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◆覚えてませんでした

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 俺達は少し戸惑いながらも『さっきの女性は?』と聞いて来た男性を不審に思いジッと見てしまう。特にガンツさんとイーガンさんは奥さんであり母親でもあるアンジェさんを何故このオジサンが気に掛けるのかと不思議でしょうがない。

「失礼だがオマエは誰だ?」
「失礼といいながら『オマエ』呼ばわりか?」
「なんだ? ワシの奥さんに興味を持ったヤツに気を使う必要があるのか? あ~ん?」
「ぷっ、さっきあれだけ頬を張られていたのが旦那だと? はっ笑わせるな!」
「なんだ!」
「なんだよ!」
「はい、ちょっと待って!」
「「止めるな!」」
「止めるに決まっているでしょ!」
「「……」」

 ガンツさんと知らない髭面のオジサンが言い合いから殴り合いに発展しそうなので慌てて止める。

「で、ガンツさんはともかく……そっちのオジサンは誰なの? なんでアンジェさんに興味を持ったの?」
「そ、そうだ! お前はアンジェをどうするつもりだ!」
「やっぱりアンジェだったのか……」

 俺がオジサンにアンジェさんの何が気になるのかを確認しようとしたら、オジサンは「やっぱり」と意味深な言葉を吐いて考え込む。

「えっと、やっぱりってのは?」
「あ~すまない。俺はワッツと言う。というか、昨夜も自己紹介は済ませたと思っていたんだがな」
「そうだったかな? で、なんでお前がアンジェのことを気にするんだ?」
「やっぱり、そうだ。昔と変わらないな」
「答えになってないぞ」
「あ~済まない。俺はアンジーとは昔、婚約していたんだ」
「「え~婚約?」」

 ワッツさんからの告白に俺とガンツさんは驚きを隠せないままでいる。

「えっと、ガンツさん。どうするの?」
「ふん! 婚約者だかなんだか知らないが、ワシは夫婦でアンジェの旦那だ。そんなことは関係ない! だが……」
「「だが?」」
「ワシの奥さんを軽々しく『アンジー』と呼ぶのは止めて欲しい」
「なんで?」
「なんででもだ!」
「「……」」

 普段からは考えられないほどのガンツさんの激昂振りに俺もワッツさんもビビってしまう。だけどワッツさんは少し逡巡した後に「いや、おかしいだろ」とガンツさんに反論する。

「なにがおかしい?」
「だって、俺はアンジーの「アンジーじゃない!」……あ~もう分かったよ。でもなアンジェと俺は幼馴染みだ。そこのところは大目にみてもらってもいいんじゃないのか?」
「ダメだ」
「なんでだよ!」
「なんででもだ!」

 ガンツさんもワッツさんも一歩も引かない様子なので、俺は二人に内緒でアンジェさんを召喚する。

「はい、そこまで!」
「アンジェ!」
「アンジー!」
「あら、懐かしい呼び名ね。そんな懐かしい名前で呼ぶのは誰なのかしら?」
「俺だよ、アンジー」
「えっと誰?」
「え?」

 ガンツさんとワッツさんが殴り合いになりそうになったところにアンジェさんを投入すると二人ともそれまでの争いをピタッと止めてアンジェさんの名を呼ぶ。だけど、アンジェさんは自分をアンジーと呼ぶワッツさんが誰なのか分からないようだった。

「アンジー、俺だよ! お前の婚約者だったワッツだよ!」
「婚約者?」
「お前、まだ言うか!」

 アンジェさんは自分の婚約者だと言うワッツさんの顔を繁々と観察するがまだよく分からないようだ。

「アンジェよ。こいつはお前の婚約者だと言っているが、そうなのか?」
「ガンツ、私はあなたの何?」
「な、何ってお前はワシの……」
「ワシの?」
「ワ、ワシの奥様だ!」
「そう、私はガンツの奥さんよね。それだと婚約者はどういう立場なの? 問題あるの?」
「ないな。うん、婚約者だろうがなんだろうが、アンジェはワシの奥さんだ」
「まったく。ここまで言わないと分からないとは思わなかったわよ」
「すまない」
「それでワッツ……だったかしら? 私はあなたのことを覚えていないみたいなんだけど?」
「そ、そんなわけないだろう!」
「そう言われてもね~私はガンツしか知らないし……そもそも婚約者って言うけどいつの話なの?」
「アンジー、本当に覚えていないのか!」
「覚えていないってさっきから言っているでしょ!」
「そ、そんな……」
「だから、いつの話なのって聞いているでしょ!」
「……覚えていないのならしょうがない。教えてやるよ。あれはな、俺とアンジーが三つの頃だった……」

 ワッツさんがアンジェさんとの昔話を語り始めたところでアンジェさんが「ああ、そう言えば」と小さく呟くのが聞こえてきた。なんとなく思い出したのだろうか。

「……と、こんなところだ。どうだ、アンジー思い出したか?」
「ああ、そうね。なんとなく思い出したわ。あんた、『泣き虫ワッツ』ね」
「泣き虫ワッツ……あ~そう言えばいたな。そんなヤツ! そうか、お前がそうなのか?」
「む、昔の話だ! それで、俺のことを思い出したのなら婚約の話も思い出したんじゃないのか?」
「ああ、その話ね」
「そうだ。思い出したのか!」
「うん、確かアンタが『婚約してくれないなら死んでやる!』って言って、私が返事をしない内にあんたの親がアンタを連れて帰って、次の日には里を出て行ってたわよね」
「……」

 アンジェさんの記憶が戻ったことでハッキリしたのはワッツさんの思い込みだったということだけだった。なんとなく尻切れとんぼのような感じにはなったがガンツさんはアンジェさんとの絆を再確認出来た様でほくほくとしていた。ワッツさんはしょんぼりしていたけどね。

「もう、こんなことで呼ばれるなんてと思っていたけど楽しかったわ。じゃあ、ケイン君お願いね」
「うん」
「あ、そうだ。ガンツ、あんたはちゃんと直してから帰っておいでね」
「へ?」
「だから、携帯電話とかいろいろ壊したままなんでしょ。それ、全部直してからでいいから」
「へ? アンジェ……淋しくないのか?」
「あ~そうね。久々にガンツがいなかったから焦ったけど、よく考えたらガンツ一人いないくらいどうってことなかったのよね。今までが今までだったし。それに今は私の側には子犬達が一杯いるからね。ごめんね、ケイン君」
「アンジェ……」
「じゃ、ガンツさん。そういうことだから。直ったら教えてね」
「ケ、ケイン?」
「あ、イーガンさんも同じね。じゃ、頑張って!」
「「あ、おい!」」

 俺はアンジェさんを送った後にガンツさんとイーガンさんに『ファイトだよ!』と簡単なエールを送り転移ゲートで帰ってきた。

「イーガン、どうする?」
「どうするって……やるしかないだろ。それにそもそも親父が悪いんだろ。見栄張って『こんなのバラすのも組み立てるのも簡単だ!』とか言うから」
「お、お前も一緒に煽ったじゃないか!」
「さ、さあ……どうだったかな」
「ふん、どっちみちお前も俺も直さないと帰れないぞ」
「そうだよな。で、部品は?」
「そうだな。確かまだ表に置いたままだったような……」

 俺がホーク号の部品をインベントリに収納したままだったとこに気付いたのは翌日になってからだった。
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