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◆不安は隠せきれませんでした

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 王太子はマサオの様子が気になり、このままでは政務も手に付かないとまで言い出す。

 なので、俺は「マサオ、何をそんなに抱え込んでいるのかちゃんと話しなよ」と言えば、チラリと俺を見て『ハァ~』と深い溜め息を吐く。

「面倒だな。殴ってもいいか?」
「やめてよユリシアお姉ちゃん!」
「ユリシアさん、それはまだ待って。ほらマサオ、ユリシアさんが待っていられる間に早く!」
『……笑わない?』
「ああ、笑わないよ」
「それは内容によるだろ」
「もう、お姉ちゃん! マサオ、笑わないから話して」
『じゃあ……』

 マサオが何をそれほど思い込んでいるのか話して欲しいと頼むが、なかなか話し出しそうにないマサオにユリシアさんがキレそうになったのを見てマサオもやっと話し出す。

『さっき、ケインに言われて気が付いたことがある』
「俺が? 何言ったかな。特にマサオを傷付けるようなことは言ってないと思うけど?」
『俺が操っていないって言っただろ』
「あぁ~言ったね。で、それが?」
『俺はフェンリルだ』
「うん、そうだね。ちょっと疑ってしまったけど、今は信じているから。それで?」
『ユリシアとナーガはドラゴンだ』
「うん、そうだね。ナーガは分からないけど、ユリシアさんはそうだね」

 マサオが今更ながら自分はフェンリルで、ユリシアさん達はドラゴンだと当たり前のことを言い出すが、ナーガについては正直不明だと答える。

「ちょっと、ケイン君!」
「だって、ドラゴンになったところ見たことがないし」
「……だってドラゴンになったのはもう随分前のことだし、今はこの姿にいることが慣れすぎて……って、私のことはいいから、マサオ。ほら、続きを早く!」
『……俺は人の姿になれない』
「「「あ~」」」
『俺が人の姿になれたら、俺だってセバスになんか負けないくらいに車で跳ばすし、ボートだってガンツに負けない! ……でも、この姿のままじゃそれが叶わない』
「そんなことか……ったく情けない」

 マサオの告白は俺が言った人が操る物に乗っているだけでマサオ本人が操っている訳ではないと言ったことを気にしていた様で、人の姿になれたらセバス様にもガンツさんにも絶対に負けないと言うが、それは叶わないことだと漏らせばユリシアさんがマサオをフッと鼻で笑う。

『お前に俺の気持ちが分かって堪るか!』
「うん、分からないよ。だって、私はお前じゃないし、お前は私じゃない。そんな当たり前のことを言われてもな」
『え?』
「それにな、人化したいのなら何故私に言わない」
『へ?』
「だから、人化の方法ならちゃんと教えてやるから安心しろ」
『ユリシア……いいのか?』
「ああ、但し優しくは出来ないぞ」
『いい! それくらいガマンする!』
「分かった。それとナーガも元の姿に戻れるよう練習な」
「わ、私はいいから……マサオの面倒見てあげて」

 ユリシアさんに笑われたマサオは悔しそうに俺の気持ちなんて分からないと自分の気持ちを吐露するが、ユリシアさんにそれを肯定され呆気にとられる。

 まあ、安っぽい青春ドラマなら「そんなことはない!」って熱くなるところだけど、ユリシアさんはそれを軽く流して「別人なんだから分からないのが当たり前だ」と言った後に人化の方法ならいくらでも教えてやると言われマサオは喜んでその提案を受け入れる。

 そしてついでだとナーガもドラゴンの姿に戻れるように練習しようとなり困惑してしまう。

「心配するな。一人も二人も一緒だ。だが、そうなると……」
「あ、近くでは止めてね。出来れば、ユリシアさんと会った場所あたりがちょうどいいかな」
「あそこか……うむ。確かにな」


 マサオが黄昏れている原因も分かったことで王太子も満足気に頷き、デューク様達に挨拶してから「では、またな」と部屋から出て行った。

「じゃあ、俺達も「待て!」……え?」
「そう急ぐな。少しお前と話したいのだが、いいか」
「いえ、俺にはないので。じゃ」
「ケインよ、それはないだろ。セバス」
「はい。私の退職届はこちらに」
「うむ。って、おい!」
「ちっ……」

 デューク様は俺の返事に呆れながらもセバス様に話を進めるように頼むがセバス様が懐から封書を取り出しデューク様の前に置くとデューク様がそれを破り、セバス様は舌打ちする。

 セバス様が話しそうになかったのでデューク様は嘆息してから、ぽつりと話し出す。

「エリーの入学式も終わり、俺の王都での公務ももうすぐ終わる」
「そうなんですね。それはお疲れ様でした」
「ああ、ありがとう。でな、アリーは知っての通り妊婦さんだ」
「ええ、そうですよね。もう産まれていたのならビックリですよ」
「そうだな。まだ産まれてはいないが、大事な身体だ」
「ですよね」
「ああ、そうだ。だから、お前に頼みたい」
「えっと、話が飛び飛びでよく分からないんだけど、結局はどういうこと?」
「セバス……」

 デューク様がアリー様の身体を慮っているのは分かったが、結局どうしたいのかが分からないまま、デューク様がセバス様に続きをお願いする。

「はい、辞職願はここに」
「そうじゃない! お前は俺が死ぬまでは辞めさせない!」
「チッ……ケイン様、旦那様がお願いしたいことは奥様のことです」
「え? もしかして俺に面倒を見ろとでも?」
「違うわ! なんでそうなる!」
「え? でも話の流れから考えるとさ」
「まったく俺がアリーやセバスを手放す訳がないだろうが」
「そうですね。残念なことです」
「セバス、例え冗談でも止めてくれ。正直、お前に出て行かれるのはツラい」
「……でしたら」
「分かった。もう少しお前がレース場に行けるように調整する。それでいいだろ?」
「はい、ありがとうございます!」
「それで、肝心なことは?」
「「あ!」」

 セバス様はちゃっかり自分の趣味であるレース場へ行ける時間を増やすことに成功し喜んでいるが、肝心の話がまだだ。

「コホン、失礼しました。ケイン様にお願いしたいのは領都の御屋敷まで奥様を送って戴きたいのです」
「あ~そういうこと。全然OKです。っていうか態々頼む程のことでもないでしょ。何をそんなに勿体ぶって」
「……」
「ケイン様、お願いするのはアリー様と数名の侍女のみで……旦那様と私達は来た時と同じ様に車で戻ります」
「ん? それの何が?」

 なんだかんだと話は長くなったがいつもの用事と言ってもいいくらいのことだったので、なんでこんなに勿体ぶるのかと不思議に思ったら、デューク様がいきなり怒鳴り出す。

「何がって、お前……アリーとお腹の子と離れるんだぞ!」
「え?」
「いい! お前には分からなくてもいい!」
「旦那様は淋しいのですよ」
「えぇ!」
「何が『えぇ!』だ!」
「だって、長くても一日でしょ?」
「……」

 たった一日離れるのが淋しいってどういうことなんだとデューク様をジト目で見ればセバス様が説明してくれた。

「ケイン様、実はですね。奥様から鉄道の敷設工事の進捗も確認するように言われているので、一日と言う訳にはいかず、短くても一週間は掛かるかと……」
「あぁ、それは大変ですね。なら、マリー様もアリー様と一緒に帰った方がいいんじゃないですか」
「それもそうですね。旦那様、それでよろしいですか」
「……いい。好きにしろ」
「では、ケイン様。日時が決まりましたら改めてご連絡致します」
「はい、分かりました」
「待て! ケインよ。ショーンのことは忘れていないか?」
「え? だってショーン様は跡継ぎなのですからデューク様に帯同した方がいいですよね」
「……跡継ぎか」

 エリー様は学校に行くので、残りの家族はアリー様、マリー様、ショーン様となるのだがアリー様だけを領都に連れて行くのはいいが、マリー様までデューク様に一週間も付き合うのは酷だろうとアリー様と一緒に帰ることを提案すれば好きにしろと言われてしまう。

 そして残されるのはデューク様とショーン様になるのだが、デューク様はショーン様が跡継ぎということに不安があるようだ。

※※※スピンオフ作品始めました※※※
おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~
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