっこりと男の生まれ変わりが顔を見せてくれる、という確信を持っていた。

「……今はゆっくり休んでくれ、友よ。おやすみ」

棺桶の蓋が閉められる。
顔はしっかりと目蓋に焼き付けられている。屈託のない笑顔を忘れる事はない。

生きていれば必ず会える。
どうしても黒髪の若者は年老いた男ともう一度会いたかった。



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