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◆美味でした

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ヨサックさん夫妻を家に戻し工房へと向かう。
「あ! そうだよ。なんで忘れるかな~」
「ん? どうしたケイン?」
「チーズのことばかりで、牛乳をもらうのを忘れてたよ」
「なんじゃ、そんなことか」
「そんなことって言うけどね、身長を伸ばしたい俺には必要な物なの! 忘れない内に買いに戻らないと。あ、でも入れる物がないや」
「入れ物なら作れば良かろう」
「それもそうだね。じゃ、行こうか」
ゲートを工房の自室に繋ぐと、手持ちのステンレス板でミルク缶を幅二十五センチメートル、高さ三十五センチメートルくらいを十個急いで作り上げると、ヨサックさんの家の前にゲートを繋ぐ。

ヨサックさんの家の扉をノックし、ヨサックさんを呼ぶ。
「ヨサックさ~ん、いますか~? いますよね~」
「誰だ? って、ケインかよ。どうした?」
「どうしたって、チーズばかりで牛乳を売ってもらうのを忘れてたから」
「ああ、そうか。まだ残ってるかな~」
そういって、ヨサックさんが家から出てくる。

「こっちだ」
ヨサックさんに言われ後を付いていくと、そこにはタンクが置かれていた。
「で、どんだけ欲しいんだ?」
「え~とね……」
インベントリから、作ったばかりのミルク缶を出すとヨサックさんに渡す。
「相変わらず、非常識だな」
「へへへ」
「褒めてないからな」
ヨサックさんにタンクから、全てのミルク缶に注いでもらったので代金を払おうとすると、ヨサックさんが手で制してくる。
「代金はいらない」
「え? なんでですか、払いますよ。いくらですか?」
「お前な、冷蔵庫とか、お酒とかもらったままじゃ、こっちが気を使うんだよ」
「でも、あれは俺からのお近付きの印なんだから、気にすることはないですよ」
「お前が良くても俺がダメなんだ。いいから、黙って受け取っとけ!」
「分かりました。そこまで言うなら引きましょう」
「おう、分かってくれたか」
「ですが……」
「ん? なんだ?」
「ここで受け取らなかったことを後悔しても知りませんよ」
「な! それはどういう意味なんだ?」
ヨサックさんがなにか言ってた気がするが気にせずにゲートを工房に繋ぎ潜っていく。

「お? 戻って来たか。 それで、そこまでしてなにがしたかったんだ?」
「な、なんのことかな?」
「お前が、たかが牛乳でそこまではせんだろ? で、なにがあるんだ?」

ガンツさんにバレているのなら、しょうがないと考えている商品というか、食べ物をガンツさんに話す。

「ふ~ん、まあバターはなんとなく分かるが、生クリームにヨーグルトか。それにアイスクリームなぁ」
『なんかうまそうな気がする。ケイン、なあ。それはいつ食えるんだ?』
「まあ、慌てない慌てない。まあ、ヨーグルト以外は短時間で出来るかな」
「よし! ワシも手伝おう。なにをすればいい?」
ガンツさんにはアイスクリームボールの仕組みを紙に書いて作ってもらう。
『俺は?』
「マサオは……特にないな」
『そんな……』
「まあ、待てって。今はないだけだから、少し準備が終わるまで待ってろって」
『ああ、分かったよ』

「次に生クリームを作るとして、確か作るのに遠心分離機がいったよな」
遠心分離機を作るために小さめの魔道モーターをインベントリから取り出すと、その回転シャフトに回転板を取り付け、上からカバーを被せると、そのカバーに分離した物が出てくるパイプを繋げる。

「これでなんとなくだけど、完成かな。後は試してみるだけと……」
「ケイン、また妙な物を作ったな。それはなにをするものなんだ?」
『俺の出番か?』
「まあ、ガンツさん。それはこれから分かるから。マサオはもうちょっと待っててね」
遠心分離機にミルクを注ぎ、それぞれのパイプの下に器を用意すると、スイッチをONにする。

『ギュォォォ~』と激しい音がするとパイプから目的の物が出てくる。
「出てきたね。これは成功かな?」
生クリームっぽいなにかを器から指で掬って舐めてみる。
「うん、これは生クリームだね。ガンツさん、マサオも食べてみなよ」
「ほう、どれ」
『ケイン、ちょうだい!』
ガンツさんが俺と同じように指で掬うが、マサオは無理なので、俺が指で掬ってマサオに舐めさせる。
「どう?」
「うっ! こいつは!」
『うまっ! もう少しちょうだい!』
ガンツさんもマサオも気に入ったようなので、インベントリから出した焼き菓子に乗せて二人に渡す。
「ほう、本来はこっちか?」
『なんでもいいよ、早く!』
ガンツさんとマサオに生クリームを乗せた焼き菓子を食べてもらう。

「ん、これはいいな」
『おいしい!』

「それで、ワシの作った物はどうやって使うんだ?」
「それはね……」
アイスクリームボールに氷と塩を適量入れると、内側の器に牛乳と砂糖を適量入れると蓋をして、マサオに渡す。
『ケイン、これはなに?』
「ちょっと、それを転がして。二十分くらいかな」
『え~』
「え~言わない! 時間を掛ければ冷たくておいしい物が出来るんだから」
『本当に?』
「本当だから、頑張れ!」
『分かった!』

「なあ、ワシは二十分もなにもなしか?」
「じゃあ、ガンツさんはこれ」
「なんじゃ?」
スラ樹脂で作ったペットボトルに牛乳と生クリーム、塩を入れた物を渡す。
「これが?」
「頑張って振ってね」
「ただ振ればいいのか?」
「そう。振っている内に変化するからさ」

しばらくしてガンツさんが振っているペットボトルの中身の様子が変わってくる。
「ケイン、これはいいのか?」
「いいよ! まだまだ振ってね」

また、しばらくしてペットボトルの内容が固形物と液体に変わっていた。
「まだか、ケイン……」
「いいよ、ガンツさん。いい感じだね」
「ふぅ疲れたぞ」
「まあまま、マサオもそろそろいいかな」
『本当に? じゃあ、早く食べようよ』

まずはガンツさんお手製のバターの試食だな。ペットボトルを切って手作りバターを皿に移す。
「これも焼き菓子でいっか」
インベントリから出した焼き菓子にバターを掬って乗せた物を二人に渡す。
「さあ、どうぞ」
「どれ……こいつは!」
『なんでもいいよ……うまっ』

二人の様子から気に入ってはもらえたようだ。
「じゃあ、次はマサオが頑張ってくれたアイスのお披露目だ!」
アイスクリームボールから、アイスを取り出すと、それぞれの皿に盛って渡す。

「これは!」
『うま!』
「二人とも気に入ってくれたみたいだね。じゃ、俺も」
アイスの入った器を見るとマサオが顔を突っ込んでいた。
「マサオ? なにしてんの?」
『ん? ケイン、これ美味いな!』
「はぁ……もういいよ。じゃあバターでも……ガンツさん」
「残りはもらっていくぞ。アンジェに食べさせてやらんとな」
「そんな……ガンツさん」
「なんじゃ、作ったのはワシなんだからいいじゃろ?」
「そんな……」
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