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◆断りました

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転移ゲートを潜り校庭へと戻ると、そこにはデューク様と王太子、それにアリー様達が待っていた。

「うん、いいね。私のも用意してくれるんだよね」
「あ~それは……」

王太子が転移ゲートから出て来たデューク様の車を見て羨ましそうに見てから俺に とでも言いたげに確認してくるので王太子直属の運転手の育成次第だと返す。

「あ~そう言えばそうだったね。では、どちらに向かわせればいいかな?」
「どちらにとは?」
「シャルディーア領都かドワーフタウンにしか教習所はないのだろう」
「あっ! そう言うことですか。でしたら「ドワーフタウンでしょう」……セバス様?」
「会話に割り込んですみません」
「いや、いい。そう思う根拠があるのだろ。話してくれ」
「はい。では……」

王太子に俺との会話に割り込んだことに対しお辞儀して謝意を示すと王太子が気にすることなくセバス様に話を促す。そして、セバス様が話すことは……聞かなきゃよかった。

セバス様が言うには、普通に運転技術を学ぶだけなら、領都での教習所でも問題はないが、王太子を乗せるのであれば万が一のことを考え、緊急事態に備えることも必要だと言い出した。そして、その緊急事態になれば高速で少しでも早くその現場から退避することが重要で、その為には高速教習が必要だと話を終える。

「ふむ、言わんとすることは分かるが、その高速で走らせることが出来る場所があるのか?」
「はい、ございます!」
「「「……」」」

王太子がセバス様にそんな場所があるのかと確認するとセバス様は嬉しそうに返事をする。それを見た俺はもちろんだが、デューク様にガンツさんも少しだけ嫌な顔になる。

「なあ、ケインよ」
「なんでしょうか。デューク様」
「なんだか、嫌な予感がするのは俺だけか?」
「いいえ、それに関しては俺もガンツさんも同意見です」
「そうだな。このままじゃセバスの思惑通りになりそうだな」
「だよな~あ~もう、なんでこんな面倒なことになるんだよ!」
「まあ、セバス様のはある種の病気だからね」
「そうだな。アレは無理に抑えつけるより、どこかで適当に息抜きさせてやるのが一番だな」
「「「……」」」

俺達がセバス様のスピード狂について話しているが、そのセバス様は王太子にどれだけ高速教習が必要かを説いていて王太子もその話に興味津々な様子だ。そして、二人が話し終わったところで、俺の方を見る。

「ケイン!」
「ケイン様!」
「行かないから」
「「そんな……」」

二人が言いたいことは分かる。このままレース場へ連れて行けということだろう。だけど、既に三時を回っており、この後王都まで船で帰ることを考えれば時間はない。そう思い二人のお願いを断ると、いい大人が情けない顔で突っ立っている。

「だいたいまだ教習も受けていないのにレース場に行ってどうするんですか。セバス様も単に走りたいだけでしょう」
「そうですが……折角、興味を持って頂いたのに……」
「報告では聞いていたが、実際に走っている所を見たいんだ」
「……」

二人の大人……王太子とセバス様が八歳の俺に対し拝むようにお願いしているのは他の大人に見せていいものではないと思うんだがと、デューク様達の方を見ると苦虫を噛み潰した様な顔でこちらを見ている。どうやら助けは期待出来そうにないので、俺から提案してみる。

「分かりました」
「「じゃ「でも、今ではありませんよ」……」」

俺の返事に二人の顔がパッと明るくなるが続く言葉を聞いた瞬間に落ち込む。

「王太子もセバス様もそんな顔しないで下さいよ。ただ今じゃないってだけでしょ」
「ですが、ケイン様」
「そうだぞ、ケイン。この気持ちはどこに持って行けというのだ」
「そんなこと言っても今、走れるのはセバス様だけですよ。そんなの楽しいのはセバス様だけでしょ?」
「ぐっ……」
「確かにそうだな」

セバス様は俺の言葉に図星を指されたのか言葉に詰まるが王太子は納得してくれたようなので話を続ける。

「セバス様もそうガッカリせずに続きを聞いて下さいよ」
「……分かりました。聞かせて下さい」
「では、いいですか」

セバス様も聞いてくれる体勢になったので俺は話を続ける。俺が提案したのはセバス様とガンツさんが十月に行うレースに高速教習を終えた人達を追加で組み込むことだ。

「ふむ、確かに人が増えるのは嬉しいお話ですが……」
「が?」

セバス様はそこまで言って俺の方を見た後にダンさんの方を一瞥したのを見て「あ~」と納得してしまった。

「ケイン、どうしたのだ? セバスは納得しかねているようだが」
「大丈夫です。納得してもらえました。いいですよねセバス様」
「分かりました……」

セバス様は不承不承ながら納得して貰えたようなので話はこれで終わりと王太子にも公用車に乗ってもらえた。俺もガンツさんの車に乗り込み公用車を先導し港へと向かう。

港ではガンツさんが既にティーダさんにお願いしていた様でフェリーが接岸した状態で待機していた。

既に開かれていたフェリーの進入口に先導していたガンツさんの車が乗り込むと続けて公用車も乗り込んで来た。

ガンツさんは車から降りるとティーダさん達に対し、失礼の無いようにすればいいとだけ言うと出港準備の様子を見ていた。俺も車から降りると公用車の方へと向かう。

「ふむ、車のまま乗れる船というのも素晴らしいな」
「そうですな」
「潮風が気持ちいいですね」
「これが船なのね」
「ケイン、これはどこへ行くのだ?」
「わ~広~い!」

皆がそれぞれの感想を述べているが、頼むから大人しくしてて下さいとセバス様の方を見てみると「お任せを」と言う風に俺に一礼した後に王太子達を上の船室へと案内してくれた。王都に着くまでに何もないといいんだけど。

『なあ、俺はアレしたいんだけど?』
「ダメに決まっているでしょ!」
『えぇ、そんなぁ~』
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