8 / 12
【8】
しおりを挟む「すみませんでした! 私がお祭りに誘ったばかりにお嬢様に嫌な思いをさせてしまい……」
路地裏へとその身を隠しながら、アンナが項垂れたように私に頭を下げた。
「いいえ、アンナ。あなたが気にすることなど何もないわ」
私は私を演じる役者の容姿を思い返していた。
まるで悪役のような、滑稽で禍々しいメイク。
あれが世間での私の姿……。
「お嬢様、もう帰りましょう……」
アンナがぼんやりとする私を気遣い路地裏から出ようとしたその時。
「ちょっと、待ちな」
ゆらりと路地裏の奥から見るからに野蛮そうな男達がぞろぞろと姿を現した。
「地味目な格好しているが、俺には分かる。あんたら良いとこのお貴族様だろ? 金目の物持っている限り俺らに恵んでくれよ」
そう言う男の手にナイフが握られており、鋭い刃がキラリと光った。
「ヒッ! 」
アンナがナイフを見て恐怖に悲鳴を上げた。
私はアンナを背に庇いながらジリと男達から距離を開ける。
「……失せなさい。あなた達のようなドブネズミに与える物なんてゴミクズですらひとつもないわ」
私がそう言うと、リーダー的な男の額にピキッと青筋が浮かんだ。
「調子に乗ってんじゃねーぞ女。金目の物だけで済まそうと思ったが痛い目も見たいようだな」
げひひと後ろに控えている男達から下卑た笑い声が洩れる。
先程の演劇で感情がすっかりと消えてしまったのか、不思議と目の前の野蛮な男達を前にしても恐怖心は沸いてこなかった。
反対にどこか冷静ながらも非情な気持ちが生まれてくる。
『念じなさい――』
不意に私の頭の中に誰かの声が聞こえたような気がした。
「……目障りよ。その手に持っているナイフでお互いを切り合いなさい」
誰かに導かれるように、無意識に私の口からそんな言葉が洩れた。
「うっ……? うわぁぁ--!! 」
すると屋敷での出来事のように、私の言葉に反応した男達が、私達に向けていたナイフを仲間同士で向け合い、お互いを攻撃し始めた。
「これは……? 」
キィィィン――
再び強い耳鳴りに襲われる。
『覚えておいて、私達一族にだけ伝わる能力を――』
お母様の声が私の中で響き渡った。
それと同時に、忘れていた幼い頃の私の記憶が唐突に甦ってきた。
(ああ、そうか。思い出した……)
何故お母様が人を遠ざけるように生きていたのか。
何故人と関わることを恐れたのか。
『私達の一族は人の心を操る能力があるのです』
お母様が亡くなって、その力が私へと受け継がれた。ずっと能力なんてないと思っていたから自然と記憶から薄れていったのか……。
死を決意したあの時に目覚めたのだろうか。
心が死んだあの日に、人の心を操る能力が生まれるなんて何て皮肉な話だろうか。
私はこの身に宿った能力を自らの身体ごと両腕でぎゅっと強く抱き締めた。
159
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説

裏切者には神罰を
夜桜
恋愛
幸せな生活は途端に終わりを告げた。
辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。
けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。
あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

公爵さまは残念な人
はるきりょう
恋愛
まっすぐに注がれた視線は熱く、リアナは次の言葉を繋げなかった。21年間貴族の娘をやってきてはいるが、男性に愛を囁かれたのは初めてで、どう対応すればいいかわからなかったのだ。
そこからである。アルセンが公然とストーキングを始めたのは。リアナへの愛を前面に押し出し、会いに来る。それがどれだけリアナに苦行を強いているのかも知らずに。
※小説家になろうサイトさまにも掲載しています。

婚約破棄をしてくれてありがとうございます~あなたといると破滅しかないので助かりました (完結)
しまうま弁当
恋愛
ブリテルス公爵家に嫁いできた伯爵令嬢のローラはアルーバ別邸で幸せなひと時を過ごしていました。すると婚約者であるベルグが突然婚約破棄を伝えてきたのだった。彼はローラの知人であるイザベラを私の代わりに婚約者にするとローラに言い渡すのだった。ですがローラは彼にこう言って公爵家を去るのでした。「婚約破棄をしてくれてありがとうございます。あなたといると破滅しかないので助かりました。」と。実はローラは婚約破棄されてむしろ安心していたのだった。それはローラがベルグがすでに取り返しのつかない事をしている事をすでに知っていたからだった。

生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。


くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

婚約破棄された武闘派令嬢の伯爵家次男への復讐
常野夏子
恋愛
王国武術の名門アリエール家の長女であるアリエルは、将来を誓い合っていたマジデ伯爵家の次男アリエンに婚約を破棄される。
理由は彼女は名ばかりで本当は弱いというものだった。

それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる