上 下
462 / 468
連載

◆裏側の人を呼んでみました

しおりを挟む
『ブラジルの人、聞こえますかぁ!』

 王太子達にどうやって説明すればいいのだろうかと考えていた時にふと、そんなギャグを思い出す。

「どうやって説明すれば……あ! そうだよ、重力だよ、引力だよ!」
「ケイン様?」
「ケイン、重力とは?」
「引力ってなんだ?」

 俺の呟きにセバス様、王太子、デューク様が反応する。

「え~と、今から説明しますね。惑星ほしの裏側の人達がどうしているのかって話ですよね」
「ああ、そうだ」
「俺にも分かる様に説明してくれよ」
「ケイン様、お手柔らかにお願いします」
「そんなに難しいことじゃないですよ。要はこういうことですから」
「「「ん?」」」

 俺は土魔法で作った直径十センチメートルほどの球を手の平に載せ「いいですか、よく見てて下さいね」と王太子達に告げれば俺の前の大人三人は不思議そうにしながらも首を縦に振る。俺はそれを認めると「じゃあ、いきますよ」と声を掛け、手の平をひっくり返せば土の球は床に落ち形が崩れる。

「こういうことです」
「「「ん?」」」
「分かりましたか?」
「ただ、球を落としただけだろ?」
「ケイン、床掃除はしろよ」
「ケイン様、もう少し説明をお願いします」
「ん~」

 彼の人は木から落ちた林檎を見て万有引力の法則を発表したけど、こっちではまだ誰も発表していないのかな? 下手に魔法があると物理法則がねじ曲げられるから難しいのかも知れないけど誰か発表しようよ……。

「えっとですね、俺が手の平を返したら下に落ちましたよね」
「そうだね。それが?」
「放せば下に落ちるのは当たり前だろうが」
「ケイン様、上には向かいませんよ?」

 俺はふぅ~と嘆息してから「それが引力の仕業です」と言えば、三人は「引力ってなんだ?」と首を傾げる。

「え~さっきデューク様が言ったじゃないですか。下に落ちるのが当たり前だって」
「ああ、言ったな。だから、それがどうした?」
「だから、それが引力なんですって!」
「ん?」
「なるほど! そういうことですか、ケイン様」
「セバス様、分かってくれたんですね」
「セバス、どういうことだ?」
「ちょっと待って! ケイン、その『引力』の仕業で裏側の人達も地面に足が着いているんだね!」
「はい、その通りです」
「ちょ、ちょっと待て! ケイン、俺だけが分かってないのか?」
「ええ、そうみたいですよ。ふふふ」
「く……いや、でもおかしいだろ。なぜ、そうなるんだ?」
「ふふふ、デュークはまだ分からないようだな」
「旦那様……ご自分で仰っていたのに……」
「ぐぬぬ……」

 三人の中で理解出来ないのはデューク様だけになったみたいだけど、このままじゃ可哀想だなと思いインベントリから磁石と鉄釘を取り出しデューク様の前に出す。

「デューク様、引力ってのは、こんな風に惑星ほしが地面に縛り着ける力を指します。そして、惑星ほしの上にいる人、物、全てが惑星ほしの中心に引っ張られます」
「……ふむ、なるほど」
「デューク、本当に理解したのかい?」
「旦那様?」
「……分かっている。分かっているつもりだ。要は皆が中心に引っ張られているから、裏側の人間も立っていられる。そういうことなんだろ? ケインよ」
「ええ、合っていますよ」
「ほら、みろ!」
「不敬だな」
「旦那様……」
「あ……いえ、そんなつもりは……」
「ふふふ、まあいいよ。それに引力の説明は分かったけど、あまり口外はしないで欲しいかな」
「それは「しないでね?」……はい」

 ここで追求しても面倒そうなので今はこれでいいかと納得した振りをすることにした。

「殿下、我々が立つ地面が丸かったことについても同様でしょうか?」
「そうだね。私達が率先して言うことでもないでしょ。今後、船の開発が進み大洋へと人が手を広げれば自然と分かるのではないかと思いますよ」
「それもそうですね」
「だから、その為にもケインには是非、大型船を「イヤですよ」……え?」
「ケイン、お前……」
「だって、まだ王太子の車もまだなのに船を作れって言われても困りますよ」
「ふふふ、それもそうか。まあ、いいよ。頭の片隅にでも入れといてよ」
「分かりました。じゃ、俺はこれで「まだだよ」……え?」

 これで諸々の説明も終わったから帰ろうとすれば、王太子から「まだ」と呼び止められる。

「えっと、まだ何かありましたか?」
「紹介してもらってないけど?」
「ん?」
「だから、そのドラゴンだよ」
「えっと、いいんですか?」
「いいよ」

 王太子に許諾されたので、屋敷の主人であるデューク様の方を見れば、諦めた様な顔付きで渋々と首を縦に振る。

「じゃあ、連れて来ますけど……」
「ああ、頼むよ」

 王太子が和やかに俺を送り出してくれたので、俺は転移ゲートを遊具施設の試験場へと繋いだ瞬間に『ゴー!』という音と共に『キャ~!』と女性の可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。

「ケイン、今のは?」
「じゃ、呼んで来ますね!」

 面倒なことになりそうだったので、俺は王太子を振り切りマサオ達の元へと急ぐのだった。
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

天災少年はやらかしたくありません!

もるもる(๑˙ϖ˙๑ )
ファンタジー
旧題:チート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?! 【アルファポリス様にて発売中!!】 「天災少年はやらかしたくありません!」のタイトルで2022年10月19日出荷されました! ※書籍化に伴い一部を掲載停止させて頂きます あれ?何でこうなった? 僕の目の前の標的どころか防御結界が消滅。またその先の校舎の上部が消滅。 さらにさらに遠く離れた山の山頂がゴッソリと抉れてしまっている。 あっけにとられる受験者。気絶する女の子。呆然とする教員。 ま……まわりの視線があまりにも痛すぎる…… 1人に1つの魂(加護)を3つも持ってしまった少年が、個性の強い魂に振り回されて知らず知らずの内に大災害を発生させて、更なるチートで解決していく物語です! 書籍化記念書き下ろし 天災少年はやらかしたくありません!スピンオフ Stories https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/842685585 第2部『旅行中でもチート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?!』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/979266310 第3部『ダンジョンでもチート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?!』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/211266610

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。