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【4】生け贄失格
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アメリアはリュミエールの放った言葉が一瞬理解できず、ぱちくりと目を瞬かせた。
「おい、聞こえなかったのか? 何でお前のような醜い者が私の生け贄として用意されたんだ? 確か伯爵の娘は四人いると聞いたが、皆お前みたいな感じなのか?」
不快を露にムスっとした表情で腕を組みながらリュミエールがアメリアに尋ねた。
「はい? えっと、他の三人は私とは違って確かに金髪碧眼の美人ですけど……」
リュミエールの質問に素直に答えながらアメリアはベラ、ロージー、クロエの三人を頭の中に思い浮かべた。
確かに自分以外の三人は母親のセレスティアに似て上流階級の高貴な美しさを漂わせていた。そしてそんな姉妹達は貴族の間でも評判で、伯爵家の女神三姉妹として縁談の話がひっきりなしに来ていた。
それに比べて自分はと言うと……。
今は亡き母親譲りのくるくると巻かれた赤髪に、うっすらと肌に浮かぶそばかす。三人とは違う土色の混ざった雑草のような緑色の瞳。
(醜い……、とは思ったことはなかったけど。でも龍神様に比べたら確かに醜いと思われても仕方ないのかも……)
アメリアは生まれて初めて異性から己の容姿の醜悪さを指摘され、些か落ち込んだ。
「お前以外の娘を連れてこい。出なければ伯爵との約束は無かったことにする」
落ち込むアメリアに対し、更にリュミエールがとどめとばかりにきつい言葉を投げつける。
「そ、それだけは! どうか私で我慢して下さい!」
アメリアは胸の前で手を組み、リュミエールに必死で懇願した。
「他の姉妹達には貴族令息からの縁談話もあります。た、確かに三人に比べたら見た目は美しくはないかもですけど、でも食べてしまえば食べてるものは一緒ですし、きっとそんなにお味は変わらないかと思いますので……」
「……お前は何か勘違いしているようだが、そもそも私は人間など食べない」
「はい?」
アメリアに対して冷たく向けられるリュミエールの眼差しを正面から受け止めながら、アメリアは再び目をぱちくりと瞬かせた。
その様子にリュミエールは苛立ちを一層強くすると語気荒くアメリアに指を突き立てた。
「おい、俺に二度とその間抜け面を向けるな!」
「も、申し訳ありません……。で、では私はどうすれば宜しいのでしょうか……」
この身を食糧として龍神に捧げるつもりだったアメリアは途方に暮れた。
「知らん! お前も伯爵同様、家に帰ればいいだろう。そしてお前以外の別の娘を私に差し出せ」
「で、ですが私以外の人間を差し出したとて、食べる気は無いのですよね? それでどうやって龍神様のお力を取り戻すおつもりなのですか?」
アメリアの質問に、やれやれと首を振りながら面倒臭そうにリュミエールは口を開いた。
「何度も言わせるな。私は私の存在を忘れ、信仰されなくなったから力が無くなったのだ。美しい娘が私に信仰心を持って身も心も捧げてくれれば力は取り戻せる。それはつまり--」
リュミエールは口元を緩めると、うっとりとした様子でポカンとしているアメリアを見た。
「私の番になるということ」
「つ、番とは何ですか?」
聞き慣れない用語にアメリアは首を傾げた。
「人で言うところの嫁だ」
「嫁……ですか……」
きっぱりと答えたリュミエールに、アメリアはゴクリと唾を飲み込んだ。
そして少し考えた後、意を決したようにリュミエールに向かって深々と頭を下げた。
「分かりました。ふつつか者ですがどうぞ宜しくお願いいたします」
「お前では駄目だと言っただろうが!!」
話の通じないアメリアにとうとうリュミエールは顔を真っ赤にし、声を荒げて怒り出した。
「私の何処が駄目なのですか? 龍神様の好みに少しでも近付けるように努力致します! ですから今すぐ雨を降らせて下さい!」
「お前、ふた言めには雨、雨と。えぇい、話を聞け この馬鹿女が! お前は醜くて私の嫁に相応しくないと言っただろう! 神である私の番になるからには身も心も全てが美しくなくては釣り合わないと言っているのだ」
「そ、そこまで醜いとは思えませんが……」
自身の顔に手を当てながら食い下がらないアメリアに、業を煮やしたリュミエールは何を思ったかアメリアに向けて手をかざすと、神力でアメリアの着ていた服をビリビリに引き裂いた。
「あっ」
切り裂かれた服が地面にヒラヒラと落ち、アメリアの肢体がリュミエールの目の前に晒された。
生け贄用として持っていた服の中で一番高価なドレスを身に纏っていたアメリアだったが、そのドレスの下ではまともに食事が摂れずに痩せこけた身体と、日々の義姉妹達からの嫌がらせで受けていた暴力の生々しい痣と傷痕が浮かび上がっていた。
「――そんな身体をしたお前の何処が美しいと言うのだ」
リュミエールはうんざりしたように目を細めアメリアの身体から視線を背けた。
「も、申し訳ありません…」
アメリアは己の貧相で傷だらけの身体を恥じ、慌てて両手で身体を隠すとその場に蹲った。
確かに龍神様のお供え物としては自分の身体は余りに貧相過ぎた。服で隠してはいたものの、それを瞬時に見破ったリュミエールにアメリアは心底驚いていた。
(流石、神様……。隠し事など出来ないわ)
生け贄としても出来損ないだということをアメリアはまざまざと思い知らされ、そして『食べられるなら誰であろうと問題ないのでは』と神様に対して高を括っていた自分を責めた。
(まさか嫁にしようとしていたとは思いもしなかったけど……)
しかし、服の下のこの身体を見抜かれていたのなら確かに龍神様には相応しくない。
腐って傷んだ食材を捧げたも同然だ。
アメリアはがっくりと肩を落とし、分かりやすく落ち込んだ。
(お父様ごめんなさい。私、お父様やこの国のお役に立つことは出来そうもありません……)
「申し訳ありませんでした。私のような醜悪な者が龍神様の目の前に姿を現すことすらも恐れ多いことでした」
「あ、ああ。分かればよいのだ」
リュミエールの言葉以上に自分を卑下するアメリアにリュミエールは僅かに怯む。
「ですが! お嫁さんにはなれませんが、何でもするのでどうかほんの僅かでも雨を降らせて下さいませんか?」
一旦引き下がったと見せかけたアメリアであったが、再び胸の前で手を合わせるとリュミエールに懇願し始めた。
(この女……)
アメリアの図々しさにリュミエールはひくりと口元を引きつらせる。
「これから毎日龍神様に誠心誠意心を込めてお祈りを捧げます。山を散策して供物も差し出します。この草だらけの祠も綺麗にします」
(……何だ?)
アメリアの懇願に無視を決め込んでいたリュミエールだったが、彼女の祈りに呼応するように、リュミエールの枯渇していた身体の奥底の神力の器にピチャンと一滴の雫が落ちたような不思議な感覚にとらわれた。
(この娘から注がれる祈りの力か?)
リュミエールは目の前のアメリアに対して、初めて興味深そうに視線を向けた。
「おい、聞こえなかったのか? 何でお前のような醜い者が私の生け贄として用意されたんだ? 確か伯爵の娘は四人いると聞いたが、皆お前みたいな感じなのか?」
不快を露にムスっとした表情で腕を組みながらリュミエールがアメリアに尋ねた。
「はい? えっと、他の三人は私とは違って確かに金髪碧眼の美人ですけど……」
リュミエールの質問に素直に答えながらアメリアはベラ、ロージー、クロエの三人を頭の中に思い浮かべた。
確かに自分以外の三人は母親のセレスティアに似て上流階級の高貴な美しさを漂わせていた。そしてそんな姉妹達は貴族の間でも評判で、伯爵家の女神三姉妹として縁談の話がひっきりなしに来ていた。
それに比べて自分はと言うと……。
今は亡き母親譲りのくるくると巻かれた赤髪に、うっすらと肌に浮かぶそばかす。三人とは違う土色の混ざった雑草のような緑色の瞳。
(醜い……、とは思ったことはなかったけど。でも龍神様に比べたら確かに醜いと思われても仕方ないのかも……)
アメリアは生まれて初めて異性から己の容姿の醜悪さを指摘され、些か落ち込んだ。
「お前以外の娘を連れてこい。出なければ伯爵との約束は無かったことにする」
落ち込むアメリアに対し、更にリュミエールがとどめとばかりにきつい言葉を投げつける。
「そ、それだけは! どうか私で我慢して下さい!」
アメリアは胸の前で手を組み、リュミエールに必死で懇願した。
「他の姉妹達には貴族令息からの縁談話もあります。た、確かに三人に比べたら見た目は美しくはないかもですけど、でも食べてしまえば食べてるものは一緒ですし、きっとそんなにお味は変わらないかと思いますので……」
「……お前は何か勘違いしているようだが、そもそも私は人間など食べない」
「はい?」
アメリアに対して冷たく向けられるリュミエールの眼差しを正面から受け止めながら、アメリアは再び目をぱちくりと瞬かせた。
その様子にリュミエールは苛立ちを一層強くすると語気荒くアメリアに指を突き立てた。
「おい、俺に二度とその間抜け面を向けるな!」
「も、申し訳ありません……。で、では私はどうすれば宜しいのでしょうか……」
この身を食糧として龍神に捧げるつもりだったアメリアは途方に暮れた。
「知らん! お前も伯爵同様、家に帰ればいいだろう。そしてお前以外の別の娘を私に差し出せ」
「で、ですが私以外の人間を差し出したとて、食べる気は無いのですよね? それでどうやって龍神様のお力を取り戻すおつもりなのですか?」
アメリアの質問に、やれやれと首を振りながら面倒臭そうにリュミエールは口を開いた。
「何度も言わせるな。私は私の存在を忘れ、信仰されなくなったから力が無くなったのだ。美しい娘が私に信仰心を持って身も心も捧げてくれれば力は取り戻せる。それはつまり--」
リュミエールは口元を緩めると、うっとりとした様子でポカンとしているアメリアを見た。
「私の番になるということ」
「つ、番とは何ですか?」
聞き慣れない用語にアメリアは首を傾げた。
「人で言うところの嫁だ」
「嫁……ですか……」
きっぱりと答えたリュミエールに、アメリアはゴクリと唾を飲み込んだ。
そして少し考えた後、意を決したようにリュミエールに向かって深々と頭を下げた。
「分かりました。ふつつか者ですがどうぞ宜しくお願いいたします」
「お前では駄目だと言っただろうが!!」
話の通じないアメリアにとうとうリュミエールは顔を真っ赤にし、声を荒げて怒り出した。
「私の何処が駄目なのですか? 龍神様の好みに少しでも近付けるように努力致します! ですから今すぐ雨を降らせて下さい!」
「お前、ふた言めには雨、雨と。えぇい、話を聞け この馬鹿女が! お前は醜くて私の嫁に相応しくないと言っただろう! 神である私の番になるからには身も心も全てが美しくなくては釣り合わないと言っているのだ」
「そ、そこまで醜いとは思えませんが……」
自身の顔に手を当てながら食い下がらないアメリアに、業を煮やしたリュミエールは何を思ったかアメリアに向けて手をかざすと、神力でアメリアの着ていた服をビリビリに引き裂いた。
「あっ」
切り裂かれた服が地面にヒラヒラと落ち、アメリアの肢体がリュミエールの目の前に晒された。
生け贄用として持っていた服の中で一番高価なドレスを身に纏っていたアメリアだったが、そのドレスの下ではまともに食事が摂れずに痩せこけた身体と、日々の義姉妹達からの嫌がらせで受けていた暴力の生々しい痣と傷痕が浮かび上がっていた。
「――そんな身体をしたお前の何処が美しいと言うのだ」
リュミエールはうんざりしたように目を細めアメリアの身体から視線を背けた。
「も、申し訳ありません…」
アメリアは己の貧相で傷だらけの身体を恥じ、慌てて両手で身体を隠すとその場に蹲った。
確かに龍神様のお供え物としては自分の身体は余りに貧相過ぎた。服で隠してはいたものの、それを瞬時に見破ったリュミエールにアメリアは心底驚いていた。
(流石、神様……。隠し事など出来ないわ)
生け贄としても出来損ないだということをアメリアはまざまざと思い知らされ、そして『食べられるなら誰であろうと問題ないのでは』と神様に対して高を括っていた自分を責めた。
(まさか嫁にしようとしていたとは思いもしなかったけど……)
しかし、服の下のこの身体を見抜かれていたのなら確かに龍神様には相応しくない。
腐って傷んだ食材を捧げたも同然だ。
アメリアはがっくりと肩を落とし、分かりやすく落ち込んだ。
(お父様ごめんなさい。私、お父様やこの国のお役に立つことは出来そうもありません……)
「申し訳ありませんでした。私のような醜悪な者が龍神様の目の前に姿を現すことすらも恐れ多いことでした」
「あ、ああ。分かればよいのだ」
リュミエールの言葉以上に自分を卑下するアメリアにリュミエールは僅かに怯む。
「ですが! お嫁さんにはなれませんが、何でもするのでどうかほんの僅かでも雨を降らせて下さいませんか?」
一旦引き下がったと見せかけたアメリアであったが、再び胸の前で手を合わせるとリュミエールに懇願し始めた。
(この女……)
アメリアの図々しさにリュミエールはひくりと口元を引きつらせる。
「これから毎日龍神様に誠心誠意心を込めてお祈りを捧げます。山を散策して供物も差し出します。この草だらけの祠も綺麗にします」
(……何だ?)
アメリアの懇願に無視を決め込んでいたリュミエールだったが、彼女の祈りに呼応するように、リュミエールの枯渇していた身体の奥底の神力の器にピチャンと一滴の雫が落ちたような不思議な感覚にとらわれた。
(この娘から注がれる祈りの力か?)
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