上 下
295 / 468
連載

◆悲鳴が聞こえました

しおりを挟む
レイラさんがお茶を淹れている間もドズさんはなにかブツブツと呟いている。
多分、自分達だけが移住した場合のこととかを考えているのだろう。
もし、この里で自分達だけが移住したとなれば里の皆から疎まれ、村八分になることを予想しているんじゃないかな。そろそろ助けてみるかな。
「ドズさん、もしかして自分達だけ移住した場合のこととか考えている?」
「ケイン君……なんで。ああ、確かに俺達だけ移住したとしたら、里の連中も良くは思わないだろう。それなのに俺達だけ移住してもいいんだろうかと考えると……」
「なんで、ドズさんだけと思うんです?」
「ん? ケイン君。君はなにを言ってるんだ?」
「いや、俺はドズさん達だけ移住させるとか言ってないですよ? ただ、移設するなら里には戻れなくなりますよって、忠告しただけで」
「え?」
「だから、ドズさん達と同じように家ごと移住したい人がいれば、受け付けますよ。職がなくても向こうに働ける場所はいくらでも用意できるし」
「ケイン君、よく分からないんだけど、移住のことは誰にも秘密にしなくてもいいのかい?」
「ええ、構いませんよ。どっちかというと、お仲間を増やして欲しいくらいです」
「でも、ケイン君は、この里ごとの移住を白紙に戻したんじゃないのかい?」
「ええ、そうですよ」
「でも、個人単位、家族単位なら受け入れるとそういうことかい?」
「ええ、そうです。その場合、家は各自で用意してもらうことが前提ですけど移設なら俺の方で面倒をみるということですね」
「そうか、分かった。この話を他の連中にもしてみるよ」
「あ! なら、ついでに学校に通わせたい人がいるなら、それも教えて欲しいかな」
「学校か。それはいいが……そんなに受け付けて大丈夫なのかい?」
「まあ、なんとかなるでしょ。じゃ、これを」
ドズさんにインベントリから出した白紙の束を渡す。

「これは?」
「もし、学校に通わせたいって人がいたら、その子の名前と年齢、性別と保護者である親の名前を書いて俺に渡して下さい。あと、移住する人は家族構成として、家族の名前、年齢、性別、機能する職種を書いてもらって下さい。あ、職種は第三希望まで書いて下さいね」
「お、おう。分かった」
「学校は九月始まりなので、その一週間前くらいまでには俺に届くようにして下さいね」
「はぁ、分かったよ」
「じゃ、お願いしますね」
「あら、お話は終わったの?」
「ええ、ドズさんにお願いすることが出来ましたから」
「そう、ならドズもご馳走になったら? このお菓子はケイン君が持って来てくれたのよ」
「お菓子? どこに?」
「どこにって……ダズ、リズ……」
「「ごめんなさい」」
テーブルの上に出したお菓子がいつの間にか消えていたので、ドズさんがお菓子ってなんのこと? となるのもしょうがないだろう。
まあ、ダズとリズを責める訳にもいかないので、激甘のお菓子を二人の前に出し、ドズさんには甘さ控えめの焼き菓子を出す。
「ケイン君、これすっごく甘い匂いがするけど、大丈夫?」
「ええ、もう当分甘いものは遠ざけたくなるくらいに甘いですけど、ダズ達にはちょうどいいかもしれませんね」
「そうなのね。じゃ、私も少しだけ……」
そう言って、レイラさんが激甘のお菓子にフォークを突き刺し一口大にすると口の中に放り込む。
「うわぁ」
「どうです? 一応、王都で名のあるお店の物ですけど」
「貰った物にアレだけど……」
「やっぱり、ダメですか?」
「うん、ケイン君がさっき言ってたことがよくわかるわ」
「「そうかな?」」
「ダズ、リズ、あなた達は平気なの?」
「「うん! 美味しいよ」」
「「「『……』」」」
「マサオ、ごめんな。あれ、お前のオヤツにと思ってたのに」
『いや、いいから。俺でもあそこまで甘いのは……流石にな』
「あら? よかったの?」
『いや、本当に助かるから』

お茶を飲み干した後は、ドズさんに里の人達にちゃんと移住のことを言っとくようにお願いして、ドワーフタウンの工房にゲートを繋いで帰ろうとしたら、家の外から『ぎゃ~~~~~』といきなり悲鳴が聞こえた。
「なにがあったんだ?」
「里長の家の方だわ」
「ダズ、リズは家の中から出ないように!」
俺も家の外に出ようとすると、ドズさんに止められる。
「ケイン君、君も家の中にいてくれ」
「いえ、俺も確認したいし。いざとなれば逃げることは出来ますから」
「そうか、君はそうだったな」
ドズさんも納得してくれたので、二人で家の外に出ると、同じように家の中から出て来た人達と悲鳴の聞こえた方向、里長の家の方へと歩いていく。

里の男の人が全員集まったようで、中にはダリルさんの姿もあった。
「ケイン君、来てたのかい」
「ええ、ドズさんに用がありましたので」
「そうか。君もさっきの悲鳴を聞いたんだね?」
「ええ、里長の家の方から聞こえたみたいですが」
「ああ、そうだ」
「少し前に里長には会ったんですけどね」
「だが、悲鳴は男じゃなく女性の声だったぞ?」
「あれ? 里長の家の中から女性の声って、言うことは……もしかして」
「ああ、ナーガ様だろうな」
「そうですか。じゃあ、俺はこの辺で……」
「まあ、待て。そんなに急ぐことはないだろう。それに悲鳴の原因についてもなにか知っているようだしな」
「まあ、思いつくことがあるかと言われれば、十分に思い当たることがありますが……」
「ほう。よければ私に話してみてくれないか」
「はあ、分かりました」
ダリルさんに詰め寄られ、嘘をつくのも悪いかと思い正直に話すことにした。
ステンレス鋼板の鏡を用意し、少しだけ湾曲させ凹面鏡に仕上げると周りに木枠で囲いダリルさんに見せる。
「これを見てナーガ様は悲鳴をあげたかもしれないと言うのか?」
「これで?」
ドズさんも横から鏡を見ているが、よく分からないようだ。

「なにも感じませんか?」
「特にはなりも感じないが」
「そうですか。じゃあ、種明かしをすると、この鏡は少し横に太く移します」
「ん? そう言われると少し横に太いような気はするな」
「ああ、そうですね。じゃ、これを見たナーガ様が悲鳴をあげたのって……」
「そうです。自分の予想以上に太った姿を見ての悲鳴なんでしょうね。ああなってから、しばらくは自分の姿を見てないようだったので」
「そうか。なら、納得だな。で、ケイン君。ものは相談なんだが、これをもらってもいいかい?」
「別に構いませんけど、どうするんですか?」
「いやね、カミさんに見せてみようかと思ってな」
「ダリルさん、悪戯するのはいいですけど俺の名前は出さないでくださいよ」
「分かってる、分かってる。じゃ、これで解散でいいな。ほら、皆も解散だ。後は里長に任せていいだろ」
「「「「「はい」」」」」

「行っちゃった。ドズさん、ダリルさんのことは頼みましたよ。俺にとばっちりが来ないようにして下さいね」
「やっぱり、なにかあるよね」
「ええ、絶対に」
「はぁ」
「じゃ、俺は戻りますね。行こうか、マサオ」
ゲートをドワーフタウンの工房へと開くとマサオと一緒に潜る。
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

天災少年はやらかしたくありません!

もるもる(๑˙ϖ˙๑ )
ファンタジー
旧題:チート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?! 【アルファポリス様にて発売中!!】 「天災少年はやらかしたくありません!」のタイトルで2022年10月19日出荷されました! ※書籍化に伴い一部を掲載停止させて頂きます あれ?何でこうなった? 僕の目の前の標的どころか防御結界が消滅。またその先の校舎の上部が消滅。 さらにさらに遠く離れた山の山頂がゴッソリと抉れてしまっている。 あっけにとられる受験者。気絶する女の子。呆然とする教員。 ま……まわりの視線があまりにも痛すぎる…… 1人に1つの魂(加護)を3つも持ってしまった少年が、個性の強い魂に振り回されて知らず知らずの内に大災害を発生させて、更なるチートで解決していく物語です! 書籍化記念書き下ろし 天災少年はやらかしたくありません!スピンオフ Stories https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/842685585 第2部『旅行中でもチート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?!』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/979266310 第3部『ダンジョンでもチート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?!』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/211266610

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。