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◆用心されました
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俺からの提案を腕を組んだままジッと考えている様子のアーロンさんの横では、熊獣人のパティさんがアーロンさんが答えを出すのをジッと待っている。俺もただ待っているだけではアレなので、パティさんに色々と聞いてみることにする。
「ねえ、パティさん?」
「ん? なんだ?」
「パティさんはアーロンさんとは長い付き合いなの?」
「ああ、そうだぞ。子供の頃からずっと一緒だったんだ。そう、あの時まではな……」
「あの時?」
「……アーロンが俺達の集団から離れる時までの話だ」
「……」
これはちょっと軽くは聞いちゃいけない話だったのかなと俺が少し言い淀んでいるとパティさんが俺の頭にその大きな右手を置くとくしゃくしゃとしながら笑いかけてくる。
「俺もあの時は止めることも出来なかった。それに俺達と一緒にいてもどうなるのかなんて誰も分からず不安だったからな。なら、少しでも家族の為にと思ってアーロンは俺達と別れたんだ。まあ、結果的にはそれがよかったんだろうな。な? そうだろう?」
「うん! そうだね」
「そうか。じゃあ、お前……いや、これから雇い主になるかもしれない人にお前はマズいな。ケイン様……」
「もう、ケインでいいよ。アーロンさんもそう呼んでいるし」
「そうか、じゃあ俺もケイン君と喚ばせてもらおう」
「うん、いいよ。それで何?」
「俺達はこれからどうなるんだ?」
「それは……」
俺はパティさんだけでなく、その後ろで興味深くこちらの様子を窺っている人達にも聞こえるようにある程度、大きな声で話す。その内容は、働く場所はドワーフタウンと王都の港湾施設になること。そして、どちらで働くにしても住居は保証することを話す。
「そうか。住むところを提供してもらえるのは有り難いが、俺達には払う対価がないぞ。働く場所も提供してくれるというが、その報酬から払うにしても先送りになってしまうがいいのか?」
「まあ、心配にはなるよね。でもね、俺の仕事を手伝ってもらえるのなら、寝食は任せてもらっていいよ。ただ、それ以上のことを望なら、そこは個人で好きにしてもらえばいいだけだし」
「……」
俺がそこまで話すと今度はパティさんが腕組みをして思案顔になる。よく見るとパティさんの後ろにいる人達も同じ様に腕組みをして何やら考えている。
「え? 何? どうしたの? 俺、何か変なこと言ったかな?」
「プハハ……ケイン、この人達はお前の話が上手すぎて騙されているんじゃないかと思っているんだよ」
「え? ガンツさん、どういうこと?」
「まあ、お前にとってはいつものことだから、特に気にしていないんだろうがな。よ~く思い出すんだ」
「え? 何を?」
「いいか。まず、第一にこの人達は獣人だ」
「うん、そうだよ。それが?」
「ハァ~お前、忘れたのか? アーロンがお前に会うまでにどういう風に過ごしていたのかを」
「どういう風にって……あっ!」
「思い出したようだな」
ガンツさんに言われ思い出す。この国……ザナディアでは獣人に対する表だった差別はないが、それでもヒトに比べたらどうしても足下を見られがちであることと、頼れる人もいなかったため、アーロンさんはいいように搾取されていたことを。
「あ~そりゃ疑心暗鬼にもなるよね」
「そうだな。それにこの人達は難民だろ。人一倍に上手い話には用心深くもなるさ。それと話し相手がお前みたいな子供だってことも合わせてな」
「子供なのはしょうがないでしょ! そんなに言うんなら、ガンツさんが纏めてよ!」
「ワシには無理だ。まあ、多少のフォローはしてやるから、ちゃんと説明して誤解を解くんだな」
「もう……でも、それしかないよね。ん?」
ガンツさんと話している時にふと、不穏な会話が聞こえてきたので注意して聞いてみる。
『聞いたか? ドワーフタウンに王都だとよ』
『ああ、しかも寝食は心配無用と来た』
『後は小遣いでもあればな~』
『ハハハ。それは無理だろうよ。でも、街に行けばなんとかなるだろうさ』
『なんとかって……アレか』
『そうさ。今は仕方なくコイツらと一緒だが、街に行けさえすれば……な?』
『お前、足洗うんじゃなかったのかよ?』
『そんなのコイツらに着いて行くための方便ってヤツだろ。それはお前だって同じじゃないか』
『そりゃそうだ。ギャハハハ……』
俺が聞いているとも知らずにパティさんの後ろの方で固まっている少しばかり素行が悪そうな獣人達に視線を向けると、それに気付いたガンツさんが俺に話しかける。
「ケイン、眉間に皺が寄っているぞ。何かあったのか?」
「ガンツさん、どうしよう……」
「ん?」
「あのね……」
ガンツさんにさっき聞いた内容を聞いただけで証拠がない話だけどと断り、掻い摘まんで話す。
「ほう、面白い!」
「面白くないよ。どうすんのさ。あんなの街に入れたくないんだけど」
「何を悩む必要があるんだ。お前になら、なんの問題もないだろうよ」
「へ?」
「だから、要は選別すればいいんだろ?」
「あ! そうか。その手があったね」
「そういうことだ。まあ、選別した連中をどうするかって問題は残るがな」
「それは問題ないよ。大丈夫、任せて!」
俺がそう言って、ガンツさんにニヤリと笑って見せる。
「なんかいい方法を思い付いたようだな」
「うん、へへへ」
俺が今、考えている方法なら悪さすることは出来なくなるだろう。
「ねえ、パティさん?」
「ん? なんだ?」
「パティさんはアーロンさんとは長い付き合いなの?」
「ああ、そうだぞ。子供の頃からずっと一緒だったんだ。そう、あの時まではな……」
「あの時?」
「……アーロンが俺達の集団から離れる時までの話だ」
「……」
これはちょっと軽くは聞いちゃいけない話だったのかなと俺が少し言い淀んでいるとパティさんが俺の頭にその大きな右手を置くとくしゃくしゃとしながら笑いかけてくる。
「俺もあの時は止めることも出来なかった。それに俺達と一緒にいてもどうなるのかなんて誰も分からず不安だったからな。なら、少しでも家族の為にと思ってアーロンは俺達と別れたんだ。まあ、結果的にはそれがよかったんだろうな。な? そうだろう?」
「うん! そうだね」
「そうか。じゃあ、お前……いや、これから雇い主になるかもしれない人にお前はマズいな。ケイン様……」
「もう、ケインでいいよ。アーロンさんもそう呼んでいるし」
「そうか、じゃあ俺もケイン君と喚ばせてもらおう」
「うん、いいよ。それで何?」
「俺達はこれからどうなるんだ?」
「それは……」
俺はパティさんだけでなく、その後ろで興味深くこちらの様子を窺っている人達にも聞こえるようにある程度、大きな声で話す。その内容は、働く場所はドワーフタウンと王都の港湾施設になること。そして、どちらで働くにしても住居は保証することを話す。
「そうか。住むところを提供してもらえるのは有り難いが、俺達には払う対価がないぞ。働く場所も提供してくれるというが、その報酬から払うにしても先送りになってしまうがいいのか?」
「まあ、心配にはなるよね。でもね、俺の仕事を手伝ってもらえるのなら、寝食は任せてもらっていいよ。ただ、それ以上のことを望なら、そこは個人で好きにしてもらえばいいだけだし」
「……」
俺がそこまで話すと今度はパティさんが腕組みをして思案顔になる。よく見るとパティさんの後ろにいる人達も同じ様に腕組みをして何やら考えている。
「え? 何? どうしたの? 俺、何か変なこと言ったかな?」
「プハハ……ケイン、この人達はお前の話が上手すぎて騙されているんじゃないかと思っているんだよ」
「え? ガンツさん、どういうこと?」
「まあ、お前にとってはいつものことだから、特に気にしていないんだろうがな。よ~く思い出すんだ」
「え? 何を?」
「いいか。まず、第一にこの人達は獣人だ」
「うん、そうだよ。それが?」
「ハァ~お前、忘れたのか? アーロンがお前に会うまでにどういう風に過ごしていたのかを」
「どういう風にって……あっ!」
「思い出したようだな」
ガンツさんに言われ思い出す。この国……ザナディアでは獣人に対する表だった差別はないが、それでもヒトに比べたらどうしても足下を見られがちであることと、頼れる人もいなかったため、アーロンさんはいいように搾取されていたことを。
「あ~そりゃ疑心暗鬼にもなるよね」
「そうだな。それにこの人達は難民だろ。人一倍に上手い話には用心深くもなるさ。それと話し相手がお前みたいな子供だってことも合わせてな」
「子供なのはしょうがないでしょ! そんなに言うんなら、ガンツさんが纏めてよ!」
「ワシには無理だ。まあ、多少のフォローはしてやるから、ちゃんと説明して誤解を解くんだな」
「もう……でも、それしかないよね。ん?」
ガンツさんと話している時にふと、不穏な会話が聞こえてきたので注意して聞いてみる。
『聞いたか? ドワーフタウンに王都だとよ』
『ああ、しかも寝食は心配無用と来た』
『後は小遣いでもあればな~』
『ハハハ。それは無理だろうよ。でも、街に行けばなんとかなるだろうさ』
『なんとかって……アレか』
『そうさ。今は仕方なくコイツらと一緒だが、街に行けさえすれば……な?』
『お前、足洗うんじゃなかったのかよ?』
『そんなのコイツらに着いて行くための方便ってヤツだろ。それはお前だって同じじゃないか』
『そりゃそうだ。ギャハハハ……』
俺が聞いているとも知らずにパティさんの後ろの方で固まっている少しばかり素行が悪そうな獣人達に視線を向けると、それに気付いたガンツさんが俺に話しかける。
「ケイン、眉間に皺が寄っているぞ。何かあったのか?」
「ガンツさん、どうしよう……」
「ん?」
「あのね……」
ガンツさんにさっき聞いた内容を聞いただけで証拠がない話だけどと断り、掻い摘まんで話す。
「ほう、面白い!」
「面白くないよ。どうすんのさ。あんなの街に入れたくないんだけど」
「何を悩む必要があるんだ。お前になら、なんの問題もないだろうよ」
「へ?」
「だから、要は選別すればいいんだろ?」
「あ! そうか。その手があったね」
「そういうことだ。まあ、選別した連中をどうするかって問題は残るがな」
「それは問題ないよ。大丈夫、任せて!」
俺がそう言って、ガンツさんにニヤリと笑って見せる。
「なんかいい方法を思い付いたようだな」
「うん、へへへ」
俺が今、考えている方法なら悪さすることは出来なくなるだろう。
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