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◆一緒に歩きました

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朝食を済ませると、俺はマサオと一緒に工房へと……歩いて行く。

『転移ゲートは使わないのか?』
「うん、最近あまり歩いてないしね。たまには歩かないとと思ってね」
『まあ、そういうことなら俺も付き合うしかないか。っていうか今日は学校に行くんじゃないのか?』
「そうだよ。でも昼からだし……今から行くと色々手伝わされそうだしね。それに工房でガンツさんとの打ち合わせは日課でしょ」
『それもそうだ。じゃあ、俺は「どこへ行くのさ」……え? 俺は何もすることがないだろ。だから、ちょっと』
「ダメだからね」
『なんでだよ!』
「開校式に入学式で人が一杯出歩いているのに犬の放し飼いは世間一般モラルとしてダメでしょ」
『え~今更?』
「そう、今更だけどね。そういうことだから、今日一日は俺と一緒だ」
『ちぇ、分かったよ』

昨日の続きとお決まりの場所へ駆け出そうとするマサオを引き留め、今日一日は俺に付き合ってもらうことをお願いすると不承不承ながら承諾する。

「悪いと思っているから。そう言えば、マサオは昨日いなかったからチョコレート食べ損なっただろ?」
『チョコレート? なんだそれは?』
「ほら、この間ガンツさんと行った島で手に入れた珍しい果実をさ『説明はいい!』……もう、工房に着くまでの間くらい聞いてよ」
『そんなことよりもはないのか? は!』
「え? 食べるの?」
『なんでだ? 食べられないのか?』
「いや、そういうことではないんだけど……確か、犬には毒だったような気が『俺は犬じゃない!』……まあ、確かにタマネギも平気だったような……ま、いいか。最悪なんとかなるだろう。でも、ここじゃダメだよ。溶けちゃうからね」
『分かった。工房に着いたら、忘れずに食べさせてくれよ』
「はいはい」
『忘れるなよ』

「おはよう、ガンツさん。ん?」
「おう、おはようケイン。ん?」
「どうしたの?」
「お前こそ、どうした?」

工房の自室に何故か当たり前の様に座っているガンツさんの服装に俺が訝しんでいるとガンツさんも俺の服装を見て確認してくる。

「どうしたって、至って普通のいつも通りの格好だよ。ガンツさんこそ、どうしたのさ。そんな窮屈そうなかっこうしちゃってさ」
「窮屈か……ま、確かにそうだよな。まあ、ワシも慣れた格好ではないが一応、このドワーフタウンの町長だからな」

ガンツさんは所謂燕尾服と言われるタキシードを用意していたのだ。まあ、町長として格好付ける必要があるのだろうから、しょうがないのだろう。だが、ガンツさんは俺が普段着で来たことを不思議がっていた。

「で、ケインはなんでそんな格好なんだ?」
「なんでっていつも通りの格好じゃない。何か問題でも?」
「あるだろう。お前が作った学校だぞ」
「まあ、文字通り作っただけだし。実際にはガンボさん達でしょ。多少は手伝ったけどさ」
「……お前、ガンボが言ったことを聞いてないのか?」
「え? 何か言ってた?」
「お前が気にしていないのならいい。それより、領主達のお迎えはいいのか?」
「あ~それなら、向こうの式が終わり次第連絡をもらうようになっているから、こちらからどうこうはないよ」
「じゃあ、昼までは何もすることはないのか」
「そうなるね」

開校式、入学式が始まるのは午後からで、それまではガンツさんも俺もすることがなくヒマな状態で、それを嫌ってかガンツさんが何かないのかと俺の顔をジッと見詰めてくる。

確かにヒマだけど昼までそれほど時間がある訳じゃない。ならば、何をガンツさんに提供すればいいのかと考えてみるが、それほど面白い案件がある訳じゃない。なら、話をしてみるかといろいろ確認してみる。

「そう言えば、あの荒くれ者達はどうにかなったの?」
「ん? ああ、アイツらな。なんとか船を走らせるくらいにはなったよ。だがな……」
「何か問題でも?」
「体がベタベタするって……言うんだ。どうにか出来るか?」
「あ~獣人だから体毛が濃いからね~でも、全身を覆うのはまだまだ暑いよね。なら、いっそのこと脱毛とか?」
「それは、ワシも言った。『べたつくのが嫌なら、剃っちまえ!』ってな」
「でも、嫌だと?」
「ああ、泣きそうな顔でそれだけは勘弁してくれって言われたよ」
「じゃあ、他の手を考えないとダメか」
「他の手って言うが何か当てでもあるのか?」
「ないよ。だから、考えるんでしょ。ガンツさんもヒマなら一緒に考えてよ」
「いや、そう言うがな……何をどうすればいいのか皆目見当も付かん」
「え~」
「え~言われてもな~」

暇潰しにとガンツさんに荒くれ獣人達のことを聞いてみれば、何も思い付かないと言われガッカリする。でも、べたつくのをどうにかしてくれと言われてもどうすりゃいいんだ。いっそのことフェリーにシャワールームでも用意した方がいいのかな。

「要は体毛に塩が付くからべたつくんだよね。なら、体毛に不純物が付きにくくすればいいのか? でも、それってどうすればいいの?」
「どうするんだ?」

体毛に不純物が付きにくくするとなれば、思い付くのはコーティングだ。前世の記憶から、コンディショナーって何って思いながらも使っていたのを思い出し、思わずニヤッとなりそんな俺に気付いたガンツさん。

「ケイン、その顔は何か思い付いたようだな」
「まあね。でも、それを使うと副作用と言うか……」
「なんだ? 何か言いづらいことなのか?」
「ん~まあいいか。あのね、サラサラになるんだよ」
「さらさら?」
「そう、サラサラ」
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