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◆なにかが掴めそうな気がした

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マサオに注意されるが、とりあえずは放っておく。
「まずはエンジンか魔導モーターのどっちにするかだな……よし、ここは魔導モーターでいこう!」
簡単な図面を起こして、ステンレス鋼とスライム樹脂で水上バイクの形を作っていく。
「水上バイクは、水を吸い込んで吐き出す仕組みだったよな。なら、水を吸い込む所にはフィルターが必要か。でも、細かくすると目詰まりしそうだし、大きすぎるとなんでも吸い込んで壊しそうだし。う~ん。ま、いいか。そう言うのは後で」
なんとなくフィルターの仕様を決め、製作を進めていく。

「これでいいかな……っと」
『出来たのか?』
「まあね。じゃ、試走と行きますか」
『ガンツは呼ばなくてもいいのか?』
「え? ガンツさんは作っている最中だろうから、呼ばなくてもいいでしょ」
『でも、新しいのを作ったと知ったら……』
「いいの! マサオが言わなきゃ分からないんだから!」
『ええ! 俺?』

マサオが言うのもその通りなんだけど、まずは自分で試さないとね。それにライセンスが必要と言われたらまた乗れなくなっちゃうし……って訳でまずは試走だ。

インベントリに収納した水上バイクを岸壁から、海面にそっと出す。
「よし! まずは浮いたからOKっと。じゃ、乗ってみますか!」
思わず顔がニヤける。
「バランスはOK。スロットルも回る。前後進にニュートラルのシフトレバーも動くね。じゃ、魔導モーター起動!」
シュルルルと魔導モーターの回転音が水上バイクの下から聞こえてくる。シフトレバーはニュートラルのままでスロットルを回すと魔導モーターの回転音が高くなる。
「じゃ、行きますか!」
シフトレバーを『前進』の位置にしてから、右手のスロットルを徐々に開く。すると、ゆっくりと水上バイクが動き出す。
「うん、ちゃんと進むね。なら、次は『後進』と」
右手のスロットルを戻し、シフトレバーを『後進』の位置にしたのを確認してから、スロットルを徐々に開くと、ゆっくりと進んでいた水上バイクが止まったと思うと、今度は後ろ向きに進み出す。
「後進もOKっと」
次に前進しながらの旋回を左右とも試し、少し速度を上げての旋回も試す。
「いいじゃん! 上出来だね!」
その時、ふと岸壁を見るとマサオが面白くなさそうな顔をしているのに気付く。

「どうしたの? マサオ」
『どうしたじゃないよ! ケインだけ、そんな面白そうに楽しんでばかりじゃん! 俺、つまんない!』
「つまんないって……よし、マサオ、そこからコレに乗って!」
『コレ? コレって、この平たいのか?』
マサオがインベントリから出したスライム樹脂のゴムボートを見て言う。
「そうだよ。ほら、早く!」
『大丈夫だよな? 俺が乗って沈むことはないよな?』
「なに? 怖いの? なら、ずっとそこで見てればいいじゃない!」
『こ、怖くなんかあるもんか! ただ、俺が乗って大丈夫か聞いただけだろ!』
「はいはい、いいから、乗るんなら乗って!」
『わ、分かったから……乗るぞ! 乗るからな!』
ゴムボートに乗りやすいようにと岸壁近くに着けているのに、届かない前足を必死に伸ばしているマサオがなんとなくおかしくて、そのままマサオに対し『浮遊』を使いゴムボートの上に乗せる。

『よ、余計なことを』
「いいから、ちゃんと踏ん張ってないと落ちるからね。いいね? 俺は言ったからね!」
『踏ん張る?』
「そう、ちゃんと四本の足で踏ん張ってないと落ちるからね! じゃあ、行くよ!」
『なんかよくわからないけど……お、おお』
マサオを驚かせないように水上バイクをゆっくりと前進させる。
「どう、大丈夫?」
『ああ、まだいけるぞ!』
「分かった。じゃあ、もう少し出すね」
少し速度を上げると、マサオが機嫌良さそうにしているのが分かる。でも、この速度で旋回するとマサオが落ちるので、速度を落としゆっくりと旋回しているとマサオから声が掛かる。
『なあ、ケインはもっと速く旋回してたろ? あれで、回ってくれよ』
「いいの? 落ちるよ?」
『ふん! 誰に対してモノを言ってるんだ? 俺様だぞ! いいから。ギューンってやってくれ!』
「分かったよ。ギューンって回ればいいんだね?」
『ああ、ギューンだ』
「そう……ギューンだね」
『お、おい、ケイン。その顔は……お前がその顔をする時は……あ、やっぱり止めとこうかな。な、ケイン。気が変わった。やっぱりゆっくりでお願いします!』
「いいよ、マサオ。そんなに遠慮しないでよ。ちゃんとリクエストに応えるからさ。ギューンってね」
そう言って、後ろのボートにしがみつくように踏ん張るマサオに笑って見せる。
『あ、ああ~ダメだ。その顔はダメだ……』
スロットルを徐々に開き、やがて最高速度に達すると、思いっきり急旋回をする。
『あばばば……』
「大丈夫みたいだね」
まだゴムボートにマサオが乗っていることを確認すると、そのまま右に左にと急旋回すると、『バシャーン』となにかが海面に落ちた音がする。
「ん?」
後ろのゴムボートを確認するとマサオがいなかった。
「どこで落としたかな……」
走ってきた海面をくまなく探す。すると海面から鼻だけ出して呼吸しているマサオを見付けたので。そのまま『浮遊』で水上バイクの後部座席に体を横にして寝かせる。

「大丈夫?」
『……った』
「え?」
『怖かった! 言われた通りに踏ん張っていたのに! なにもすることが出来ずに海に放り出された! 凄ぇ~怖かった!』
「ごめん、マサオ」
『でも、面白かった! なあ、もう一回いいか?』
「え? 怖かったんじゃ……」
『怖いぞ! でも、それ以上に楽しかった! 面白かった! だから、もう一回! な?』
「いいの?」
『おう、いいぞ』
ずぶ濡れのマサオを『浮遊』でゴムボートに乗せるとマサオはブルブルっと水を飛ばしてから準備OKとばかりに俺に合図する。
「分かったよ。じゃあ、行くね」
『おう!』
マサオの返事を待って、水上バイクを最高速度までもっていくと、急旋回を繰り返す。
しばらくは後ろから『うぉ~』『ふはは!』とか聞こえていたが、急旋回を繰り返す内に『ぬおぉぉぉ~』と叫んだ後で『バシャーン』と音がする。

落ちたマサオを拾い上げると『もう一回!』とお願いされ、また急旋回を繰り返し、海面に放り出されるのを何度も繰り返すだけだった。

「なあ、マサオ。もういいだろ?」
『い~や、まだだ。もう少しでなにかが掴めそうな気がする! もう一回だ!』
「掴むってなにをだよ、もう」

その後、岸壁から叫ぶガンツさんの声に気付くまで何度も急旋回を繰り返した。
「岸壁から呼んでも気付かないのはマズいか。『拡声器』がいるかな……」
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