【完結】醜いと王太子に言われ婚約破棄された私が悪の女王になるまで

久留茶

文字の大きさ
上 下
7 / 12

【7】

しおりを挟む

 街はアンナの言った通り、お祭り一色のムードだった。
 町中の建物一帯には鮮やかなガーランドが張り巡らされ、通り道には花が飾られていた。

 出店もあちこちに出ており、美味しそうな匂いが私の鼻腔を刺激した。

 人々は様々な仮装で街を闊歩しており、街に着く頃と私もアンナも仮面を被って民衆の中へとひっそりと紛れ込んだ。

「お嬢様、私の側を離れないで下さいね」

 人の多さにアンナが慌てたように私に告げた。
 人の波に合わせ、ゆっくりと歩きながら私は祭りの様子をぼんやりと眺めていた。

 まるで別世界。
 陽気な音楽に不可思議な格好をした群衆。
 私は祭りの雰囲気に圧倒され、その賑わいに感動した。

 そのまま歩いて行くと、人だかりの出来ている空間へとやって来た。

 私は一歩後ろを歩くアンナに少しだけはしゃぎながら尋ねた。

「あれは何をしているの? 」

 アンナはああ、と呟くと

「あれは劇が演じられているんですよ。お祭りの名物の一つです。毎年、その年の話題のネタを劇団員達が演じるのです」
「そう……」

 私は興味を抱き、ふらりとその輪の中に入っていった。

 そこで私は衝撃の光景を目撃した。



『お前のような醜い女は私の妃に相応しくない』
『何と酷いお言葉か!  わたくしのどこが醜いとおっしゃるのですか!  』
『黙れ!  貴様の悪行は全て私の耳に届いているのだ!!』


 それは些か演劇用に誇張されていたが、確かに私とジョナサン王太子との婚約破棄の場面だった。

 醜いと罵られた哀れなローズマリー令嬢役の演者は元々が美人なのであろう。
 メイクでわざと顔を滑稽に仕立て上げていた。

 まるで夜の闇のような真っ黒なドレスを身に纏い、目の周りは黒く塗り潰され、血のような真っ赤な紅を引くその容姿は、まるで絵本に登場する魔女か悪魔のように感じられた。

 劇は続き、簡易的に作られた舞台の玉座の足元でローズマリーが城の兵士に取り押さえられると、舞台袖からゆっくりと可憐な美少女が姿を現した。
 ヒロインの登場に観衆からワァッと声援が上がる。

『私はこの心優しく美しいイザベラと結婚し、この国を豊かにしていく!  』
『ジョルジュ王太子殿下はイザベラに騙されているのです!  その女は聖女の仮面を被った悪魔のような女なのです! 』

 目から血が出そうな程にローズマリーがイザベラへと憎しみの視線を向ける。
 とても迫真の演技に人々はローズマリーへの恐怖心で口を閉ざし、固唾を呑んで演劇に魅入っていた。

『あんまりです!  私は散々、公爵家でお姉さまからの酷い仕打ちに耐えて来ました。本当の悪魔はお姉様です』

 ワッとイザベラが王太子の胸に泣きついた。


 可哀相なヒロインの姿に観客からポツリと声が洩れる。

「魔女を処刑しろ……」
「そうだ!  悪魔のようなローズマリーを処刑しろ! 」

 一人の観客の声に釣られて大きなうねりが生まれ出した。

 私には観客のその声さえも演劇の一部のように思えた。

 そして物語はクライマックスを迎える。

『  この薄汚い雌豚め!  ここはお前のような者がいる場所ではない。さっさと私の前から消えよ!! 』

 兵士に取り押さえられながらローズマリーが退場する。
 悪役が消えた玉座には主役の二人が寄り添い、皆に温かく見守られながら、永遠の愛を誓い口付けを交わす。

 そこで物語は幕を閉じた。

 周りからは拍手喝采が起こっていた。


「お、お嬢様、あちらへ行きましょう」

 私の後ろに付いてきたアンナが、凍り付く私の姿を見て、この場から急いで離れさせようと袖を引っ張るが、私はその場から動かなかった。

 (一体私が何をしたと言うのだろうか。
 醜い家畜は愛を求めることすら罪なのか)

 まるで事実とは異なるが都合の良い風に書き替えられた演劇の内容で、歓喜する人々が滑稽に思え、私は笑いが込み上げてきた。

「プッ!  アハハハハハ!!  」

 私の笑い声が舞台を取り巻く民衆達の耳に響いた。
 人々が笑い声のする方へと視線を向ける。

「お、お嬢様! 」

 アンナが私の異様な様子に焦って、力ずくでその場から引っ張り出した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏切者には神罰を

夜桜
恋愛
 幸せな生活は途端に終わりを告げた。  辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。  けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。  あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

公爵さまは残念な人

はるきりょう
恋愛
 まっすぐに注がれた視線は熱く、リアナは次の言葉を繋げなかった。21年間貴族の娘をやってきてはいるが、男性に愛を囁かれたのは初めてで、どう対応すればいいかわからなかったのだ。  そこからである。アルセンが公然とストーキングを始めたのは。リアナへの愛を前面に押し出し、会いに来る。それがどれだけリアナに苦行を強いているのかも知らずに。 ※小説家になろうサイトさまにも掲載しています。

婚約破棄をしてくれてありがとうございます~あなたといると破滅しかないので助かりました (完結)

しまうま弁当
恋愛
ブリテルス公爵家に嫁いできた伯爵令嬢のローラはアルーバ別邸で幸せなひと時を過ごしていました。すると婚約者であるベルグが突然婚約破棄を伝えてきたのだった。彼はローラの知人であるイザベラを私の代わりに婚約者にするとローラに言い渡すのだった。ですがローラは彼にこう言って公爵家を去るのでした。「婚約破棄をしてくれてありがとうございます。あなたといると破滅しかないので助かりました。」と。実はローラは婚約破棄されてむしろ安心していたのだった。それはローラがベルグがすでに取り返しのつかない事をしている事をすでに知っていたからだった。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

婚約破棄された武闘派令嬢の伯爵家次男への復讐

常野夏子
恋愛
王国武術の名門アリエール家の長女であるアリエルは、将来を誓い合っていたマジデ伯爵家の次男アリエンに婚約を破棄される。 理由は彼女は名ばかりで本当は弱いというものだった。

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

処理中です...