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◆それで十分だと思ってました

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「ショーン様については俺から言うことはありません。なので、呉々も巻き込まないで下さいね」
「ふむ、お前が婿になれば全てが丸く納まるのだがな」
「ちょ「旦那様、それは」っと……ですよ。もう終わった話ですよね」
「そうかな」
「いやいやいや、そうかなってそうでしょ。実際に婚約は解消された訳ですし」
「そんなのどうとでもなる」
「……そう来ますか」
「ああ、そうしたくもなるさ。エリーも無事に入学し、マリーは飛び級どころか、前倒しで入学させてもいいくらいだ。だのに……」
「ショーン様のことですか」
「ああ、そうだ。アイツもアイツなりに頑張ってはいるのだが、どうしてもエリーやマリー、それにお前の前では霞んでしまう。なあ、責任の一端を感じるだろう?」
「いいえ、全く」
「お前なぁ~」
「旦那様、それは少し飛躍しすぎではないでしょうか」
「そうかな。だが、実際問題ショーンは今の所、頭打ちだ。ここで突破する刺激が必要になるのだが、アイツにはそういった危機感が感じられない」
「じゃあ、次に産まれてくるお子さんが男の子だったら……」
「そうだな。そうなるとショーンも少しは焦るかもしれないな。あくまでも希望的観測だがな」
「優秀すぎる女傑家系というのも難しいですね」
「ん? 話したことあったか?」
「いいえ。ですが、話の流れとアリー様の如才の無さから察してしかるべくと言ったところでしょうか」
「まあ、そういうところだ。同族嫌悪ではないが、それでもショーンは危機感がなさ過ぎる」
「ですが、貴族特有の傲慢さとかは無縁そうですが?」
「それだけで海千山千の貴族社会を生きていけると思うか?」
「ムリでしょうね」
「だろ? 一商家の息子であるお前でさえ、そう思うのだからな。かと言って今更ショーンを厳しく教育しても反発されるのではないかと危惧している」
「え?」
「ん? 何が疑問だ?」
「あ、いえ。なんで今更と言うのが正直な気持ちです」
「ああ、それはお前のせいだ」
「はい?」
「お前がいなければ、何も考えずにショーンに家督をそのまま譲っていただろうな」
「え?」
「だが、ケイン。お前という存在が我が領に著しい変化と冨を齎した。だから、今のままではショーンが統治するには荷が重すぎる。分かるだろ? まあ、分からないとは言わせないがな」
「はぁ……」

 デューク様の告白にも似たぼやきに適当に返事する訳にもいかず、かと言って全てを肯定するのも違うかなと話を合わせてはいたが、要するに俺が色々なことをやり過ぎたせいでショーン様一人の肩に背負わせるには重すぎたようだ。

 デューク様は暗にその責任を俺にあると言い、少しは背負えと婚約問題を蒸し返そうとするのを話が違うでしょと遠ざければ、問題はショーン様の才覚へと移る。

 だが、今更ながらショーン様に対し英才教育を施そうにも今まで甘やかしていたこともあり反発されるのを恐れている。

 だからと言って、俺を行政に組み込むのは止めて欲しい。

 そんな悩めるデューク様に俺から提案出来るのは一つだけだ。

「では、デューク様と同じ様に優秀な奥様を娶られては?」
「は?」
「ぷっ……」
「セバス?」
「あ、いや。失礼しました。ですが、あまりにも先代の旦那様と同じ見解を示された物ですから……」
「それを言うなよぉ~」

 ショーン様に期待出来ないのであれば、優秀な伴侶を娶ってみるのはどうかとデューク様に提案すればデューク様は俺の顔を直視し、セバス様は思わず噴き出してしまう。

 セバス様が言うには先代……つまりはデューク様の父上も同じ様に悩んだ結果、デューク様をサポートすべく女傑を探しだし、アリー様を選出した経緯があるらしい。

「なら、それでいいじゃないですか」
「そう願いたいのだがな。アイツは少々惚れっぽいところがあるだろ」
「ん?」
「なんだ。忘れたのか? ママチャリの二人乗りのこととか、エリーの社交デビューに付き添っただけなのに不用意な約束までするようなヤツだぞ」
「ああ……」
「それをケイン様に言うのは……」

 デューク様のぼやきにセバス様がそれは違うでしょうと苦言を呈すが、デューク様は首を横に振り、ケインがいるからアイツが勘違いすると言う。

「旦那様、そもそもケイン様と同列に語れる者は難しいかと……」
「それは分かる。分かるが、同じ歳のアイツにそれを分かれと言うのも難しい話だろ。同じ歳なのにどうして自分には出来ないと発憤するなら、救いはあるが……『ケインだから』とそれすらない」
「旦那様、それは……そうと言えますが……」
「え?」

 デューク様は同年代に俺がいることでショーン様が発憤することを期待したが、世間での『ケインだから』と言う声を拾い上げた結果、自分が努力しても俺には追いつけないと妙に達観してしまったらしい。

 だからと言ってセバス様までそれを肯定するのはどうかと思うけど……。

「で、私達はいつまでその話を聞いていればいいのかな?」
『ケイン、転移ゲートを開いてくれ』
「ケイン、ごめんね。でも、聞いてくれなくて……」

 俺達の話を黙って聞いていたが、次第に欠伸を我慢出来なくなったユリシアさんが「もう、我慢出来ない」と話の腰を折ってきたので、俺はユリシアさんと会った場所に転移ゲートを繋ぐと直ぐにユリシアさんとマサオが飛び込んで行った。

 ナーガさんが直ぐに後を追おうとしていたが、俺はその手を掴み携帯電話を握らせる。

「ケイン、こういうのは……」
「えっと、勘違いしないで欲しいんだけど、単なる連絡手段だからね」
「え?」
「いや、え? って見たことあるよね。はい、これが俺の番号ね。ちょっと待ってね」

 俺は自分の携帯電話を取り出しナーガさんに渡した携帯電話を鳴らし、表面に俺の携帯電話の番号が表示されたのを確認してから「練習が終わったら、この番号に連絡してね」とナーガさんにお願いしてから、転移ゲートを潜って貰う。

「じゃ、ショーン様のことはそういうことで」とデューク様とセバス様に断り、俺もドワーフタウンの工房へと戻る。
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