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【6】
しおりを挟むベスを始めとする周りの使用人達が息を呑む。
ローズマリーはその様子に焦れたように眉根を吊り上げ、先程から踏みつけているベスの手にぐりっとヒールを食い込ませた。
「ううっ……! 」
ベスの顔が苦痛に歪む。
「聞こえなかったの? 今すぐにその道を開けろと言っているの。使用人なら使用人らしくその態度を改め私にひれ伏しなさい!! 」
キィィィン――――
私がベスを叱責するように声を張り上げると、突如として脳を揺さぶるような耳鳴りに襲われた。
「な、に? 」
あまりの不快な音に私は咄嗟に自分の耳を手で押さえ、踞った。
「お嬢様!? 」
私の様子を心配したアンナが背後から私の肩に手を添える。
「うっ、……大丈夫よアンナ……」
耳鳴りが止むと私はよろりと身体を起こし、気遣うアンナに言葉を掛けた。
その直後
「すみませんでした! ローズマリーお嬢様」
私の目の前にまるで壁のように立ち塞がっていたベスがバッと床から立ち上がると、壁の端に身を寄せ私に向かって深々と頭を下げると、大きな声で謝罪の言葉を述べたのだ。
ベスの謝罪を合図に、周りの使用人達もザッとその場に膝をつき、私に向かって床に頭を擦り付けるように深々と頭を下げ出した。
「「どうかご無礼をお許し下さい!! 」」
信じられない光景を目にし、私もアンナも事態が飲み込めずにポカンと間抜けな表情を浮かべると、お互いに視線を見合わせた。
(何が起こったというの? )
いくら脅すような態度だったとはいえ、今までの使用人達なら、こんなに素直に私に対して頭を下げることなど考えられない。
私とアンナはまるで狐につままれたように、頭を下げる使用人達の横を通り過ぎ、二階の階段を降りた。
そして玄関前に到着すると、待ち構えたように年配の執事が私に向かって、恭しく頭を下げながらゆっくりと入り口の扉を開けた。
「お嬢様、馬車の用意を致しました。どうぞお気を付けてお出掛け下さい」
先程ベスが出払っていると言っていた馬車を用意したと言うのか。
私は執事を怪訝な表情で見つめながら玄関の外に視線を移した。
執事の言った通り、広大な公爵家のエントランスに公爵家の立派な馬車が用意されていた。
(初めからあったならそう言いなさいよ)
私が煮え切らない気持ちで馬車に乗り込むと、いつの間にか一階に降りていたベスや屋敷の使用人達が、玄関先で横並びに私達を見送るように頭を下げていた。
「お気を付けて行ってらっしゃいませ、お嬢様」
私とアンナはその異様な光景にただただ呆気に取られていた。
私はそんな様子に気味悪さを感じ、早く公爵家から離れるようと急いで馬車を走らせた。
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