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◆説明し終わりました

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テーブルの上に出された紅白饅頭に気付いた王太子がスッと手を伸ばしうっすら赤い方の饅頭を手に取る。

「殿下……」
「まあ、よいではないか。別に毒になるような物は入っていないのだろう。それにもし何かあったとしてもケインが対処してくれるだろうさ。なあ?」
「ええ、まあ……」
「ふふふ、じゃあ頂いてみるか……」

王太子は新入生に用意された紅白饅頭の赤い方を手に取ると先ずはそれの臭いを確認する。

「ふむ、臭いはそれほど強くはないが……う~ん、嗅いだことがない臭いだな」

そう言うと今度は饅頭を両手で持ち、二つに分ける。

「おや? この黒いのはなんだ?」
「それは餡子です。白い方は白餡ですね」
「ほう、ならば先ずは味見だな」

そう言うなり、二つに分けた方の右手に持っている饅頭を口に含む。

「おお! これは甘いな。今まで食したことがない甘さだ。それに甘いと言ってもしつこさも感じない。新しい甘味だな。そして、白い方はまた違う餡だと言っていたな」

王太子は俺が返事をする前に右手に持っていた食べかけの饅頭と左手に持っていた半分の饅頭を紙箱に戻すと白い饅頭を手に取り、同じ様に半分に割り中身を確認する。

「ふむ、本当に白いんだな。では、味はどう違うのか……」

俺が説明する前に右手に持つ半分をパクッと咥える。

「これは……甘い。甘いが、さっきのとはまた違うな。どれ」

王太子は左手の半分を紙箱に戻すと食べかけの赤い饅頭を左手で持ち、パクッと口の中に放り込む。

「うん。確かに違う甘さだ。だが、好みとしてはこちらの黒い方が私は好きかな」
「ケイン、悪いが説明してもらえるか」
「はい、分かりました」

俺は改めてインベントリから紅白饅頭が入った紙箱を取り出すとデューク様とセバス様に渡す。

「先ずは食べてみて下さい」
「そうだな……」
「では、私も頂きます」

デューク様とセバス様がほぼ同時に赤い方の饅頭を手に取り一口囓る。

「これは……」
「私は好きですね」

デューク様は少し驚いた感じだが、セバス様の好みにはあったようでほくほくとした様子で一つをすぐに食べ終わる。

「セバス様、饅頭には緑茶が合いますよ。はい」
「ほう、そうですか。では、ありがたく」

セバス様には急須で煎れた煎茶を湯呑みに注ぎ渡す。

「ふぅ~確かによく合いますね。というか落ち着く味です。あの餡子の甘みをス~ッと消してくれる渋みですね」
「ケイン、俺にもそれをくれ」
「いいですよ」

王太子とデューク様にも煎茶を用意し前に出す。

「ふむ、確かにセバスの言う通りだな」
「ケインよ。そろそろ種明かしというか、何が元になったのか材料を教えてくれないか」
「分かりました」

デューク様は煎茶について気に入ったようで満足そうだ。そして、王太子は材料が知りたいとのことなので饅頭の材料はパンと対して変わらないこと、餡子に付いてはそれぞれの材料を説明する。

「なるほど、小豆とインゲン豆か」
「ええ。手間は掛かりますが美味しいですよね」
「そうだな。それで頼みがあるのだが……」
「ええ、いいですよ。是非、お土産にお持ち下さい」
「催促したようで悪いな」

インベントリから紅白饅頭が入った箱を十箱ほどテーブルの上に並べる。すると王太子のお付きの人がササッと丁寧な動作で、いつ用意したのか分からないお盆の上に並べると、邪魔にならない位置に置く。

「ケイン、悪いがウチにも頼めるか?」
「分かりました」

デューク様にお願いされ同じ様にインベントリから紅白饅頭が入った紙箱を十箱取り出しテーブルの上に置くと、今度はセバス様が側に仕えるメイドさんに渡す。

「これで説明は全部終わりですよね?」
「あ~まあな。終わりと言えば終わりだが……」

俺の確認に対しデューク様の返事の歯切れが悪い。

「デュークの疑問も解消されたことだし、これで今日の予定は終わりだな。では、ケイン。よろしく頼むぞ」
「分かりました。ガンツさん、いいかな?」
「ああ、ちょっと待ってろ。今、確認するから」

ガンツさんは携帯電話を取り出すと誰かに連絡する。どうやら港で実習中のティーダさんに確認しているようだ。

「ケイン、問題ない。今ならこっちの港に停泊中だ」
「分かった。じゃあ、どうやって……」
「どうやってって、そりゃ……ね?」

ここからどうやって港まで行くのかと王太子に尋ねると王太子はデューク様に目配せすると、デューク様は何を言われているのか理解したようで「分かりました」と短く答えると、今度はセバス様に対し目で合図する。そして、それを理解したセバス様は俺に対し王都の屋敷へと転移ゲートを繋いで欲しいとお願いしてきた。

「では、繋ぎますね。デューク様達は校庭でお待ち下さい」
「ああ、分かった。では、王太子殿下」
「分かった」

転移ゲートを王都のデューク様の屋敷に繋ぐとセバス様と一緒に転移ゲートを潜ると駐車場へと進む。

「ダンはいますか?」
「はい。お呼びですか?」
「今から、公用車を使いますので、運転をお願いします」
「分かりました。おや、ケイン君、久しぶりだね。で、ケイン君が一緒にいると言うことは……」
「余計な詮索はいいですから、早く車を用意して下さい」
「分かりました」

ダンさんが公用車へと乗り込み、俺達の前に現れたので、今度は学校の校庭へと転移ゲートを車が通れるほどの大きさに広げて繋ぐ。
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