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【5】アメリアの祈り
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(何だ……? 久方振りにとても清々しい気持ちだ……)
リュミエールは自分に向かって祈りを捧げる目の前の裸の女を見下ろした。
癖が強めの赤毛の髪に、白い肌に浮かぶそばかす。身体を縮込めて隠してはいるが、隠しきれない痣の跡。伯爵令嬢とは到底思えないみすぼらしい様相にリュミエールは目を細めた。
しかし、そんなアメリアから注がれる祈りの力は今迄に味わったことのない程上質なものであった。
(神力が次々に湧いてくる……)
リュミエールは身体に流れ込むアメリアの祈りの力の心地良さにうっとりと目をつぶった。
しばらくして、アメリアからもたらされる祈りの力でリュミエールの神力が満たされた頃。
リュミエールは空に向かって徐に両手を伸ばした。
ポツ……
一心に祈りを捧げるアメリアの肩に、雨粒が一滴落ちた。水に濡れた感触にアメリアはハッと顔を上げる。
ポツ … ポツ … ――――サァー……
やがて水滴は、アメリアを包み込むように優しい雨へと姿を変えた。
数ヶ月振りの雨を身体に受けながらアメリアは目の前のリュミエールを凝視した。
腰まである長い青色の髪の毛の隙間から、目を閉じていても端正なリュミエールの顔が覗く。
(何て綺麗で神々しいのだろう……)
雨に濡れたリュミエールは、芸術的で美しく、まるでその姿は絵画のようで、アメリアは思わず目を奪われた。
雨が二人を静かに濡らす。
リュミエールが閉じていた瞼をゆっくりと開くと、自分を凝視するアメリアが視界に映った。
自分があんなにも渋っていた雨を降らせた事実に、リュミエールはばつが悪そうにアメリアの視線から目を反らすと、言い訳がましく口を開いた。
「……お前が雨雨とあまりにもしつこく言うから、少しばかり降らせてやったぞ。これで暫くそのうるさい口を閉じていろ」
「あ、ありがとうございます、龍神様!!」
不器用なリュミエールの物言いにもアメリアは感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、目には喜びの涙が滲んだ。涙を見せたらまたリュミエールに鬱陶しがられると思ったアメリアは、涙を隠すようにリュミエールに向けて深々と頭を下げた。
そんな素直な反応を返すアメリアに、リュミエールの捻れた心が僅かに揺れた。
「……リュミエールだ」
「え?」
「私にも名がある」
言い捨てるように名を告げたリュミエールは、沸き上がる甘酸っぱい感情に堪えきれず、雨に紛れてそそくさとそ泉の中へと姿を消した。
「リュミエール……様……」
アメリアは聞いたばかりの龍神の名をゆっくりと口にした。
とくりとくりとアメリアの心臓が脈を打つ。
アメリアはリュミエールの消えた泉を不思議な気持ちでしばらくの間見つめていた。
* * *
一方、山の麓では数ヶ月振りに降った雨に人々は歓喜に沸いた。
ラングラム伯爵はその光景を二階の屋敷の窓から眺めながら、一口ワインを口にした。
「良くやった、アメリア」
伯爵は自分の為に犠牲となった娘の死を嘆くどころか、まるで乾杯でもするかのようにグラスを雨空に向けてかざすと、己の地位が守れたことに安堵し、あろうことかその口元には笑みさえも浮かべていたのだった。
リュミエールは自分に向かって祈りを捧げる目の前の裸の女を見下ろした。
癖が強めの赤毛の髪に、白い肌に浮かぶそばかす。身体を縮込めて隠してはいるが、隠しきれない痣の跡。伯爵令嬢とは到底思えないみすぼらしい様相にリュミエールは目を細めた。
しかし、そんなアメリアから注がれる祈りの力は今迄に味わったことのない程上質なものであった。
(神力が次々に湧いてくる……)
リュミエールは身体に流れ込むアメリアの祈りの力の心地良さにうっとりと目をつぶった。
しばらくして、アメリアからもたらされる祈りの力でリュミエールの神力が満たされた頃。
リュミエールは空に向かって徐に両手を伸ばした。
ポツ……
一心に祈りを捧げるアメリアの肩に、雨粒が一滴落ちた。水に濡れた感触にアメリアはハッと顔を上げる。
ポツ … ポツ … ――――サァー……
やがて水滴は、アメリアを包み込むように優しい雨へと姿を変えた。
数ヶ月振りの雨を身体に受けながらアメリアは目の前のリュミエールを凝視した。
腰まである長い青色の髪の毛の隙間から、目を閉じていても端正なリュミエールの顔が覗く。
(何て綺麗で神々しいのだろう……)
雨に濡れたリュミエールは、芸術的で美しく、まるでその姿は絵画のようで、アメリアは思わず目を奪われた。
雨が二人を静かに濡らす。
リュミエールが閉じていた瞼をゆっくりと開くと、自分を凝視するアメリアが視界に映った。
自分があんなにも渋っていた雨を降らせた事実に、リュミエールはばつが悪そうにアメリアの視線から目を反らすと、言い訳がましく口を開いた。
「……お前が雨雨とあまりにもしつこく言うから、少しばかり降らせてやったぞ。これで暫くそのうるさい口を閉じていろ」
「あ、ありがとうございます、龍神様!!」
不器用なリュミエールの物言いにもアメリアは感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、目には喜びの涙が滲んだ。涙を見せたらまたリュミエールに鬱陶しがられると思ったアメリアは、涙を隠すようにリュミエールに向けて深々と頭を下げた。
そんな素直な反応を返すアメリアに、リュミエールの捻れた心が僅かに揺れた。
「……リュミエールだ」
「え?」
「私にも名がある」
言い捨てるように名を告げたリュミエールは、沸き上がる甘酸っぱい感情に堪えきれず、雨に紛れてそそくさとそ泉の中へと姿を消した。
「リュミエール……様……」
アメリアは聞いたばかりの龍神の名をゆっくりと口にした。
とくりとくりとアメリアの心臓が脈を打つ。
アメリアはリュミエールの消えた泉を不思議な気持ちでしばらくの間見つめていた。
* * *
一方、山の麓では数ヶ月振りに降った雨に人々は歓喜に沸いた。
ラングラム伯爵はその光景を二階の屋敷の窓から眺めながら、一口ワインを口にした。
「良くやった、アメリア」
伯爵は自分の為に犠牲となった娘の死を嘆くどころか、まるで乾杯でもするかのようにグラスを雨空に向けてかざすと、己の地位が守れたことに安堵し、あろうことかその口元には笑みさえも浮かべていたのだった。
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