上 下
419 / 468
連載

◆暖められました

しおりを挟む
「まずはガンボ校長の挨拶です。お願いします」

カーティスさんの開式の声がスピーカーから流れると、壇上の中央に立つガンボさんがマイクを避けるように軽くお辞儀をするとマイクに向かって話し始める。

「あ~ワシが本校の校長を務めるガンボだ。この街、ドワーフタウンにいるドワーフなら知っている者も多いと思うが、ほとんどが初めて目にすることだろう。これから、よろしくお願いする」

ガンボさんが話は終わったとマイクから離れようとしたところでカーティスさんが「え? それだけ?」と言う呟きをマイクが拾ってしまう。すると、それを聞いたガンボさんは再びマイクの前に立つと話し始める。

「話が短すぎるのではと指摘されたが、ワシの後に控えている方々がいらっしゃるのでこれくらいで勘弁して頂きたい」

それだけ言うとカーティスさんを一瞥してからマイクから離れる。

「ガンボ校長の挨拶でした。続きましてはこの街、ドワーフタウンの町長で本校の技術顧問として就任しましたガンツさんです。では、ガンツさんお願いします」

カーティスさんに案内されたガンツさんがマイクの前に立つと一礼する。

「入学おめでとう。ワシがガンツだ。まあ、ワシのことを知っている者は多いと思うが、ワシがこの街の町長だと知っている者はそう多くはないだろうから、この機会に知っておいて欲しい。以上だ」
「え、それだけ……」

ガンツさんが話し終えマイクから離れると、カーティスさんがまた短いと呟く。
まあ、お偉いさんの話は長いのが定番だとは思うけど、後に控えている人達のことを考えたらダラダラと話す気にはなれないよね。

「では、続きましては……このドワーフタウンが属する領、シャルディーア領の領主であらせられるデュークフリート・シャルディーア様よりお祝いの言葉を頂戴したいと思います。では、シャルディーア様お願いします」

カーティスさんに紹介されたデューク様がマイクの前に立ち、不思議そうにマイクを見る。そして、マイクの表面を軽くトントンと小突きスピーカーから『トントン』と流れる音を聞くと俺の方を見て嘆息する。なんで俺の方を見るんだろうか。俺は何も悪いことをしたつもりはないんだが。

「あ~皆、入学おめでとう。私はシャルディーア領の領主、シャルディーア・デュークフリートだ。見たことがない者が多いと思うが、この機会に覚えて欲しい」
「……」

デューク様も短い挨拶を済ませ、マイクから離れる。そしてそれを見たカーティスさんはもう何も言わずに黙ってそれを見ていた。そして、次に挨拶する人を呼び出す前に用意されたメモを見て「マジで?」と小さく漏らす。そして、それに気付いたデューク様やガンボさん達はこちらを窺うように見ていたカーティスさんに黙って頷いてみせる。

「失礼しました。では、次の方にご挨拶を頂きたいと思います。え~ザナディア王国、第二王子であらせられますオズワルド・ザナディア様です。皆様、拍手でお願いします」
「え?」
「今、王子って言った?」
「まさかね……」

カーティスさんの言葉に集まった皆が王太子がいることが信じられないのか会場が騒つく。

「皆さん、どうかお静かに! オズワルド様がお話になります! どうかお静かに!」
「「「……」」」

カーティスさんの必死なお願いとマイクの前に立つ王太子を見て会場が静まりかえる。

最初は王太子のことなど顔も知らないし、急に王太子の挨拶と言われてもどう対応していればいいのかと会場に集まった人達は戸惑ったが、壇上でマイクの前に立つ均整の取れた体型に白を基調に金糸などの刺繍が施された衣装に身を包む青年を見ると息を呑む。

「初めまして。私はオズワルド・ザナディアです。まずはご入学おめでとうございます。本日、この学校へ来たのは……」

王太子は会場にいる新入生に向かっていきなりの訪問理由を話し始める。そして、これからの生活において文字の読み書き、計算力の重要性を説きはじめ、終いにはこの学校に通える皆は幸福だと締めくくった。

会場の皆は最初は涼しげな見た目と違い熱く語り始めた王太子に少し引き気味だったが王太子が挨拶を終えると同時に盛大な拍手が鳴り響いた。

王太子は壇上から俺の方へと近付いてくると「暖めておいたから」とニヤリとする。

「何を話せと言うんだよ……」
『諦めるんだな』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。

やすぴこ
ファンタジー
「ジョセフィーヌ!! 貴様を断罪する!!」  王立学園で行われたプロムナード開催式の場で、公爵令嬢ジョセフィーヌは婚約者から婚約破棄と共に数々の罪を断罪される。  愛していた者からの慈悲無き宣告、親しかった者からの嫌悪、信じていた者からの侮蔑。  弁解の機会も与えられず、その場で悪名高い国外れの修道院送りが決定した。  このお話はそんな事情で王都を追放された悪役令嬢の素性を知らぬまま、修道院まで護送する下級兵士の恋物語である。 この度なろう、アルファ、カクヨムで同時完結しました。 (なろう版だけ諸事情で18話と19話が一本となっておりますが、内容は同じです) 2/7 最終章 外伝『旅する母のラプソディ』を投稿する為、完結解除しました。 2/9 『旅する母のラプソディ』完結しました。アルファポリスオンリーの外伝を近日中にアップします。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。