上 下
327 / 468
連載

◆説明しました

しおりを挟む
気を取り直して、この『海中展望台』についてガンツさん、リーサさん達に説明する。
「まず、この透明なのはおなじみのスライム樹脂です」
「まあ、それは分かった。だが、なぜそれで平気なのかということだ」
「そこはね、厚めのスライム樹脂を重ねて貼り合わせて透明な壁に仕立てた後に、この施設の回りに薄く障壁を張っているんだ。だから、多少の水圧には耐えられるんだよ」
「なるほどのぉ~しかし、水中でこれなら、船の底にも着けたら面白そうだな」
ガンツさんがポロリと零した言葉に前世での海中遊覧船が頭に浮かぶ。
「ガンツさん! それ、いい! 絶対、作ろうね」
「お、おお。それはいいが、お前は呼ばれているんじゃなかったのか?」
「呼ばれている?」
ガンツさんにそう言われ、はてと考えているとセバス様に来るように言われていたことを思い出す。

「ああ、どうしよう」
「どうしようじゃなく、急いだ方がいいんじゃないのか?」
「あ、そうだよね。じゃ、行くね。リーサさん、またね」
そう言って、転移ゲートをデューク様のお屋敷に繋いで潜っていると「待て!」と言われ、転移ゲートから出ようとしたところを抑えられる。
「セバス、その穴の向こうの様子を見て来るんだ」
「分かりました。旦那様」
転移ゲートを繋いだままの状態にさせられ、セバス様が『海中展望台』へと足を踏み入れる。
「これはまた……」
「セバス? どうしたセバス?」
返事をしないセバス様に慌てたデューク様も転移ゲートを潜ったので、俺も『海中展望台』へと戻り転移ゲートを閉じる。

先にここへ来たセバス様はまだ呆然と目の前を泳いでいる魚たちを凝視している。
そして、デューク様も同じだ。

「ケイン、お前はお屋敷に行ったはずだろ? それがなんで二人を連れてくることになったんだ?」
「ガンツさん、それがさ……」
ガンツさんに事の成り行きを話す。
「ははは。そりゃ領主殿からすれば、いつもと感じの違う、少し暗いこんな場所からお前が出てくればまた何かしでかしたのかと気にはなるだろうな」
「そうかもしれないけどさ。その俺が何かしでかすのは前提なんだね」
「まあ、実際そうだろ」
ガンツさんが『何を言ってるんだ』とばかりに、嘆息する。

ジッとしたまま動かないデューク様達に声を掛け、こっちに戻って来てもらう。
「デューク様! セバス様!」
「「ハッ!」」
「ケイン!」
「ケイン様!」
「「これはなんだ(ですか)?」
「え~」

デューク様達にこの『海中展望台』の説明を済ませ、転移ゲートでお屋敷へと戻る。
執務室のソファに座り、今日呼ばれた理由を改めて尋ねる。

「ああ、もういいわ」
「いいんですか?」
「ああ、王太子に港の光はなんだと聞かれてな。お前に聞こうと思って呼んだんだが、ああもとんでもないものを見せられちゃあな」
「そうですね。あの光景は素晴らしいものでした。うんうん」
セバス様が海中の光景を思い出したのか、上を仰ぎながら恍惚としている。
「セバス、仕事にならないから、戻って来い」
「は、すみません。私としたことが」
セバス様をなんとかこっちに引き戻したデューク様がはぁと短くため息を吐くと俺に言う。
「で、ケインはアレを公開するのか?」
「した方がいいですか?」
「……」
「デューク様?」
「分かっている。アレを公開すれば大騒ぎになるだろうな」
「じゃあ、止めときますか?」
「いや、でも……」
「どうします?」
「……」
デューク様は悩んでいるが、いい答えが浮かばないようだ。
一般公開すれば、王都の住民どころか珍し物見たさに周囲の街や村から王都に見物人が殺到するだろう。しかし、限定公開とすれば話を知った庶民達から反感を買うのは免れないだろうことを悩んでいるのだろう。
「旦那様、少しよろしいでしょうか」
「セバス、何かいい考えがあるのか」
「はい。こういう難しいことは上に投げればいいのかと」
「上……つまり、王太子に全てを任せるということか」
「はい。そして公開範囲を限定するのか一般公開するのかを決めてもらうのですよ」
「なるほどな。王太子が決めたとなれば、誰も文句は言えないか。しかし、限定公開となると既に存在を知ってしまったドワーフタウンの住民をどうするかだな」
「それなら、大丈夫ですよ」
「ケイン、それはどうしてだ?」
「簡単です。同じ物をドワーフタウンに作るからですよ」
「「……」」
俺の発言にデューク様達が無言になる。
「どうしました?」
「いや、いい。そうだよな。お前はそういう奴なんだよな」
「はい。そうでした。私もうっかり忘れていました」
「まあいい。それで、ケインよ。王太子に決めてもらう前に王太子にアレを見せる必要がある。いつ頃なら出来る?」
「なら、それは施設見学のラストにしましょう」
「ほう、施設見学の目玉にすると言うのだな」
「そうです」
「うん、分かった。なら、その方向で進めよう。セバス、頼むな」
「はい。賜りました」
「では、お話は終わりでしょうか?」
「ああ、すまなかったな。でも、今度からは一声掛けてからにして欲しいと思うがな」
「旦那様、そうは言われても事前に説明されても分かるとは思えません」
「だよなぁ~」

悶々とするデューク様を後に『海中展望台』へと転移ゲートで戻る。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。

やすぴこ
ファンタジー
「ジョセフィーヌ!! 貴様を断罪する!!」  王立学園で行われたプロムナード開催式の場で、公爵令嬢ジョセフィーヌは婚約者から婚約破棄と共に数々の罪を断罪される。  愛していた者からの慈悲無き宣告、親しかった者からの嫌悪、信じていた者からの侮蔑。  弁解の機会も与えられず、その場で悪名高い国外れの修道院送りが決定した。  このお話はそんな事情で王都を追放された悪役令嬢の素性を知らぬまま、修道院まで護送する下級兵士の恋物語である。 この度なろう、アルファ、カクヨムで同時完結しました。 (なろう版だけ諸事情で18話と19話が一本となっておりますが、内容は同じです) 2/7 最終章 外伝『旅する母のラプソディ』を投稿する為、完結解除しました。 2/9 『旅する母のラプソディ』完結しました。アルファポリスオンリーの外伝を近日中にアップします。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。