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◆もう少しで渡りそうでした

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「なるほど、そういうこと」
「それで、アーロンはどうしているんだ!」
「どうどう、分かったから少し落ち着いて」
「落ち着いていられるか!」
「もう、『拘束バインド』、ガンツさんちょっと様子を見ててね。あ、そうだ。その前にあの人達を連れて来ないと」

騒いで落ち着かない熊の獣人を拘束してから転移ゲートを工房の自室に繋いでギーツさん達をこっちに呼び寄せようと転移ゲートの向こうを覗くと、工房の自室ではマサオの前で正座しているギーツさんとウーガンさんがいた。

「マサオ、二人をこっちに……って、どうしたの?」
『ケイン、こいつら一体なんなんだよ!』
「え? 何があったの?」
『こいつら、お前がいなくなった瞬間にあちこちの魔道具を触ろうとしたり、どこかに行こうとしたりちっとも落ち着きがないんだぞ』
「あ~やっぱり。まあ、説教は後にしてその二人もこっちに来させて」
『ああ、分かった。ほれ、立って向こうに行くんだ』
「「……」」

マサオに促され無言で転移ゲートを潜りこちらへとやってくるギーツさんとウーガンさんに声を掛ける。

「待てなかったんですか?」
「「申し訳ない」」

二人が俺に頭を下げると、そこには拘束された状態の熊の獣人が目に入る。

「「え?」」
「ああ、気にしないで。でも、ギーツさん達もあまり自由勝手に動くのなら、こうなるから。ね?」
「「ハイッ!」」

マサオがこっちに来たのを確認してから、転移ゲートを閉じると寝転がっている熊の獣人だけでなく他の獣人やこの里のドワーフの人達も口が開きっ放しになっている。まあ、いつものことと気にすること無く携帯電話でアーロンさんに掛ける。

『はい。アーロンです』
「あ、アーロンさん。ケインです。今、大丈夫ですか?」
『ケイン君か。そうだな。少しなら大丈夫だけど、何かあったか?』
「え~と、アーロンさんは今は厨房ですか?」
『ああ、そうだ。それが?』
「じゃあ、今から繋ぎますね」
『繋ぐ?』

携帯電話を切ってインベントリに収納すると、転移ゲートを独身寮の厨房へと繋ぐとアーロンさんがこっちを見ているのに気付く。

「あ、いた。アーロンさん。ちょっとだけ付き合ってもらえますか?」
「それほど時間は取れないが……え?」

アーロンさんが俺の呼び掛けに答え転移ゲートを潜って来たところで寝転がっている熊の獣人に気が付いた様で、『ギギギ』と音がしそうなくらいゆっくりとぎこちなく俺の方を振り返る。

「えっと、アーロンさんの知っている人ってことでいいのかな?」
「……」

アーロンさんは無言で頷くと熊の獣人の方に向き直る。俺が熊の獣人の拘束を解いてやると熊の獣人は勢いよく飛び上がりアーロンさんを思いっ切り抱きしめる。

「生きてた! 生きてた! アーロン……」
「あ~パティ……ぐっ……くっ……」
「アーロン!」
「ぐふっ……」
「はい、ストップ! これ以上はアーロンさんが大変なことになるから。はい、離れて!」
「え? あ! アーロン! どうした? 誰にやられた! まさか、お前が……グフッ」

アーロンさんがぐったりするほど抱きしめる熊の獣人をなんとかアーロンさんから離すがアーロンさんは意識を手放す寸前といった状態で、それを見た熊の獣人が血相を変えてアーロンさんをこんな目に合わせた犯人捜しを始めそうになったところで、アーロンさんが熊の獣人に肝臓打ちレバーブローを決めると、熊の獣人がその場で跪く。

「ったく。もう少しで川の向こうで手を振っている爺さんのところに行くところだったぞ。この馬鹿力が!」
「あいたっ……」

トドメとばかりに蹲る熊の獣人の頭を軽く小突く。

「まあ、俺の無事を喜んでくれるのはいいが、俺を圧迫死させようとするのはどうかと思うぞ」
「すまない……」
「で、ここはどこなんだ?」
「そういや聞いてなかった。ガンツさん、ここは?」
「ワシに聞くな。ワシもバーツ兄さんの指示で飛んだだけだからな。バーツ兄さん、ここはどこなんだ?」
「ここはな……」

バーツさんが言うにはここはドワーフの人達が多く集まっていて里というよりは小国くらいの規模になるという。地域の名称としては『ドルジア』と呼ばれているらしい。更に言えば、ザナディアには属していない場所らしい。タブレットで現在地を確認すると、ザナディア王国が存在する大陸の北側に位置していた。

「それでケイン君。場所は分かったが、俺がここに呼ばれた理由はコレでいいのかな?」
「うん、そう」

アーロンさんはまだ跪いている状態の熊の獣人『パティ』さんの頭をポンポンと叩き俺に確認する。

「じゃあ、俺はもう帰ってもいいのかな?」
「アーロン……」

アーロンさんがもう自分は用済みだろうから帰ると言えば、パティさんがアーロンさんを縋るように見てから、俺を見る。

「はぁ、しょうがないな。アーロンさん、何人か雇う気はない?」
「雇う? 俺がか?」
「うん、そう。もう、独身寮の管理も大体慣れたでしょ? 今度、独身寮に入りたいって人も増えそうだし、もう二,三棟増やした方がいいかなとか思うし。どう?」

そう俺がアーロンさんに言うと、パティさんがそうだそうだと言わんばかりに首をガクンガクンと大きく縦に振っている。それはいいけど肝心の料理はどうなんだろうか。
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