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◆やっぱり暴走するんだ

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岸壁に上がるとガンツさんが俺を睨みながら怒ったように言う。
「ワシに黙って随分と面白いことをしているじゃないか?」
「なんのこと?」
「惚けるのか? さっきまでマサオと楽しそうにしていたじゃないか! ワシはアレを見たことはないぞ?」
海面に浮いている水上バイクとゴムボートを指差してガンツさんが怒鳴る。
「そんなに怒らないでよ。乗りたいのなら、あとでいくらでも乗せるからさ。なんなら、今日の王都訪問をアレに乗って行ってもいいしさ」
「本当だな? 約束だぞ!」
「はいはい。で、俺達を呼んだのは? 単に羨ましかったからってのはナシだよ」
「それもあるが、もう時間も時間だぞ。遊び過ぎて時間も分からなかったか?」
ガンツさんにそう言われて気付く。既に日が暮れかかっていた。
慌てて、ゴムボートと水上バイクをインベントリに収納すると、じゃ八時にとガンツさんに確認した後に家に転移ゲートを繋いでマサオと一緒に潜る。

「『ただいま~』」
「おかえり~って、マサオ! どうしたの? ずぶ濡れじゃない! ケイン、先にお風呂に入りなさい!」
「は~い。ほら、行くよ」
『分かったよ』

風呂から出ると、夕食の準備が出来ていた。
「ケイン、今日は遅かったんだな」
「リーサさん」
『俺と遊んでいたからな。ホントにあと少しで掴めそうだってのにな』
「マサオと? それはまた珍しいな」
「リーサさん。マサオはいいからご飯にしましょう。ほら、ケインもなにをぼさっとしているの? 手伝いなさい!」
「は~い」

夕食をとりながら、父さんに王都のことを話す。
「そうか。その先は出来れば聞きたくないが、とりあえずは出店は出来るんだな?」
「うん、そう。今日このあとにガンツさんと少しだけ整備してくるから」
「今からか? まあ、お前のことだから無理しないだろうし大丈夫とは思うが。もう少しで雨が降りそうだぞ」
「ああ、それなら大丈夫! これがあるから」
そう言って、父さんにスライム樹脂で出来た雨合羽を見せる。
「父さん。まだご飯の途中でしょ。そう言うのはあとでゆっくり見ればいいじゃない。ケインも余分に用意しているんでしょ?」
「分かったよ。母さん」
父さんが少し名残惜しそうに手に取っていた雨合羽を俺に返す。

そして、夕食が終わりガンツさんとの約束の時間が迫って来たので、父さんに言って転移ゲートを開こうとすると母さんに止められる。
「ケイン。約束の物」
母さんにそう言われ、雨合羽とレインコートを母さんに渡す。
「へ~あんたでもこういうのを作るんだね~」
「そのレインコートは大事に扱ってね。リーサさん用に作ったヤツなんだからさ」
「私に?」
「そう。これがあればママチャリに乗るときも傘を差さないですむしね」
「ケイン……」
「リーサさん……」
「コホン! だから、そういうのは人目がないところでお願いね」
「「……」」

気を取り直して、転移ゲートをドワーフタウンの港に繋ぎいつもの様に潜るとマサオも着いて来ようとするのでお留守番だからと言い聞かせて自分だけ潜る。

ドワーフタウンはまだ雨は降りそうにないけど、これから海上に出るんだし着ていてもいいかと雨合羽を装着する。
ガンツさんに連絡し、頼むと言われたので転移ゲートをガンツさんの自宅に繋ぐとそこからガンツさんがのそりと出てくる。
「ケイン。まあ、妙な格好をしているな」
「そうかな? じゃ、ガンツさんはいらない?」
「いや、一応着ておこう」
ガンツさんにも雨合羽を渡す。

「で、どうするんだ?」
「ちょうどいい感じに雨が降りそうだから、それに合わせて王都に上陸して土地の生成と外壁を作ってしまうつもりだよ」
「まあ、夜に雨じゃよほどのことがない限り出歩くヤツも少ないか。だが、ワシ達も暗い中じゃ動き辛いぞ」
「ふふふ、俺がなにも準備しないと思うの?」
そう言って、ガンツさんにゴーグルを渡す。
「これがそうなのか? 単なるゴーグルじゃないか?」
「まあまあ、とりあえず着けてみなよ」
「えらい、自身たっぷりだな。まあ、着けろと言うなら着けるけどよ。ん?」
ガンツさんが着けたゴーグルを外したと思うと、また着けるという動作を何度も繰り返す。

「ケイン、どういうことだ? このゴーグルを着けると昼間の様に明るく見えるぞ?」
「ふふふ。分かってもらえた?」
「ああ、このゴーグルの凄さは分かった。分かったから、早く正解を教えてくれ!」
「え~もう正解聞いちゃうの? 早くない?」
「ぐっ……ワシも技術者として考えてはみたが分からん物は分からん。頼むからイジワルせずに教えてくれ!」
「もう、しょうがないな。答えはね。『光を増幅』させているんだよ」
「『光を増幅』? どういうことだ?」
「えっとね、密室でもない限りは完全な明かりが閉ざされた空間ってのは作れないと思うの。例えば、今だってちょっとした月明かりはあるでしょ?」
「ああ、そうだな」
「だから、その少ない光を増幅することで見えるようにしたのが、この『暗視ゴーグル』なんだ。ただ、光を増幅させるから、普通に明るいところで使ったり、光源を見ると失明するかもしれないからね。そこだけは注意してね」
「そういうことか。分かった。注意しよう。じゃ、行こうか」
ガンツさんに急かされる形で、海面に水上バイクとゴムボートを出す。

俺が水上バイクに乗ろうとするとガンツさんが俺の腕を掴んで止める。
「ケイン、ワシに乗せる約束だろ?」
「うん。だから、用意しているじゃない」
そう言って、ゴムボートを指差すがガンツさんが首を横に振る。

「ケイン。それは違うだろ」
少々イタズラが過ぎたようでガンツさんが俺の腕を少し強めに掴む。
「もう、分かったよ。でも、時間がないから二人乗りだよ」
「ああ、それでいい」
ゴムボートをインベントリに収納すると、ガンツさんと一緒に水上バイクに乗り、即席の運転講習を行った後に王都を目指す。
「ふふふ。なぜだろうな。海の上だと心が騒つく。まるで早く解放しろと言われているみたいだな。そうか、お前も早く走りたいんだな」
「ガンツさん。勝手に魂を込めないでよ。暴走したらどうすんのさ」
「そうは言うがな。なにも障害物がない海上でチンタラと走るのはコイツにとってもよくないと思うぞ?」
「う~気持ちは分からないでもないけどさ」
その時に頭上から雨粒が落ちてくる感触に気付く。

「いい感じに降ってきたみたいね。じゃ、行こうか。ガンツさんお願いね」
「ああ、任せておけ! ワシに運転出来ない物はない!」
言うが早いかスロットルをいきなり全開にしてウィリーしながら走行する水上バイクに落ちそうになりながらもしっかりと踏ん張り、改良点を記憶しながらもただただ祈る。

「無事に着けますように!」
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