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◆金曜日だった?

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ガンボさんへのタイプライターの手解きが終わると、ガンボさんが「よし!」と気持ちを切り替えて、ドワーフの里の管理者への紹介状を作成する。

ガンボさんが太い指を使って、一本指でキーを叩く姿を後ろから見ていたガンツさんがにやけている。
「ガンツさん、なにを笑ってるの?」
「いやな、あのガンボが一生懸命にキーを叩くというか、一本指で打っているのが面白くてな。見ろ! あれ、熊と変わらんぞ。ぷっ」
「あ~ガンツさん、言いづらいけどガンツさんも変わらないからね」
「ん? マジで?」
「マジで。俺から見たら五十歩百歩だよ」
「むぅ~そうか。なら、ワシも笑っとられんな」

ガンボさんがタイプライターと格闘すること数分後、なんとか紹介状が出来上がる。
「ほれ、これを持っていって見せるがいい」
「どうも、ありがとうな。ガンボ」
「じゃ、これで」
「待て! このタイプライターな。まだあるんじゃろ? 置いてけ!」
「まあ、元々お土産代わりにと持って来ましたが、よくもう一台あるとわかりましたね?」
「これはドワーフ用じゃろ? なら、カーティスやメアリーには使いづらいものじゃ。ケインのことじゃから、そんなことを考えていないはずもなかろうと思ってな」
「ふふふ、敵いませんね。はい、これが一般用です。カーティスさん達に渡してください」
「おう、慣れるまでは多少苦労するが、慣れれば便利なものじゃて。ほれ、もうワシの用はすんだろ? さっさといくがええ」
「はい。じゃ、失礼しますね」
「じゃあの」
ゲートをドワーフの里へと繋ぐ。

ドワーフの里へと出ると里の様子を確認する。
「前に来た時とは、あまり変わっとらんようじゃの」
「そうだね。ガンボさんが定期的に人を入れてくれているみたいだね」
里の様子は荒れている様子もなく、定期的に人の手が入っている様子が見られる。

「家も荒れている様子はないな。害獣が入って来ている気配もない。本当に人だけが、いきなり消えたみたいな感じじゃの」
「でも、ゴーストタウンって訳じゃないよね」

そんな風に里の様子を確認しながら、目的の人物を探す。
名はクロード。年は三十代の男性。髭を生やし帽子を好む。
「ねえ、これって特徴っていうか、ドワーフの成人男性自体の特徴じゃないの? どう見ても個人を対象にはしてないよね?」
「そうか、なかなか的を射ていると思うぞ」
「え~でも、これってガンツさんやガンボさんでも当てはまるんじゃないの?」
「そうでもなさそうじゃぞ。ほれ、見てみろ」
そう、ガンツさんい言われ、ガンツさんが指差す方を見ると、そこにはガンボさんに教えてもらった特徴そのまんまの人物が、立ってこちらの様子を見守っていた。

「ん? お前は確か『ケイン』だったか? そっちのじいさんは知らないが」
「はい、俺はケインです。こっちはガンツさん。数十年前にこの里を出てから音信普通になっていた、アンジェさんの旦那さんと言えばわかりますか?」
「ああ、アンジェさんの! そうか、あんたがあのアンジェさんの」
「どのアンジェか知らんが、アンジェの旦那のガンツじゃ。よろしく頼む。これが、ガンボからの紹介状じゃ。今更だとは思うが、一応渡しておく」
「ガンボさんから?」
ガンツさんから渡された紹介状を開封しクロードさんが内容を確認する。

「紙を作るって? 本気かい?」
「うん、本気も本気。でね、どの木がいいかは、まだ検証が必要になりますどね。それで、検証用にそれぞれ数本ずつ伐採したいんですが、いいですか?」
「どうじゃ?」
「分かった。だが、今すぐとはいかないな。明日までに目印をつけておくから、また明日来てくれるか?」
「そうですか。じゃ、どれか数本だけでも持ち帰ることは出来ませんか?」
「なあに、持ち帰るのは心配はいらんぞ。ケインがやるからな」
「持ち帰る? こいつが?」
「ああ。だから数本だけ持ち帰りたいんじゃ。ダメか?」
「まあ、どうしてもというなら、今から案内するから、着いてきてくれ」
「ありがとうな」
「ありがとうございます」

クロードさんに着いて里を出ると山に入る。

「この辺のなら、数本置きに伐採してもらって構わない」
「この木ですね。分かりました。ガンツさんはこれで、お願いね」
「おう、まかせろ」
ガンツさんに魔導チェーンソーを渡し伐採をお願いする。
俺は、風魔法を薄く円盤状にすることで、木を伐採していく。
ガンツさんはガンツさんで魔導チェーンソーを使って、俺とほぼ同じ速さで伐採する。
チラッとクロードさんを見ると、口を開けたまま、その場で立っていた。
「あんなに口を開けてたら虫が入るんじゃないのかな?」
まあいっかと伐採しながら、インベントリに収納していく。
三十本近く伐採したところで、ガンツさんの元に向かう。
「ガンツさん、俺は三十本くらい切ったから十分だと思うんだけど、ガンツさんはどう?」
「くそ! 負けたか。ワシは三十には足りんな。だが、ケインと合わせても五十本はあるか。まあ、十分じゃろ。クロード! クロード?」
「ああ、まだ放心状態みたいね」
クロードさんの肩を叩いて、放心状態から覚醒させる。
「はっ! うわっ! ペッペッ……口の中が苦い。虫か?」
「クロードさん、気がつきました?」
「ん? そうだ! 木が妙な道具で……」
「これのことか?」
ガンツさんが、魔導チェーンソーをクロードさんに見せる。
「そう! これだよ、これ! どういうことなの? どこで買えるの?」
「気に入ったのなら、どうぞ」
「どうぞって、ケイン! そんな簡単にやりとりするもんじゃないだろ! いいから、返す」
「遠慮しないでいいですよ。ほら、まだありますし」
そう言って、インベントリからもう一台出して見せる。
「なんなら、予備にもう一つ渡しときましょうか?」
「いいのか! じゃない! ダメだ、そんな子供から物を貰うわけにはいかない」
そんなやりとりを横から見ていたガンツさんが、割って入る。
「なあ、クロードよ。お前は里の移住の時にケインを見ているんじゃろ?」
「ああ、そうだ。見てたな。いろんなことがいっぺんにあって、なにがなんだか分からない内にドワーフタウンの住人になってたな」
「そのケインをまだただの子供扱いするのは、ちょっと無理があるんじゃないか?」
「あれ? そういえばそうだな」
「うん、そういうことで。はい、渡しとくね。使い方はガンツさんに聞いてね」
「おう、まかせろ。なら、試しにこの辺を切ってみるか?」
「これだな。……で、どうやるんだ?」
「くくく、まあ、そう焦るな。まずは、このスイッチを押して……」

ガンツさんがクロードさんに魔導チェーンソーの使い方を指導している間にガンツさんが伐採した木をインベントリに収納して回る。

「こんなもんかな」
ガンツさんの伐採した分を収納し終わると、ガンツさんの元へ向かう。
するとガンツさんとクロードさんの周りには、さっきガンツさんが伐採した以上の木が散乱していた。

「ガンツさん! なにやってんの!」
「おう、ケインか。なんかなクロードの様子が一変しちまってな。止めるに止められないんだよ。どうしたもんかな」
「もう、今日は金曜日でもないだろうに」
クロードさんのそばにより、トントンと肩を叩く。
「俺の邪魔をするな!」
クロードさんが魔導チェーンソーを持ったまま振り返る。
「あぶな!」
クロードさんの持つ魔導チェーンソーをそのまま、インベントリに収納するとクロードさんの様子が変わる。
「あれ? 俺は一体なにを……」
「正気に戻ったみたいですね」
「あ、ケイン」
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