上 下
400 / 468
連載

◆悟りました

しおりを挟む
アーロンさんにパティさん達のお世話をお願いして転移ゲートを閉じると、俺達を睨むヒトクセありそうな面々がそこにいた。

「はぁ~もう、面倒だなぁ~」
「ケイン、面倒なのは分かるがあいつらにちゃんと説明しないと後始末がもっと面倒なことになるぞ」
「だよね~はぁ~」
「溜め息ばかりだな。だが、自分で仕込んだことだ。もし、アイツらが粗相をしてもワシは知らんぞ。自分でなんとかするんだな」
「え~あんなに乗り気だったのに……それはないんじゃない?」
「知らん! とにかく早く説明しないと阿鼻叫喚になるぞ」
「もう、分かったよ。ったく……ハァ~」

足取りも重く不穏な連中に近付くと、何人かすでにお腹を抑えているのが分かる。ちゃんと効果はあるようなので、思わずニヤリとしてしまう。

「小僧、何が可笑しい? あぁん? うっ……」
「どうしました?」
「ちょっと待て……」

リーダー格の男に近付くと俺がニヤついているのが気に入らないのか、すぐに突っかかってくる。……が、どこか様子がおかしい。俺に絡んできたと思ったら、急にお腹を抑え顔には脂汗が浮かんでいる。

「まあ、いいですけど。そのままでいいので聞いて下さいね」
「な、なんだ……これは……お前の仕業なのか?」
「う~ん、俺のせいと言えなくもないけど、大半はおじさん達のせいでもあるかな」
「ど、どういうことだ……」
「だから、それをいまから説明するから、ちゃんと聞いてね」
「分かったから、早く言え!」
「え~どうしようかな~」
「この……あっ……」
『『『ギュルルル……グルル……』』』

俺が話をなかなかしないのに苛立ったおじさん達が俺に掴みかかろうとした瞬間におじさん達のお腹の辺りから、不穏な音が聞こえてきた。

「あ~あんまり力まない方がいいよ。人としていたければね」
「くっ……いいから、何をしたかとっとと話せよ!」
「じゃあ、話すからちゃんと聞いてね」
「分かったよ……くっ……」

両手でお腹を抑え、足を極端に内股にした状態で顔に脂汗を浮かばせた状態で俺が話すのをジッと待っているおじさん達が俺の目の前にいる。

「じゃあ、話すからちゃんと聞いてね」
「分かったから、早く言え! あっ……」

ちょっとおじさん達が可哀想に思えて来たので、要約して話すと「ふざけるな!」と激昂するが「あっ」とすぐにお腹を抑える。だから、あまり怒らないようにって話したのにちゃんと理解していないのかな。

「ケイン、お前ちゃんと分かる様に話したのか?」
「ガンツさん、俺はちゃんと話したけど?」
「だが、こいつらは理解していないみたいだぞ。ほれ」

ガンツさんが言うようにおじさん達は俺に対し、片手でお腹を抑えながら、足は最後の結界を守るように極端な内股にした状態で片手を振りかぶって向かってこようとしている。だが、そんな状態で俺に向かって来られても避けるに決まっているというのに、なかなか諦めきれないようだ。

「あ~もう、だから、他人に対して危害を加えようと考えたり行動すると、お腹が大変なことになるって話したでしょ! まずは落ち着こうよ! ね!」
「「「落ち着いていられるか! あ……」」」

俺の説得も効果はなく、その内に何人かが何か悟りの境地でも開いたかのように全てを諦めた顔になる。と、同時にあまりよろしくない臭いが周囲に立ち込める。

「あ~あ、やっちまったな。ワシは知らんぞ」
「そんな、ガンツさん……」
「それより、お前らもいい加減分かるだろ。お前達が不穏な考えを捨てない限り、それは外れないぞ」
「そりゃ、どういうことだよ!」
「どういうって、ケイン。どれくらいなんだ?」
「え~とね、他人に対して害意がなくなれば外れるよ」
「本当だな!」
「うん。でも『害意がない』ってのを五年は持続しないと外れないからね」
「「「へ?」」」

俺が言った期間に対しおじさん達の目が点になる。

「お前、相変わらずえげつないな」
「え、そうかな」
「いや、褒めてないからな」

ガンツさんに言われ、後頭部を掻いているとすぐに否定された。五年じゃ短かったかな。

「五年もこんな風に腹を抑えて生活するのかよ」
「え? 何がそんなに難しいの?」

おじさんが零した言葉に反応し話しかけるが、当のおじさんはハァ~と短く嘆息し俺を見る。するとお腹を抑えていた手を離し、内股になっていたのも元に戻す。

「ふぅ~確かに害意さえ思わなければ腹はなんともないな」
「でしょ?」

おじさんは俺達に対する警戒を解き、ついでに俺をどうにかしようとする気持ちも萎えたようで、静かに俺の方を見ている。

「小僧、一つ聞かせてくれ」
「何?」
「俺達はこれからどうなる?」
「どうなるって?」
「他の連中は他の街に連れられて行ったんだろ?」
「うん、そうだね」
「じゃあ、俺達はどうなるんだ? もうアイツらには会えないのか?」
「そのブレスレットを着けたままでいいなら、俺が案内するけど?」
「ケイン、いいのか?」
「多分、大丈夫だと思うよ。それに悪さしようなんて思っても多分無理じゃないかな」
「まあな。あのブレスレットだけでもタチが悪いが、ドワーフタウンに行けばそんなことを考える余裕もなくなるだろうな」
「でしょ。街に戻ればしなきゃいけないこともいっぱいあるけど、楽しく過ごす為には覚えなきゃいけないことも多いしね。いろんなライセンスの取得とかさ」
「まあな……そうだな、そんなに力が余っているなら、まずは車のライセンスを取得させてから、船の方に回ってもらうか。海の上なら変なことも出来ないだろうからな」
「じゃあ、そっちはガンツさんに任せるよ」
「あいよ。じゃあ、ついでに悟りを開いた連中の始末もお願いしていいか?」
「あ~分かったよ」

ガンツさんにリーダー格のおじさんと話してもらっている間に人としての何かを失ってしまった人達に近付くと、『クリーン』を掛けてこちらへ戻って来てもらう。

「じゃあ、後はあのおじさんのところに行ってね」
「「「ありがとうございます!」」」

悟りを開いた人達から手を握られ感謝されるが、無言で『クリーン』を掛けたのは内緒だ。
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし
ファンタジー
主人公、柏木 和(かしわぎ かず)は「武人」と呼ばれる武術を極めんとする者であり、ある日祖父から自分が世界で最強であることを知らされたのだった。 そして次の瞬間、自宅のコタツにいたはずの和は見知らぬ土地で寝転がっていた―― 「……いや草」

神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。

黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。