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◆名前を忘れました
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取り敢えず話を聞いてくれそうなドラゴンに着いて飛ぶこと数分、ドラゴンが降下していくので俺も離されないように降下していくと、少し開けた場所の小さな丘の上にドラゴンが降り立ったので俺は、その近くに機体をゆっくりと降下させる。
『さて、ここなら誰にも邪魔をされることはないだろう。お前達の身の安全も保証しよう』
ドラゴンが保証してくれるのなら、大丈夫だろうと機体のハッチを開けると俺とマサオはゆっくりとタラップを降りてから改めてドラゴンを見上げる。
「うわぁ~白銀だね」
『お前、そんな生易しい感想で済ませるなよ。アイツは間違いなく俺よりも強いぞ』
「マサオより強いんなら慌てるだけ無駄でしょ。ほら、行くよ」
『チッ……分かったよ』
それほど離れた場所に着陸させたつもりじゃなかったけど、なかなかドラゴンに近付くことが出来ない。やっぱり、口では平静を装っていても体が正直だということなんだろう。どことなく歩く速さが牛歩並だ。
『何をそんなにゆっくりしているんだ』
「いや、自分では普通に歩いているつもりなんだけど……」
『まさか、俺までビビるとはな……』
『ふむ、ではこれならどうだ』
ドラゴンから発するオーラみたいなものが、さっきまではとんでもない圧力を感じていたのに随分と和らいだものに変わった気がする。これなら、いつも通りに出来そうだなと歩く速さも変わった。
『ようやく来たな』
「待たせてしまいましたね」
『それはいい。それで私に聞きたいことがあると言うことだったが、何を聞きたいのだ?』
「えっと、ナーガさんをご存知ですか?」
『ナーガ……』
俺は唯一の繋がりであるナーガさんの名前を出してみるが、目の前のドラゴンは『ナーガ』と呟いてから目を閉じて瞑想状態に入ったように見える。
悠久の時を生きているというドラゴンだ。記憶を辿るのも簡単ではないのだろう。でも、多分だけど姉妹だよね。そんな風に直ぐに思い出せないくらいの扱いなんてナーガさんらしいと言えば、らしいんだけど……ドラゴンの前で黙って待っているだけなんて耐えられないよ。
まるで寝ているかの様に少しも動かないドラゴンの前で俺もマサオもヒマを持て余してしまったので、インベントリからお茶セットにお菓子にテーブルにと取り出してセッティングを済ませると、マサオと一緒にくつろいでいたら『何をしている』とドラゴンが目を開けた。
「えっと、中々目を覚まさないので……」
『何をしていると聞いている』
「あの、だから待っている間にお茶とお菓子で『お菓子だと!』……えっと、はい。食べます?」
『いいのか?』
「いいですけど、そのままの姿じゃ小さすぎません?」
『確かにそうだな……』
俺がシュークリームを一つ取り、ドラゴンの前にかざしてみるが、どう見ても一口サイズどころか歯石レベルくらいの大きさだ。
すると、ドラゴンも俺の言いたいことが分かったのか、逡巡した後にいきなり体が発光し、気が付けばそこには一糸まとわぬ姿の長い白髪に端正な顔で均整の取れたお姉さんがそこにいた。
「ふむ、久しぶりだがこれなら大丈夫だろう。ん? どうした少年よ」
「あ、あの……何か羽織ってもらえませんか」
「ん? ああ、そうだったな。確かヒトは肌を見せるのをヨシとはしていなかったな」
ドラゴンのお姉さんが何かを呟くと一瞬で服を身に纏っていた。
「どうだ、これなら問題ないだろう」
「凄い! あの一瞬で……」
「ふふふ、そうだろう、そうだろう」
「ええ、ホントに」
「だが、下はこのように何もないんだがな」
「あ……」
そう言ってお姉さんがワンピースの裾をガバッと上げると……履いてませんでした。
「そ、そう言うのはやめてもらえますか」
「さっきから文句が多いな。まあ、ヒトと関わっていたのは昔過ぎて忘れていることもあるからな、敢えて受け入れよう」
「あ、ありがとうございます」
「うむ」
なんだろうか、俺は正しいことを言っているはずなのになぜだか敗北感を感じてしまう。しかもさっきの『ありがとうございます』ってなんだよ。今更ながら、それが見せてくれたことに対するお礼のように思えてしまい軽く自己嫌悪に陥ってしまう。
「少年よ。こうやってヒトの姿になったのだ。さっきのお菓子をもらえないだろうか」
「あ、そうでした。では、こちらにお座り下さい」
「ああ、分かった」
俺はお茶を煎れ、シュークリームやチョコレート等を皿の上に適当に盛り付け、お姉さんの前に出すと、お姉さんはその中からシュークリームを手に取り、鼻先に近付け臭いを嗅ぐと、今度は上に掲げたりしながら上下左右と色んな方向から形を確認すると、一口で食べてしまった。
「うん、うまいな!」
「気に入ってもらえたようでうれしいです」
「ああ、少年よ。そんな言葉遣いは不要だ。普通に話すといい」
「いいんですか?」
「構わん。私が許す。それにこんな美味い物を提供してくれる者を遠ざけるのは馬鹿げているだろう」
「そうなんだ。それと俺の名前はケインだから」
「そうかケインだな。私は……私の名はなんだ?」
「『え~』」
どうやら長いこと自分の名を言うことも呼ばれることもなかったせいで自分の名前を忘れてしまったお姉さんだった。
ドラゴンって残念な存在しかいないんだろうか。
『さて、ここなら誰にも邪魔をされることはないだろう。お前達の身の安全も保証しよう』
ドラゴンが保証してくれるのなら、大丈夫だろうと機体のハッチを開けると俺とマサオはゆっくりとタラップを降りてから改めてドラゴンを見上げる。
「うわぁ~白銀だね」
『お前、そんな生易しい感想で済ませるなよ。アイツは間違いなく俺よりも強いぞ』
「マサオより強いんなら慌てるだけ無駄でしょ。ほら、行くよ」
『チッ……分かったよ』
それほど離れた場所に着陸させたつもりじゃなかったけど、なかなかドラゴンに近付くことが出来ない。やっぱり、口では平静を装っていても体が正直だということなんだろう。どことなく歩く速さが牛歩並だ。
『何をそんなにゆっくりしているんだ』
「いや、自分では普通に歩いているつもりなんだけど……」
『まさか、俺までビビるとはな……』
『ふむ、ではこれならどうだ』
ドラゴンから発するオーラみたいなものが、さっきまではとんでもない圧力を感じていたのに随分と和らいだものに変わった気がする。これなら、いつも通りに出来そうだなと歩く速さも変わった。
『ようやく来たな』
「待たせてしまいましたね」
『それはいい。それで私に聞きたいことがあると言うことだったが、何を聞きたいのだ?』
「えっと、ナーガさんをご存知ですか?」
『ナーガ……』
俺は唯一の繋がりであるナーガさんの名前を出してみるが、目の前のドラゴンは『ナーガ』と呟いてから目を閉じて瞑想状態に入ったように見える。
悠久の時を生きているというドラゴンだ。記憶を辿るのも簡単ではないのだろう。でも、多分だけど姉妹だよね。そんな風に直ぐに思い出せないくらいの扱いなんてナーガさんらしいと言えば、らしいんだけど……ドラゴンの前で黙って待っているだけなんて耐えられないよ。
まるで寝ているかの様に少しも動かないドラゴンの前で俺もマサオもヒマを持て余してしまったので、インベントリからお茶セットにお菓子にテーブルにと取り出してセッティングを済ませると、マサオと一緒にくつろいでいたら『何をしている』とドラゴンが目を開けた。
「えっと、中々目を覚まさないので……」
『何をしていると聞いている』
「あの、だから待っている間にお茶とお菓子で『お菓子だと!』……えっと、はい。食べます?」
『いいのか?』
「いいですけど、そのままの姿じゃ小さすぎません?」
『確かにそうだな……』
俺がシュークリームを一つ取り、ドラゴンの前にかざしてみるが、どう見ても一口サイズどころか歯石レベルくらいの大きさだ。
すると、ドラゴンも俺の言いたいことが分かったのか、逡巡した後にいきなり体が発光し、気が付けばそこには一糸まとわぬ姿の長い白髪に端正な顔で均整の取れたお姉さんがそこにいた。
「ふむ、久しぶりだがこれなら大丈夫だろう。ん? どうした少年よ」
「あ、あの……何か羽織ってもらえませんか」
「ん? ああ、そうだったな。確かヒトは肌を見せるのをヨシとはしていなかったな」
ドラゴンのお姉さんが何かを呟くと一瞬で服を身に纏っていた。
「どうだ、これなら問題ないだろう」
「凄い! あの一瞬で……」
「ふふふ、そうだろう、そうだろう」
「ええ、ホントに」
「だが、下はこのように何もないんだがな」
「あ……」
そう言ってお姉さんがワンピースの裾をガバッと上げると……履いてませんでした。
「そ、そう言うのはやめてもらえますか」
「さっきから文句が多いな。まあ、ヒトと関わっていたのは昔過ぎて忘れていることもあるからな、敢えて受け入れよう」
「あ、ありがとうございます」
「うむ」
なんだろうか、俺は正しいことを言っているはずなのになぜだか敗北感を感じてしまう。しかもさっきの『ありがとうございます』ってなんだよ。今更ながら、それが見せてくれたことに対するお礼のように思えてしまい軽く自己嫌悪に陥ってしまう。
「少年よ。こうやってヒトの姿になったのだ。さっきのお菓子をもらえないだろうか」
「あ、そうでした。では、こちらにお座り下さい」
「ああ、分かった」
俺はお茶を煎れ、シュークリームやチョコレート等を皿の上に適当に盛り付け、お姉さんの前に出すと、お姉さんはその中からシュークリームを手に取り、鼻先に近付け臭いを嗅ぐと、今度は上に掲げたりしながら上下左右と色んな方向から形を確認すると、一口で食べてしまった。
「うん、うまいな!」
「気に入ってもらえたようでうれしいです」
「ああ、少年よ。そんな言葉遣いは不要だ。普通に話すといい」
「いいんですか?」
「構わん。私が許す。それにこんな美味い物を提供してくれる者を遠ざけるのは馬鹿げているだろう」
「そうなんだ。それと俺の名前はケインだから」
「そうかケインだな。私は……私の名はなんだ?」
「『え~』」
どうやら長いこと自分の名を言うことも呼ばれることもなかったせいで自分の名前を忘れてしまったお姉さんだった。
ドラゴンって残念な存在しかいないんだろうか。
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