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「ガンツさん!」
声を掛けられ振り向くと、少し不機嫌なガンツさんがいた。
「それはしょうがないでしょ。だって、ガンツさんなんだからさ」
「そうよね。ガンツだし……」
「ガンツだからな」
俺の後に続いてアンジェさんにリーサさんまでそんなことを言うもんだから、ガンツさんが「ぐぬぬ」と唸る。

「それで、ガンツさん。感想は?」
「ふん! 感想と言うても殆ど何もないじゃないか。壁と塔ばかりだしな」
「だから、それはこれからだって話したでしょ。もう!」
「まあ、感想と言われても広すぎて何も見て回ることも出来ん。ここで車を出すと走り回っている子供達が危険だしな」
「そういうのは後でいいでしょ。でも、何もないと走るしかないもんね」
「ここはケインが何か遊び場を用意するところじゃないのか?」
「遊び場……遊びねぇ……」
「さすがに『まさかのケイン』でも難しいか?」
さっきの意趣返しなのかガンツさんがニヤリと笑う。そうですか、そういうつもりなら任せてもらいましょうかと、俺もニヤリとガンツさんに笑って見せる。
「ほう……なら、見せてもらおうか。ケインの「もう、何言ってんのガンツ! ほら、あなたも手伝うの!」……あ、もういいところだったのに」
ガンツさんがアンジェさんに引き摺られながら、港湾施設の方へと向かうのをリーサさんと見送る。

「リーサさんはいいの?」
「ああ、アンジェがたまにはと……」
リーサさんが顔を赤らめ手を伸ばしてくるので、俺もその手を取り防波堤の先へと歩いて行く。

灯台の下まで来ると、リーサさんが灯台を見て、感心した様に眺めた後に言う。
「昨夜、海の方が明るいと思ったら、コレだったんだな」
「うん、あった方がいいかなと思ってね。遠くからでも目印になるしさ」
「ああ、そうだな。それで、ここに来たからには何かあるんだろう?」
リーサさんが何かを期待しているような目になり、どこかワクワクした感じを見せる。
期待されているな~そう思うとその期待に応えようと地面に手を着けると「見ててね」と言って、地面に魔力をながす。
「うん、これでよし!」
「ん? 何をしたんだ?」
リーサさんは俺が何をしたのか分からないと不思議そうな顔をしているので、その手を取り、「こっち」と灯台の中へと入る。
「ケイン、どこへ行くんだ?」
「いいから、いいから」
灯台の中へ入ると中央に設定しているエレベーターに乗り込み『B1』と書かれたボタンを押す。
「『B1』? いやいや、ここはもう海の上だろ?」
「いいから、いいから」
エレベーターの扉が閉じると、一瞬浮遊感を感じた後に『チン』と音がして、エレベーターの扉が開く。

「うわ……」
リーサさんが一言、そう言ったきり目の前の景色に釘付けになる。
そして、俺はその光景に一瞬、見蕩れるがハッと我に返り、今の情景をカメラで切り取る。

しばらくして、興奮した様子のリーサさんが俺を見るとバッと手を広げるとガシッと俺の両手を握り「凄い!凄いよ!」と連呼する。
「リーサさん、落ち着いて。ね、いい子だから」
「これが落ち着いていられるか! なんなんだこれは!」
まだ興奮が収まらないリーサさんが目の前に広がる景色を指差す。

「何って、海中でしょ?」
「だから、何を当たり前のことの様に……って、そうか。これがケインだったな」
リーサさんが自分の発言に気が付いたのか興奮がやっと収まる。

「それで?」
「え?」
「『え?』じゃなく、説明して欲しい。何故、海中でも平気なのかと」
「ああ、そういうことね。じゃあ、簡単に「待て!」……え?」
「ワシにも説明してもらおうか」
「そうね、私も聞きたいわ」
『お、あれが魚か』
『あれって食えるの?』
『潮の流れが見える』
「ねえ、あれって何?」
「うわぁ、見たことないのが一杯! お母さん、ほら」
リーサさんに説明しようと思っていたら、ガンツさんが割って入って来た。

「え? ガンツさん、どうしてここに?」
「いや……な……お前がリーサと手を繋いで、灯台の方に行くのに気付いて、黙って見ていたらな……アンジェが『気になるわね』って言うもんだからな」
「あら? あなたも乗り気だったじゃないの。それにケイン君が地面に魔力を流した瞬間に飛び出しそうになっていたじゃない」
「まあ、分かりました。それで、子供達は?」
「子供達はお母さんが気になるのが気になって……ね」
アンジェさんがそう言ってお母さん達の顔を見ると、身に覚えがあるのかサッと顔を逸らす母親が数名いた。

「分かりました。でも、よくエレベーターに乗れましたね」
「いや、階段を使った。さすがにエレベーターにこの人数は乗れん」
「それで、忍び足で下りてきたと」
「いや、普通に何があるのかとワクワクドキドキとはしゃぎながら下りてきたぞ。考えても見ろ。こんなのを見せられて子供達が大人しくしてると思うか?」
「あれ? ってことは……」
「まあ、いつものことだな。回りが見えなくなるのはどうかと思うがな」
「「ああ~~~」」
リーサさんと二人、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。

「それはいいから、早く説明してくれ」
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