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◆作ってみた

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父さんにいろいろ約束をしてもらった翌日、工房に行くとガンツさんのメモらしき物がテーブルの上に置かれていた。
「へ~ガンツさんの書き置きなんて珍しい。何かあったかな?」
『それで、ケイン。ガンツはなんだって?』
「ん~相変わらず字が下手でよく読めないけど……あ~そういうことか。まあ、そうだろうね」
『で、なんて言ってるんだ?』
「ああ。要はね。ティーダさん達に操船を叩き込むから二、三日は別行動させてくれって」
『ほう、ガンツにしては張り切っているな』
「ねえ、ガンツさんに頼みたいこともあったけど、まあボビーさんに頼めばいいか」
ガンツさんの書き置きをマサオにも説明し、マサオはガンツさんに感心するが、俺は俺でガンツさんに思い付いた物を作って欲しいと思っていたから、初っぱなから出鼻を挫かれた感じだ。でも、別にガンツさんじゃなくてもいいかと納得し頭を切り替える。
『それで、今日はどうするんだ?』
「ちょっと、ゴーシュさんに頼みたいことがあってね」
『ん? ゴーシュの店に行くんだな? そろそろシュークリームもなくなる頃だしいいんじゃないか』
「ふふふ、マサオ。今回は違うよ。まあ、シュークリームは忘れずに補充するけどね」
『随分、もったいつけるな』
「いいから、まあ楽しみにしといてよ。でも、その前にいくつかは材料が足りないから、ちょっと買い物してから行こうか」
『分かった』

ゴーシュさんの店に行く前に一度、ドワーフタウンで買い物を済ませてからゴーシュさんの店に向かう。

「こんにちは~ゴーシュさんいますかぁ?」
「あら、ケイン君。久しぶりね。今日はシュークリームの補充?」
「うん。それもだけど、ゴーシュさんに頼みたいことがあって」
「あら、そう。ゴーシュなら上にいるわよ。上がって」
「うん。分かった。あ、マサオはここまでね。毛が入るとダメだから」
『え~そりゃないぜ……』
「ふふふ、私とお留守番ね。よろしく」
『まあ、よろしくな』

二階のゴーシュさんの元に向かうとゴーシュさんはシュークリームを無心で作っているようで、俺に気付きもせずに一心不乱という風だ。
「少し落ち着いてから話すかな」

やがて、一息ついたのかゴーシュさんが額の汗を拭い、作業を中断したので話しかける。
「ゴーシュさん。今、いいかな?」
「お、ケインか。いいぞ。シュークリームなら今、追加分を作っているから、いるだけ持って行け」
「うん、ありがとう。でも、今日はそれだけじゃなくてね。ちょっとこれを見て」
「ん? 何かな」
ゴーシュさんに俺が考えたデコレーションケーキの絵を見てもらう。
「これは?」
「これをゴーシュさんに作って欲しくてきたんだけど、ダメ?」
「いや、ダメじゃないが……これは?」
「じゃあ、説明するね。これはデコレーションケーキでスポンジケーキにホイップクリームを塗って上にフルーツを切ったのを飾り付けた物なんだけど」
俺の簡単な説明の後に少し考えたゴーシュさんが、凄い勢いで食いつく。
「面白い! 是非、作らせてもらうよ」
「よかった~じゃ「待って!」……え?」
「すまないが、この土台となるスポンジケーキなんだが……」
「あ~そうか。パイ生地とか焼き菓子とはまた、違うからね。じゃあ、一緒に作ろうか」
「ありがとう。助かるよ」
「こっちこそ。でも、これも売れると思うからまた、忙しくなっちゃうね」
「それな~それもどうにかしないとな。でも、今はこっちに集中しよう。よろしく頼むよ」
「はい。じゃあ、先ずは卵をミキサーで攪拌してツノが立ったら……」

ゴーシュさんに俺が言うとおりに作業してもらいながら、生地を作り型に流し込んだ所で次の作業へと移る。
「じゃあ、後はこれをオーブンに入れて焼いている間に飾り付けの為の準備をお願い」
「分かった。でも、準備って?」
「今日は俺が用意したこれを使って」
作業台の上にグレープフルーツに梨にブルーベリーと買ってきた果物を並べる。
「本当はもう少し甘みのある果物が欲しかったんだけど、これはこれでいいかな。でも、こういう酸っぱいのも砂糖漬けにすれば使えると思うんだけどな」
「ああ、そういうのならあるぞ。ドライフルーツだけどな。ただ砂糖はつかっていない」
「じゃあ、それで」
「ああ、分かった。準備しよう」
ゴーシュさんが色んなドライフルーツが入った瓶を持ってきてくれたけど、よく分からないので、ゴーシュさん任せで色を重視で少し派手に見えるように選んでもらう。

やがて、スポンジケーキが焼き上がり、具合を確かめるとちょうどいい感じに焼き上がっていたので、型から外し粗熱を取る。
そして、スポンジケーキをゴーシュさんに水平に三つに切り分けてもらう。

ある程度の粗熱が取れたところで、土台となるスポンジケーキの上面にホイップクリームを塗り、ドライフルーツを満遍なく散らす。そして、その上に水平に切り分けたスポンジケーキを載せ、さっきと同じ様に上面にホイップクリームを塗りドライフルーツを載せ、最後に三つ目のスポンジケーキを載せるとホイップクリームを全体に塗ってもらう。

「これで大まかには完成! あとはこれにホイップクリームで飾り付けてフルーツを盛れば完成だよ」
「おお! これは凄い! なあ、ケイン君……その……」
「いいよ。気にしないでバンバン作って。あ、でも売るときはね……」
ゴーシュさんにお願いして出来たばかりのデコレーションケーキを八等分してもらう。
「ホール単位で売ってもいいけど、そんなには食べられないでしょ。だから、こうやって八等分したのをショートケーキとして売ればいいと思うよ」
「分かった。ありがとう! それで、これは食べていいのかい?」
「うん。いいけど、俺の分はあと二つ作って欲しいかな。夕方に取りに来るからさ」
「それはいいが。何かあるのか?」
「それがね、やっと双子の妹の名前が昨日決まったんだよ。父さんがなかなか決めてくれなくてさ。で、このケーキはそのお祝いにと思ってね」
「そうか。お祝い事に丸ごと一つのケーキか。で、それを家族で分け合う……か。いいな、それ」
「何が?」
『ケイン、ずるいぞ!』
「わっ! ユラ。それにマサオまで」
「ふふふ、ごめんなさいね。でも、ここまでで中には入らないから許してよ。だって、マサオ君がいい匂いがするって落ち着かなくて」
「マサオ……」
『わふぅ……でも、こんないい匂いをさせるのが悪い! 俺にも食わせろ!』
「そうだな、一緒に食べよう」

マサオもいるからと工房ではなくゴーシュさん達の自室へと招かれ、そこで試食をすることになった。
俺も試食用に切り分けられたショートケーキを口にして、意外と美味しかった。
「ゴーシュさん、いいよ。これも目玉になるね」
「……」
「どうしたの?」
「あなた、ハッキリ言った方がいいわよ。ケイン君ならきっと力になってくれるわよ」
「ユラ、そうは言うがケイン君はまだ子供だぞ」
「でも……」
「ユラ?」
俺はゴーシュさんが奥さんを『ユラ』と呼ぶのに反応してしまう。
「ああ、そうだ。そう言えば、まだちゃんと紹介してなかったな。改めて紹介しよう。妻のユラだ」
「ユラです。ふふふ、今更だけどよろしくね」
「はい。よろしく。それでユラさん」
「はい? 何かしら」
「もしかして、ミラって姉妹がいたりします?」
『おいおい、ケイン。いくらなんでもそこまでは「いるわよ」……え?』
マサオがそんなそこまで出来た話はないだろうと言いかけたところでユラさんがいると答える。
「なら、トミーとマギーという名前に聞き覚えは?」
「あら、懐かしいわね。確かにそういう二人がよく実家の食堂に来てたわね。懐かしいわ。でも、どうしてそれをケイン君が……まさか!」
ユラさんは急に立ち上がると俺の顔をジッと覗き込み確信したように頷く。
「やっぱり、どこかで見覚えがあると思ったら、そうなのね。あなた、トミーさんとマギーーさんの息子さんなのね?」
「うん。今は領都で二人で店を構えていて、今度はここに引っ越してくる予定なんだ」
「驚いた。でも、なんで私達の名前を?」
「実はね……」
ユラさんに双子の名前に『ユラ』『ミラ』を使わせてもらったことを話し、ユラさんの顔を見ると黙り込んでいる。
「ユラさん。もし、勝手に名前を使って怒っているのなら、父さんに言って「嬉しい!」……え?」
「ねえ、ケイン君。それってあの二人が私達を覚えていてくれたってことでしょ?」
「うん、そうなるのかな」
「そうなるのよ。ねえ、お二人に是非、会いたいって伝えといて」
「うん、分かった」
「俺の話は?」
「「あ!」」
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