【完結】醜いと王太子に言われ婚約破棄された私が悪の女王になるまで

久留茶

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「すみませんでした!  私がお祭りに誘ったばかりにお嬢様に嫌な思いをさせてしまい……」

 路地裏へとその身を隠しながら、アンナが項垂れたように私に頭を下げた。

「いいえ、アンナ。あなたが気にすることなど何もないわ」

 私は私を演じる役者の容姿を思い返していた。
 まるで悪役のような、滑稽で禍々しいメイク。
    あれが世間での私の姿……。

「お嬢様、もう帰りましょう……」

 アンナがぼんやりとする私を気遣い路地裏から出ようとしたその時。

「ちょっと、待ちな」

 ゆらりと路地裏の奥から見るからに野蛮そうな男達がぞろぞろと姿を現した。

「地味目な格好しているが、俺には分かる。あんたら良いとこのお貴族様だろ?  金目の物持っている限り俺らに恵んでくれよ」

 そう言う男の手にナイフが握られており、鋭い刃がキラリと光った。

「ヒッ!  」

 アンナがナイフを見て恐怖に悲鳴を上げた。
 私はアンナを背に庇いながらジリと男達から距離を開ける。

「……失せなさい。あなた達のようなドブネズミに与える物なんてゴミクズですらひとつもないわ」

 私がそう言うと、リーダー的な男の額にピキッと青筋が浮かんだ。

「調子に乗ってんじゃねーぞ女。金目の物だけで済まそうと思ったが痛い目も見たいようだな」

 げひひと後ろに控えている男達から下卑た笑い声が洩れる。

 先程の演劇で感情がすっかりと消えてしまったのか、不思議と目の前の野蛮な男達を前にしても恐怖心は沸いてこなかった。
 反対にどこか冷静ながらも非情な気持ちが生まれてくる。

『念じなさい――』

 不意に私の頭の中に誰かの声が聞こえたような気がした。

「……目障りよ。その手に持っているナイフでお互いを切り合いなさい」

 誰かに導かれるように、無意識に私の口からそんな言葉が洩れた。

「うっ……?  うわぁぁ--!! 」

 すると屋敷での出来事のように、私の言葉に反応した男達が、私達に向けていたナイフを仲間同士で向け合い、お互いを攻撃し始めた。

「これは……? 」

 キィィィン――

 再び強い耳鳴りに襲われる。

『覚えておいて、私達一族にだけ伝わる能力を――』

 お母様の声が私の中で響き渡った。
 それと同時に、忘れていた幼い頃の私の記憶が唐突に甦ってきた。

(ああ、そうか。思い出した……)

 何故お母様が人を遠ざけるように生きていたのか。
 何故人と関わることを恐れたのか。


『私達の一族は人の心を操る能力があるのです』

 お母様が亡くなって、その力が私へと受け継がれた。ずっと能力なんてないと思っていたから自然と記憶から薄れていったのか……。

 死を決意したあの時に目覚めたのだろうか。

 心が死んだあの日に、人の心を操る能力が生まれるなんて何て皮肉な話だろうか。



 私はこの身に宿った能力を自らの身体ごと両腕でぎゅっと強く抱き締めた。




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