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◆視察団が出発しました

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やっと視察団を送り出すことが出来たので、転移ゲートを開きドワーフタウンの転移ゲートタワーの側に出る。
「アイツらはまだなのか?」
「そんなことはないと思うんだけど……あ、出て来たみたいよ。お~い、こっち、こっち!」
リーサさんを先頭にリディアさん、里長、使節団がぞろぞろと転移ゲートタワーから出てくるところだったので、リーサさんを呼び止める。
「ケイン、やはりケインの方が早かったか……」
「視察団の人達が結構グズってたから、リーサさん達はもう外に出てると思ったんだけど、どうしたの?」
「ああ、それがな……」
リーサさんが言うには勢いよく転移ゲートの扉の中に飛び込んだのはいいが、転移ゲートの扉の先は単なる空間というか、広いだけの部屋なので、リディアさんもどうしていいか分からずジッとしていたという。そして、そこへ視察団の人達も加わり、軽くパニックになってしまったらしい。
「そうだったんだね。あの部屋は転移ゲートの扉とエレベーターの扉しかないからね。階段も付けてはあるけど、分かりにくいかもね」
「意外と大変だったぞ。だがな、マサオが『わん!』と大きめに吠えてくれたお陰で皆がビックリしたのを切っ掛けにパニックが収まったんだ。ありがとな、マサオ」
『な~に、これくらい!』
マサオが俺をチラリと一瞥する。分かったから、そのドヤ顔はやめてくれ。

「ねえ、今その犬がしゃべったの?」
「確かに」
「喋っていたな」
「ああ……」
「え、今更なの?」
『しょうがねえな。改めて挨拶してやるから。俺の名前はマサオ。訳あってケインの所で暮らしている。よろしくな』
「「「リーサ(さん)!」」」
「な、なんだ?」
「ここでは、これが普通なの?」
「違うから。ケインの回りだけだから。な、ケイン」
「え~そこで俺に振る? ん~確かにリーサさんの言うとおりかもしれないけど、リーサさんもその中に入っている自覚はあるのかな?」
「確かにそうだな。いつの間にか私もケイン一味か」
「いや、言い方……一味はないでしょ」
俺の指摘にリーサさんが喜んでいいのかどうなのか、神妙な顔付きでそんなことを言う。

「そうよ、リーサ。ケイン君は家族なんでしょ。もちろん、私もね」
「母……それはまだちょっと」
「まあ、形だけとはいえ、婚約者なんだしいいじゃないの。ねえ、ケイン君」
「はい。母はもう娘として扱っていますしね」
「そうなんだね。じゃあ、私も母として挨拶しとかないと」
「母、それはまた別の機会にちゃんとするから」
「そうなの? じゃあ、今日は視察だけなのね」
放っておくと暴走しそうなリディアさんをリーサさんが宥めてくれる。
「リーサさん、これ魔導列車のパスだから。色々見て回るのは別の機会にして、今日は列車でぐるっと回って、ドワーフタウンの様子を見て貰って」
「そうだな。分かった」
リーサさんに魔導列車のパスを渡してから、直径三センチ、長さ五十センチくらいの細いスライム樹脂のパイプに『エルフの里 視察団ご一行様』と書かれた布を取り付けると、それもリーサさんに渡す。
「ケイン……これも持たないとダメか?」
「うん、持ってて。それで街の皆もリーサさんが何をしているのか分かるから」
「そうか……分かった」
リーサさん達を送り出したが心なしリーサさんの表情が暗い。
「あれ? 頑張って作ったけど、あまり喜んでくれてないみたい」
「ケイン、あれはないぞ」
「だって、皆が迷わないようにと思って作ったんだよ」
「気持ちは分からんでもないがな。リーサのことを誰も知らない街ならともかく、この街では『またケインが何かやってる』と思われるだろうな。まあ、間違いではないが」
ガンツさんの話を聞いてリーサさんに悪いことをしたなと思い後で謝ろうと誓う。

「それで?」
「え? 何?」
「それで、お前はこの後、どうするんだ?」
「どうするって……特には決めてないけど。そうだね王都に行って、もうちょっと倉庫とか増やしておこうかな」
「分かった。なら、ワシも一緒に行こう」
「え? いいよ。一人で出来るし」
「何を言うか。いいから、ほれ。さっさと繋げ!」
「もう、分かったよ」
王都の港湾施設に転移ゲートを繋いで、ガンツさんと一緒に潜る。

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